霊能者の資格

世の中には霊能者を名乗る者がそれなりに存在する。
その中には本物もいれば偽物もいる。
いや、その殆どが偽物と言って良いのかもしれない。
知り合いの霊能者であるAさんも以前よく言っていた。
この世の中には似非霊能者が本当に多いんです。
たとえば霊の姿が視えたり声が聞こえたり、なんとなく存在を感じる事が出来るというのはあくまで霊感があるというだけで霊能者ではありません。
霊能者というのは自分の霊感に気付き霊力をあげる為にしっかりと修行を積んだ者だけが名乗れるものですから。
そして、たとえ霊能者としてしっかりとした力量を備えたとしてもそれで終わりではない。
霊能者としての力を身に付けたとしたらそれを困っている人や霊の為に使うべきなんです。
勿論、必要経費として最低限の謝礼を受け取る事は問題ありませんが、その力を金儲けの道具として使おうと思って時点でその霊能者はもうお終いです。
どんどんと霊力は落ちていき、結果として過去の実績や栄光にすがって誤魔化しながら霊能者を名乗り続けるしかありません。
そういう霊能者は得てして宗教の教祖になったりしますから、つまりはそういう事です。
だから私は決して霊能者とは名乗りません。
面倒臭いですし好きに生きたいので・・・と。
そんな話を聞いてしまうと霊能者とは本当に気高く崇高な意思を持った者でしか成り立たないのかもしれない。
そして、こんな話を聞いた。
彼は5年ほど前にホテルの清掃係としてバイトしていたそうだ。
そのホテルはそれなりに格式も高く立派なホテルだったそうだが、ある日、そのホテルに1人の中年女性が宿泊された。
禁煙室でWベッドが備え付けられた部屋。
宿泊しているのはその中年女性1人だけであり、彼もその部屋に掃除に入る度に、一見するとごく普通の中年女性がたった1人でそんな部屋に泊まる必要があるのか?と不思議に思っていたそうだ。
そして、不思議な事はもう一つあった。
その部屋にはとにかく来客が多かったのだ。
カップルや夫婦、親子そんな来客がひっきりなしに訪れていた。
その中年女性はその部屋に3泊したらしいのだが、その間に20組を超える来客があり、その容姿や老若男女を問わない来客に彼は首を傾げるしかなかった。
 
しかも、その誰もが高価な貢ぎ物を持参して部屋を訪れるのだから謎は深まるばかり。
結局、彼がその中年女性の正体を知ったのはチェックアウト後の事だった。
どうやらその中年女性は占い師だったそうだ。
占い師に関しては俺もよく知らないが、霊的な力を持っていると豪語する方が多いのはよく知っている。
そして、その中年女性もその道ではかなり有名な霊能者であり占い師だったのだろう。
人間は何かを叶える為や助けてもらう為ならば、正常な判断すら出来なくなる。
だから、出来るだけ高価な貢ぎ物を持ってその占い師の元を訪れたのも容易に想像出来るのだが。
しかし、その占い師の女性がチェックアウトした後で部屋の掃除をしているとゴミ箱の中に高価そうな箱が捨てられているのを見つけた。
箱の封さえ開かれておらずその中には高価そうなベルトが入っていた。
そのまま懐に入れてしまえば窃盗罪になってしまうが彼はその事をホテルの上司に説明し相談したうえで、ようやくそのベルトを手に入れることが出来た。
要は数日待ってもその女性からの連絡もなく忘れ物を取りに来る事も無かったそうだ。
箱を開けると中には、イタリア製の高価なベルトが入っていた。
彼はかなり気持ちが高ぶったがそれでもそのベルトから何か嫌な気配も感じ取ってしまったのかもしれない。
それから数日後、彼は別のバイト先であるネットカフェのバイト仲間にその高級ベルトを譲る事になった。
どうしてそんな気持ちになったのかは分からないが、もしかしたらそのまま持っていたら大変な事になるという生存本能が働いたのかもしない。
そして、そのベルトを譲った翌日、そのバイト仲間はバイクに乗っていた際にタクシーに突っ込んでしまい意識不明の重体となった。
それでも2週間の危篤状態から奇跡的に意識を取り戻し現在もなんとか生活しているそうだ。
その事故は単なる偶然なのかもしれない。
しかし、彼にはそうは思えないそうだ。
あのベルトはヤバイ品物だったのではないか?
それは持ち込んだ者の呪いなのか、それともそもそもそのベルト自体に不吉なモノが憑いていたのかはわからない。
ただ、あれだけ沢山の貢ぎ物の中からその占い師はあのベルトだけをゴミ箱に捨てていった。
箱の封さえ開けずに・・・。
だとしたら、その占い師は故意的にそのベルトを捨てていったに違いない、と。
ただ、そんな認識で曰くつきの品物を扱うなどという時点でその中年女性は霊能者としても占い師としても失格であり欲に眼がくらんだ似非霊能者だと断定するしかない。
そんな危険な物をゴミ箱に捨ててしまえば、その後どんな事が起こるかなど考えれば誰にでも分かる事なのだから。
最後に俺は彼にこう話した。
偶然かもしれませんけどすぐにそのベルトを手放して良かったですね。
下手をすればあなたが犠牲者になっていたかもしれないんですから。
貴方は本当に運が良いんですね・・・と。
すると、彼からは予想外の返事が返ってきた。
彼がそのベルトをネットカフェのバイト仲間に譲ってあげたのにはどうやら別の理由があったそうだ。
ちなみに彼がそのベルトを手放した原因は、そのベルトを着けてトイレに行った際、ベルトがキツすぎてなかなかロックが外れてくれず、危うく漏らす所だったから・・・というものだった。
まあ確かに想定外の理由だが、そのお陰で彼の命が助かったと思えば安い物ではないだろうか?

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