・・・・ました。

これはブログの女性読者さんから寄せられた話になる。
彼女は都内に住む30代のOLさん。
ちょうどその頃に格安物件を見つけて新しい賃貸マンションへと引っ越した
ばかりだった。
1人暮らしをしている彼女には少し広すぎる部屋の割に賃料が格安だった為、
何度も不動産会社に
それって事故物件じゃないんですか?
と確認したらしいがその度に担当者からは
絶対に事故物件でも瑕疵物件でもありません!
と断言されたらしく彼女もその言葉を信じる事にしたそうだ。
玄関を入ると長い廊下が続いておりその両サイドにはトイレや浴室、そして
洗面台や和室と洋間がありその突き当りに大き過ぎるリビングとキッチンが
広がっているという彼女にとっては夢の様な豪華な造りだった。
そして彼女は何処で寝ることにしようかと迷ったすえに、その大きなリビングに
ベッドを置いて寝る事にしたのだという。
しかし、その部屋に引っ越してから数日後には不可思議な現象が起こるようになった。
無言電話が頻繁にかかってくる様になり留守番電話は作動していたが何も録音
されてはいないという状況が続いた。
更に、午後11時を回った頃に玄関のチャイムが鳴らされるという事が何度も続き
その度にインターホンのカメラを確認するが誰の姿も映ってはいなかった。
そんな事が続いたある夜の事、彼女がいつものようにリビングのベッド
で寝ていると急に肌寒さを感じて目が覚めた。
時計を見ようとして体を起こすが何故か体が動かなかった。
彼女にとっては生まれて初めての金縛りだったそうだ。
いつも点けたままで寝ているはずの常夜灯も消えており部屋の中は圧し潰されそうな程の漆黒の闇が広がっていた。
彼女は体が動かない事でパニックになりジタバタと体に力を入れるがその度に
逆に締め付けられるかのようにより一層動けなくなっていく事に気付いた。
その時だった。
玄関からチャイムが鳴る音が聞こえた。
そして低い女の声で
こんばんは・・・お邪魔します・・・。
という女の声が聞こえたという。
今までチャイムが鳴っても姿が見えなかった相手が女だったのだと初めて悟ったという。
そして、今度は玄関のドアがガチャンと開く音が聞こえてくる。
え?
鍵は掛けてあるのに・・・どうして?
そんな事を考えながら彼女の頭の中はどんどんと恐怖に飲み込まれていく。
そして、何かが廊下を這ってくるようにズルッズルッという音が聞こえてきた。
その時の彼女は首すら動かせず唯一動いた眼で出来るだけの情報を得ようと
したが、はっきりと判ったのは、自分が今金縛りに遭っており、そして
何かが玄関から此方に向かって近づいてきている・・・。
そして、それはかなりの高確率で人間ではない…という事だけだった。
その時彼女は寝相良く仰向けで寝ていたが、それほど寝相が良い事を後悔した
事は無かった。
せめてリビングの入り口のドアに背を向けて寝ていたならばこれから自分が
視なくてはいけない何かを視なくても済んだかもしれないのに・・・・と。
しかし、その刹那、今度は何かがリビングの入り口のガラス戸の前に立ち上がった
様に見えた。
そして、それがガラス戸超しに此方をじっと見ている状況が手に取るように
伝わってきた。
彼女はもう生きた心地がしなくなっていた。
大声で悲鳴を上げられたら少しは恐怖も和らいだのかもしれないが、金縛りに遭っている
彼女にはそれすら叶わなかった。
そしてゆっくりとガラス戸が開き何かが此方へ近づいてきた。
ふらふら、よろよろと弱弱しく不安定な足取りで何かが確実に彼女のベッドへと
近づいてきていた。
彼女は何とかして目をつぶろうともしたらしいがどれだけあがいてみても
瞼が閉まることは無かった。
そして、突然何かが彼女の上に倒れこむようにして圧し掛かってきた。
恐怖で心臓がどんどん鼓動を速くしていく。
唯一彼女に出来たことは涙を流す事だった。
勿論、それは恐怖の為に自然に流れたものではあったが、そのお陰か少しは
自分の上に圧し掛かっているモノの姿がぼやけて映ってくれていた。
それはどうやら20代くらいの若い女性であり血まみれで顔もかなり損壊しており
とても正視できるものではなかった。
それがフーフーと荒い息をしながら彼女の顔を覗き込んでいた。
私・・・殺されてしまうの?
そんな考えが脳裏をよぎった。
と、その時、突然体が軽くなった。
何が起こったのか、わからないまま彼女は視線を動かして部屋の様子を探ると
どうやら、今しがたまで彼女の上に圧し掛かっていた女が彼女から離れて
ベッドの横に立ち尽くしていた。
最初はその姿すらも恐ろしかったがしばらく見ているとその女は首を傾げたり
何度も彼女の顔をまじまじと見たりしている。
そして何やら困ったようにオロオロしている様にも見えたという。
その様子を見ているとなんだか恐怖感も薄れていった。
それから彼女の眼には想定外の光景が映りこんだという。
恐ろしい姿の女が彼女の方を向いて小さくお辞儀をした。
それは見間違いなどではなく確かにペコリと頭を垂れてお辞儀したのだという。
何か起こっているのか、理解できない彼女を尻目にその女は少し落ち着かない様子で
そわそわしながら部屋から出ていき、そのしばらく後には玄関のドアが再び
閉まる音が聞こえた。
そして、その音と同時に彼女の金縛りは解けてくれた。
慌てて部屋の外に逃げた彼女だったが、それから冷静になって考えてみると、
あの女の霊はきっと彼女と誰かを人間違いしたのだろうと思った。
だから、お詫びの気持ちでお辞儀までしていったのだ、と。
そう思うと恐怖は完全に消えてしまいなんだかその女の霊が可愛らしくさえ
思えてしまいクスっと笑ってしまったそうだ。
それから数日後の朝、彼女の部屋の玄関前には何処で摘んだのかは分からないが
綺麗な花の束が置かれていたそうだ。
きっとお詫びのつもりで置いていったのだろうと彼女は思っているそうだ。
そして、彼女自身はいまだにそのマンションに住み続けており、またあの女の霊が
きてくれないか、と内心心待ちにしているそうだ。
今度会ったら
お友達になれませんか?
と聞いてみるつもりです。
彼女は楽しそうにそう話してくれた。

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