公園に蠢くモノ

これは兵庫県に住む男性から寄せられた話。
彼はカラオケ関係の会社で営業をしている。
営業といっても得意様ともなれば夜でも平気で呼び出されクレーム対応もさせられる。
いや、カラオケ関係の会社というのは昼間よりも夜の方が忙しいのだ。
彼の会社にも営業の他にカラオケ機器のメンテナンスを行う部門も存在しているがカラオケが主に使用されるのは飲み屋さんでありその営業時間は夜という事になる。
メンテナンスを行う人間の数に対して飲み屋さんの数は圧倒的に多すぎる為、彼の様な営業に直接トラブルやクレームの電話がかかってくる事は珍しくない。
確かに大変な仕事ではあるが忙しいのは基本的に夜間であり、その分昼間はかなり自由に使える場合が多く同僚たちも皆、夜の忙しい時間帯に備えて夕方まで公園の駐車場に営業車を停めてのんびり昼寝をする事も多いのだという。
そして、その日も彼は午後4時頃から公園にやって来て車の中で昼寝をしていた。
公園内には子供達が遊びまわりお年寄りが散歩していた。
そんな当たり前の風景の中で彼は静かに眠りに落ちた。
その頃はとても仕事が忙しい時期であり睡眠時間を削って仕事に精を出していた彼は夜の忙し過ぎる時間帯に備えて少しでも体を休めておこうと思ったそうだ。
しかし、疲れている状態で昼寝などすれば寝過ごしてしまう事もあるのだろう。
いつもなら午後5時頃には自然と目が覚めるらしいのだがその時はスマホのアラームが鳴った音にも気づかずそのまま寝続けてしまいハッと目が覚めた時には既に時刻は午後7時を回っていた。
既に公園の駐車場には彼の営業車以外は1台も停まっていない。
そして、公園内にも遊んでいる子供も散歩しているお年寄りの姿も無かった。
彼は慌てて仕事に戻ろうとしたがいつもよりも長い昼寝をしてしまったこともあり頭の中がぼんやりとし体も重く感じられた。
だから彼は近くに在った自動販売機で缶コーヒーを買ってそれを飲んでから仕事に戻ろうと思った。
いつも飲んでいる缶コーヒーの銘柄は自販機には無かったがとりあえずブラックコーヒー
なら何でも良いと思った。
そして、熱いブラックコーヒーを買った彼は車内へと戻ってきてそれを飲みながらぼんやりと公園内を眺めていた。
その時ふと不思議な事に気付いたという。
公園内にあるブランコが揺れていた。
誰も乗っていないブランコが・・・。
しかも、それは風で小さく揺れているという感じではなく明らかに誰かがブランコに乗っているとしか思えない大きな前後の揺れだった。
えっ?
誰も乗っていないのにどうしてブランコが勝手に揺れてるんだ?
とても興味を惹かれる光景ではあったが怖いとは感じなかった。
確かに不思議だけど世の中にはそんな事がいっぱいあるからな・・・。
それに幽霊とかそんなものは俺には関係無い事だしな・・・・。
彼はいつもの様にそう考えたという。
しかし、しばらくするとブランコの揺れは突然止まり、今度はブランコの近くにあるシーソーが勝手に上下に動き出した。
誰も乗っていないシーソーが交互に上下するなど起こる筈は無かった。
流石に彼は車から降りるとシーソーのそばに行きその動きの一部始終をまじまじと凝視した。
すると、それは機械的に上下しているのではなく明らかに誰かが乗っていないと出来ないような動きにしか見えなかった。
視えない子供でも遊んでるのか?
でも、こんな古臭い遊具で遊んでもすぐ飽きちゃうだろうに・・・。
まあ別にどうでもいいけどさ・・・。
彼はまた何事もなかったように自分の中で全てを飲み込んでしまいそのまま車内に戻った。
そして、一気にコーヒーを飲み干すと車を発進させた。
既に道路には街灯が灯っていた。
しばらく走っていると彼は車が不自然に揺れている感覚に襲われた。
木菟に車を路肩に停車させ車外へ出ると車を細かく見ていった。
特に壊れているような箇所は見当たらなかった。
おかしいな・・・。
そう思い彼はまた車を発進させた。
すると、今度ははっきりと車の屋根の上を何かが飛び跳ねるような音が聞こえたという。
沢山の何かが屋根の上で飛び跳ねているとしか思えない音と振動。
彼はまた車を停めて今度は屋根の部分を詳しくチェックした。
すると、車の屋根に沢山の靴跡がつけられていた。
それはとても小さく子供の靴としか思えない靴跡が・・・。
しかし、彼が車を停めて屋根をチェックしている時には飛び跳ねるような音も振動も起こらなかった。
彼はまた走り出す。
すると、今度は飛び跳ねる靴音と振動に混じってキャッキャッという子供の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
やっぱり連れてきちゃったのかなぁ?
どうする?
そう考えた彼はすぐに車を停止させ屋根に向かって
車の屋根で飛び跳ねたりしたら危ないだろ!
1回死んでるからもう死なないのかもしれないけどな・・・。
でも、この車はリース車っていっていずれは返さないといけない車だから傷がついたら大変な事になるんだ。
だから、止めてくれるか?
そう言い聞かせるように言った。
すると、今度は停止している車の屋根からドンドン・・・ガンガンという沢山の何かが
飛び跳ねている音が聞こえてきた。
そこで彼は
お母さんに言って叱ってもらわなきゃな!
と屋根の方に向かい叫んだが、飛び跳ねる音はいっこうに収まらない。
だから、今度はこう言ったそうだ。
こんな悪い事していたら怖いオバケがやって来るぞ!
オバケが来てから後悔しても知らんぞ!と。
その瞬間、屋根から聞こえる音は全く聞こえなくなった。
そして、微かに泣いているような小さな声が聞こえていたという。
そんな事があってからも彼はその公園を利用しているが、その時のお詫びも兼ねていつもお菓子を供える様にしているそうだ。
あの子達だって、望んで亡くなった訳でもないでしょうし好きで公園にいる訳でもないと思うんですよね。
病気や事故なんかで思いかけず死んでしまって・・・・。
そして行き場が無くて公園に集まるしかなかった。
きっとそんな悲しい事情があるのかな・・・と。
だから罪滅ぼしも兼ねて毎回お菓子を供えてるんです。
必要以上に怖がらせちゃったと思うので・・・。
それにしても、やっぱり怖いんですかね・・・。
死んでからもオバケが怖いっていうのも変ですけどね・・・。
やっぱり子供だから怖いという事なんでしょうか。
でも、それが可愛いと感じちゃうんですよね・・・。
彼は最後にそう楽しそうに話してくれた。

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