お墓の意味

彼女の母親は彼女がまだ29歳の時にこの世を去った。
彼女が社会人になったのと同時期に母親の体には病巣が見つかりそれからずっと入退院を繰り返した末に母親は自宅で息を引き取った。
家に過ごすよりも入院している期間の方が圧倒的に長かった。
彼女が見舞いに行くと母親はいつも笑顔で元気に迎えてくれた。
そんな姿を見て彼女も母親の本当の退院が近いのだと確信していた。
実際、母親はそれからしばらくして退院し家に戻ってきた。
そして彼女にこう言ったそうだ。
「もう入院する事は無いから・・・」と。
しかし後で知った事だが母親はいつも凄まじい痛みと闘っていた。
それは常人には耐え難い程の・・・。
それでも彼女が見舞いに来るといつも明るく気丈に振舞ってくれていたそうだ。
そして家に戻ってきたのも確実な死を受け入れたうえで
「どうせ死ぬのならば最後の願いとして家族と一緒に過ごした自宅で死にたい」という
最後の我儘だったという事も知った。
決して長い時間一緒に居られたわけではなかったが彼女は母親から沢山の愛情を注がれ、
そして沢山の大切な事を教えられた。
だから母親が亡くなってからは毎週末のお墓参りを欠かす事は無かった。
母親のお墓に行き掃除をし花を新しくしてその一週間に起こった話を母親に聞いてもらうのだそうだ。
そうしていると生前よりも母親が近く感じられたし彼女自身もとても優しく穏やかな気持ちでいられた様だ。
しかし、ある時、彼女は友人からこんな事を言われた。
「お墓参りなんかしても意味無いよ。亡くなった人はお墓の中になんかいないんだから。」と。
そして、こんな事も言われたそうだ。
「本来、お墓っていうのは大切な人を失くした者がその喪失感を埋める為に作る物なんだから!
つまり遺族が心の拠り所として勝手に利用しているだけ!
亡くなった人へ抱いてる罪悪感とか懺悔をお墓に手を合わせる事で無かった事にする
為に利用しているだけ!
つまりは生きている人間のエゴの塊なんだから。
だからお墓は亡くなった人が住んでいる家でもなければ、亡くなった人そのものでもない。
そういう幻想から早く抜け出してさっさと独り立ちしなきゃ・・・と。
彼女としてはそれまで心の拠り所にしていた大切な物を侮辱された様な気持ちになってとても悲しかったが、確かにその友人の言葉にも納得できる部分はあり実際はどうなのか?
と俺に尋ねてきた。
勿論、俺にはそんな質問に答えられる能力も知識も無かったので、いつもの様にAさんに説明してもらう事になったのだが・・・。
最初は「そんなこと聞いてどうするんですか?」と言っていたAさんも彼女の不安そうな顔を見て真面目に答えてくれた。
先ず、お墓が亡くなられた方の家でそのお墓の中にずっといるというのは流石に違いますね。
自殺した人は自殺した場所から動けない事、そして殺人を犯した人は亡くなった時点で本人の意思とは別に既に行き先が決まっているというのは別問題として言いますけど、
亡くなられた方はある程度自分が何処に居たいかを決める事が出来ます。
大別するとこの世とあの世ですかね。
この世とかこの世の概念というのはその方が生前心の中に持ち続けていたイメージが具現化された世界です。
地獄という世界があり其処には閻魔様や沢山の鬼がいて亡者を苦しめる。
だから自分もきっとそうなる・・・・と思っている人はやはりそういう世界に行ってしまうみたいですね。
あの世というのは生前その人が持ち続けていたイメージが具現化される世界。
天国があって自分は其処でのんびりと幸せに過ごす、と思っている人はそうなるでしょうしネガティブな考えを持っていた人はやはりそういう世界に行ってしまいます。
つまり自分で考えてイメージした世界に行ってしまうという事です。
反面、この世に残るという選択をする方も多いんですよ。
誰か大切な人を見守りたい・・・。
大切な人を護りたい・・・。
生前とても大切な事をやり残した・・・。
そんな方達がこの世に残りますが、中にはごく僅かですが
誰かに恨みを晴らしたい・・・・。
誰かを苦しめてやりたい・・・。
誰でも良いから自分と同じ苦しみを与えたい・・・。
というサイコ的な思考でこの世に残る奴もいます。
だからこの世の中には沢山の霊が存在していてその中には悪霊も存在します。
でも、この世の残った霊の殆どは人畜無害であり、生者の味方だったり生者に無関心な霊ばかりです。
そして本題のお墓についてですけど、さっきも言いましたけど亡くなられた方はお墓の中には居られません。
この世に残った霊はその殆どがある程度自分の意志によって居場所を決めます。
だとしたら、わざわざ狭いお墓の中に居たいとは思いませんよね?
もっと広い場所だったり静かな場所だったり、人が多く賑やかな場所、つまり生前自分が住みたかった場所に行く事が多いです。
そして、それはあの世に行かれた方も同じです。
一度あの世に行くとなかなかこの世には戻って来られませんけど、やはりあの世でも自分がイメージした理想的な場所で過ごす事になります。
それと、大切な人や心配で見守っていきたい人を残して亡くなられた方はその殆どがあの世には行かずこの世に残って大切な人、見守りたい人の側にいます。
特に貴女の場合、お母さんは自分の意志でご自宅で亡くなられた。
という事は亡くなられてからもずっと貴女の側にいる可能性が高いですね。
貴女が気付いていなくても、もしかしたらお母さんは貴女に気付かれない様にしているのかもしれませんが、たぶん貴方の側にずっと居ると思いますよ。
そうなると、お墓というのはどんな存在意義があるのか?と疑問を持つと思いますけど、この世で暮らしている人間の中で霊の姿が視えるという方は本当に稀なんですよね。
昔は生者と死者の区別なく誰にでも視えていたという説もありますが今では生まれてからどんどんそういう能力が弱くなっていって次第に視えなくなります。
まあ、私的には霊なんか視えない方が幸せに暮らしていけると思っていますけどね。
そこでお墓がその存在意義を発揮するんです。
霊的な力が無い人でもお墓に行けば何かを感じたり場合によってはその姿が視えたり声が聞こえたりするんです。
まあ例えが下手かもしれませんけど、刑務所とか病院の面会を想像してもらえば良いのかもしれません。
お墓にお参りに行けば、高い確率で亡くなられたその方を感じることが出来る。
生者がいつでもお墓に行ける様に亡くなられた方もお墓に誰かがお参りに来ればそれがすぐに分かって自分の意志ですぐにお墓の中に行ってその人を感じたり出来るんです。
だからお墓は面会場所みたいな感じですから決して単なる石ではありません。
それにね、確かにお墓は大切な方を失くした悲しみから逃げる為の造作物かもしれませんが、亡くなられた方にとってもこの世に残してきた方がどれだけ自分の事を思ってくれていたかを知る為の大切なツールでもあるんですから。
何にしても何かあった時の心の拠り所があるというのは本当に助かりますよ?
誰かから何か言われたとしても自分の気持ちさえしっかり持っていれば全く気にする必要は無いと思います。
まあお墓参りが嫌いな私に言われても説得力が無いかもしれませんが、私がお墓参りに行かないのは今話したような理由からなんです。
こんな感じで大丈夫ですかね?
と言って説明を終えた。
その後、自宅に母親が居てくれているかもしれないと思い、必死に何かを感じ取ろうとした彼女だったがやはりそれは叶わず、その代わり、お墓参りに行くと最近では母親が自分に話しかけてくれる声が聞こえる様になったと喜んでいた。
 
と、本当はここで話しを終えるつもりだった。
しかし、過去にこんな相談があったのを思い出してしまった。
それはブログの男性読者さんからのものだったのだが、どうやら彼の先祖代々のお墓
が最近になって突然短期間で汚れだし墓石の表面にも何やら腐った皮膚のような
ものが貼りついているようになったという。
しかも、その墓は市が管理する霊園に在るそうなのだが、夜な夜なお墓の方から
女の泣き声が聞こえてきたり、また白装束を身に纏った細い女性の姿も沢山の
人に目撃されているのだという。
しかも、親切な人が泣いている女に近づいていくと急にゲラゲラと笑いだす。
その様子はとても人間のものとは思えないらしく何とかして欲しいと霊園の
管理事務所から連絡があったのだという。
彼の先祖代々のお墓の周りだけをふらふらと彷徨い歩いているらしく、彼としても
もしかしたら先祖の霊なのかもしれない、と思い荒療治は出来ない。
だからと言って墓石を他の霊園に移す費用など持ち得なかった。
一体どうすれば良いのでしょうか?というのがその相談内容だった。
とりあえずAさんに聞いてみると、昔話や物語のように先祖の霊が墓の外に
出てくるなどありえないとの事だった。
だから、
除霊や祓いのできる神社仏閣に依頼すればいいですよ・・・。
と言われ、それを彼に伝えた後、無事そのお墓にはよそ者の霊など現れなくなった。
話は変わるが、俺は先祖代々のお墓には行かないようにしている。
以前、嫌な出来事があったからなのだが、それからかなり後に、気持ちを入れ直して
お墓参りをした事があった。
しかし、それきり当家のお墓には一度も行っていない。
その時見た光景があまりにもトラウマになってしまった。
その時、俺が見た真新しい先祖代々のお墓には、所狭しとアマガエルがひしめき合って
くっ付いていた。
他のお墓には1匹もいなかったのに、どうして?
今でも妻や娘がお墓参りに行くと、あいかわらず数えきれないほどのアマガエルが
貼りついている様だから、もしかしたら俺には墓参りには来るな!
そう言っているのだろうと勝手に判断しているのだが・・・。

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