憑依されるという事

憑依という言葉の意味を調べてみると
①  頼りにする事。よりどころにする事。
②  霊にのり移られる事。
という二つの意味があるそうだ。
ただし一般的に使われている憑依という言葉は霊的な意味である場合が多いのだろう。
古来より日本では神憑き、狐憑きという言葉があるし西洋では悪魔憑きという言葉もある。
神や狐、悪魔が同じモノであるとは思わないが、要は自分の中に何かが入ってきて脳を支配し人外の能力まで持つ様になる。
これが憑依というモノだと理解している。
ただ恐山のイタコや霊媒師、などは憑依とは別のものだ。
死者の霊に一時的に自分の体を依り代として貸してやり言葉を伝えるだけ。
しかも、本物のイタコや霊媒師などこの世に本当にいるのかは甚だ疑問だ。
話が逸れてしまったが、憑依と精神疾患は紙一重というのが俺の経験上の考えだ。
憑依されたとかのり移られたという話を聞くがその殆どは統合失調症に見られる症状とかなり似かよっている。
勿論、本人にはそんな判断も出来るはずも無いし、本人にしてみれば本当に何かが自分の体の中に入ってくるという感覚もあるのだろう。
だから、決して一方的に否定はしたくないが、頻繁に霊に憑依されると感じている人はそれが本当に憑依されているのかを確認する意味でも精神科での診断をおすすめしたい。
以前、精神病院の隔離病棟で見せてもらった重度の患者さんは本当に人間の体を成してはいなかった。
自分をヘビだと思い込んだ者はどんどん体も顔もヘビに近づいていき、それは犬や狐、空想上の生物の場合でも同じようにして体が変化していく。
人間の精神というのは体の形まで変えてしまう程の能力を有しているのだとまざまざと見せつけられた。
そして、それはこの世で霊能者を生業としている方達に対しても同じ事が言える。
あなたが判断した憑依というのは本物なんですか?
そして、
その憑依から助け出す為に何故そんな大金が必要なんですか?
とじっくりと聞いてみたい気持ちになる。
今まで色んな経験をしているつもりの俺自身も本当に憑依されたと確信できた経験は過去に2度しかない。
2度目の際には狐憑きというものだったが、既にAさんや住職とも知り合いになっていたからその後どのように対処して元に戻したのかは見せてもらえなかったが決して長い時間が掛かった記憶も無いし一切対価ももらう事は無かった。
しかし、1度目の時はそれこそ霊能者の知り合いなど1人もいない状態であり最後までその処置に付き合う事になった。
色んな噂が聞こえてきていたシーズンオフのスキー場のペンション群。
4人でその場に行き、嫌な予感がした俺は小さな小川の向こう側に行くのを止めた。
しかし、誰も俺の制止を聞き入れる者はいなかった。
助走を付ければ飛び越えられそうな小さな小川に掛けられた木製の小さな橋。
それを渡った3人のうちの1人がその場で立ち止まったまま背中を向けて何やらブツブツと呟いていた。
それを見て茶化すように友人が顔を覗き込みながら声を掛けた。
どうかしたのか?と。
しかし、その声はすぐに悲鳴に変わり一気にその友人から離れた。
誰だ・・・・こいつ?
そいつはこう叫んでいた。
その声に反応する様にして振り返った友人の顔。
俺にとっても生まれて初めて見た本物の憑依だった。
顔は明らかに女性のものであり髪型まで長く感じられた。
その友人は決してやせ型ではなくどちらかといえばふっくらとした顔をしているのだが、振り返った女の顔は頬がこけ痩せ細った顔に見えた。
両目は閉じられており閉じた瞼からはこぼれんばかりの涙が頬に伝っていた。
きっとその女が眼を開けていたとしたら俺達は恐怖で近づく事すら出来なかったであろう。
しかしかろうじて瞼はしっかりと閉じられており、そのお陰ですぐに友人の体を掴んで車の後部座席に押し込んだ。
車には友人の1人が運転席に座り俺ともう1つで彼を挟み込むようにして後部座席に座った。
どうしたんだよ、こいつ?
その言葉に俺は
憑依されてるよ、女の人に・・・。
そう答えたと思う。
そして、その間もブツブツと友人は、いやその女は独り言をつぶやきながら俯いていた。
だから言ったのに・・・・・。
反対したのに・・・・。
そんな事をブツブツと呟いている様に聞こえた。
その声は明らかに友人の声ではなく女の声だった。
声色が変わったというレベルではなく明らかに別の人格である中年の女性の声にしか聞こえない。
しかも、本当に憑依された場合、元々の本人の意識も微かに残っているらしくそれがたまに顔を出す。
助けてくれ・・・なんだよ、なんで俺の中に突然女が入って来るんだよ。
何とかしてくれ・・・・。
そう叫んだかと思うと、また中年の女の声で泣き声になり
だから言ったのに・・・・・。
反対したのに・・・・。
と呟き始める。
そして、時折暴れだすようにして手足をバタつかせる。
必至でそれを抑えようとするが両脇に座った俺ともう一人の力ではとても抑えられるような弱い力ではなかった。
そして、運転席に座り車を走らせていた友人が余計な事をしてしまう。
どうして欲しいんですか?
どうしたらそいつの体から出ていってくれますか?
そう女に向かって問いかけた。
すると、突然、後部座席の女は泣くのを止めてゲラゲラと笑いだし
出ていくわけが無いじゃない!
せっかく上手く入れたのに・・・・。
ずっと一緒だ・・・。
お前らも他の奴らもみんな死ねばいい・・・。
そう叫んだのを覚えている。
それから友人の意識が戻る事は無くなり、女は泣き声と下品な笑い声で交互に叫び続けた。
その後、俺の親戚筋に当たるお寺に連れていき、そこでは無理だと言われ富山の住職の寺を紹介されてすぐに其処へ向かい何とか友人は元に戻る事が出来た。
友人が憑依された時の女の顔や声、そして異様に強い力など、映画のエクソシストでの女の子の悪魔憑き状態がもっともリアルで近いものに感じている。
まあ、富山の住職のお寺では数日を要した憑依からの解脱もAさんにかかれば一瞬で終わってしまうみたいだが、もしもあなたの身近に本物の霊能者がいない場合、一度憑依されたらもうお終いなのだ。
最悪、憑依した霊は依り代になった者を自殺へと誘い込む。
そうなれば助かる可能性はゼロと言っても良い。
だから簡単に憑依されそうな場所に近づくべきではないし何でもかんでも憑依されているという言葉で片付けるべきではない。
憑依というのはそれほど恐ろしいものなのだから。

この話の朗読は以下で聴けます。
https://www.youtube.com/watch?v=Vzu7EbNGW5s&t=31s
 

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