思い出したので書いてみる

これは富山の住職から以前聞いた話。
富山県の某所に古い寺がある。
小さくみすぼらしい寺ではあるが、住職もおり毎日のお務めも欠かさない、
そんなお寺だった。
そしてその寺の境内に隣接する空き地にはとても大きな桜の木があった。
根腐れを起こしているのか、かなり朽ちた桜の木。
いつ倒れるかもしれないその桜の木は地元でも危険視され近づく者もいなかった。
たった1人を除いては・・・。
それは車椅子に乗せられて月に1度は必ず桜の木を見に来る小学生くらいの女の子だった。
女の子は母親に車椅子を押してもらいながらその桜の木にやって来ると自分の耳を桜の木に押し当てて何かを聞いていた。
女の子はいつもこう言っていた。
うん、まだ元気に呼吸してる・・・。
心臓の音だってちゃんと聞こえる・・・と。
桜の木が肺呼吸などするはずもなく心臓がある筈も無かったがその女の子には確かにそれが聞こえていた様だ。
そして女の子は春になって桜の花が咲くのを何より楽しみにしていた。
桜の花が咲いている間は毎日母親と一緒にその桜の木へとやって来た。
その時の女の子はいつにも増してとても嬉しそうな顔になっていたそうだ。
その女の子はどうやら不治の病にかかっていた。
現代医学でも治療すら出来ずただ死を待つだけという病。
そんな女の子にとって桜の木は生きる糧になっていたのかもしれない。
そして、その事をそのお寺の住職も知っており更に富山の住職もそれを聞かされていた。
だから根腐れして危険な状態の桜を切り倒そうという話が出る度に彼らはそれに断固として反対した。
女の子の生きる希望を奪うものではない・・・と。
しかし、やがて女の子は病状が悪化し車椅子での外出すら出来なくなってしまう。
そして、ちょうどその頃、お寺の隣接地をとある会社が購入しその土地に駐車場を作ろうと計画した。
勿論、駐車場にする為にその桜の木も切り倒す計画になっていた。
彼らは当然反対した。
しかし法律的にはその土地は購入した会社に所有権があり自由に出来てしまうのは仕方がないところだ。
彼らの反対も虚しくその桜の木は切り倒されてしまった。
その土地はすぐに整備され駐車場になったが、桜の木が取り倒された直後、その女の子も亡くなってしまった。
そして、その駐車場にはいつしか幽霊が出るという噂が立つ様になった。
小学生くらいの車椅子に乗った女の子の幽霊だという。
駐車場の持ち主は霊能者に頼んで女の子の幽霊を除霊しようとした。
しかし、その話を聞いた時、彼らは違和感を覚えたという。
桜の木が大好きだった女の子が死んでからも桜の木を見に来ているだけ・・。
それを除霊などする必要があるのか?と。
しかし、隣接する寺と駐車場の持ち主とは同じ土地に住む者としての付き合いもあった。
だからあまり激しく反対や妨害も出来なかったのだろう。
そして、富山の住職はAさんにその役を依頼した。
事情を聞いたAさんはすぐに快諾してくれたそうだ。
わざとその霊能者が除霊をするという日に合わせてその土地を訪れた。
そして、いよいよ除霊を始めようかという霊能者と駐車場の階理解者に対してこんな事を言ったそうだ。
 
あなた達にはあなた達の考えもあるんでしょうね。
でも、あなた達がやろうとしている事は明らかに間違ってますよ。
あんたも霊能者を気取ってるんなら此処に来たらその女の子の声が聞こえる筈でしょ?
女の子は別に悪さをしようとしている訳じゃない。
桜の木があった場所に来たいだけなんだ・・・・。
あんたらにとっては桜の木に花が咲いたとしても「きれいだな」とか「花見でもしようか」
くらいにしか感じないんでしょうけどね?
でもね、ここに来ていた女の子にとっては桜の木は生きている証だったんだ。
此処にきて桜の木の鼓動を感じて会話する。
それが出来るのがどれだけ純粋で尊い事か、あんたらにわかるの?
女の子にとって春になり桜の花が咲くのは自分が生きていく糧だったんだ。
今年も桜の花が見られたから頑張って来年も桜の花を見たい・・・。
そんな思いで桜の花を見ていた女の子の気持ちがわかるの?
まあ、わからないからさっさと桜の木を切り倒したんだろうけど・・・。
そして、結果として女の子は桜の木が切り倒された事で生きる気力を失って死んでしまった。
私に言わせれば女の子を殺したのはあんた達なんだよ。
でもね、女の子は少しもあんた達を恨んでいないみたい。
ただ桜の木があった場所に死んでからも来たかっただけ・・・。
そんな女の子の霊を悪霊扱いして除霊するっていうんなら私は全力で阻止します。
全身全霊をかけて阻止させてもらいます。
それが大人としての私の役目だから!と。
その後、Aさんはその女の子の姿がその場にいる全員に視えるように何かをしたそうだ。
そして、Aさんが言う通り、その女の子の顔は嬉しそうに笑っているだけ。
それを視た管理会社の人間もその場で泣き崩れ何度も女の子に謝り続けていたそうだ。
そして、その土地はすぐに駐車場から空き地に変わった。
更に、10本以上の桜の木が植えられた。
それから年月が流れ今ではその土地は地元では桜の名所として春になると沢山の人がやって来て賑わう様になった。
そして勿論、その中にはその女の子もしっかりと混じっている。
車椅子ではなく自分の足で歩きワクワクした顔で嬉しそうに桜の木に抱きついているのが視える者にははっきりと見えるそうだ。

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