3人乗りですから

黒田さんの住む地域にはとある遊園地がある。
決して広大でもなく最新の遊具が揃っている訳でもないのだが、休日でもそれほど混雑しないという理由からその遊園地へ遊びに来るカップルや家族は多い。
そんな黒田さんもまだ子供が小さいという理由からその遊園地をよく利用しているのだという。
最新の遊具や派手な乗り物が無い代わりにその遊園地には昔懐かしい遊具が残されておりそんな懐かしさを求めてやって来る大人も多いそうだ。
しかしその遊園地には変わった遊具が存在する。
それはベンチの様な椅子に座ったままゆっくりと高所に設置されたレールの上を移動し景色を楽しめるというスリル感ゼロのコースターなのだがいつ行ってもその乗り物が動いているのを見た事が無いのだという。
別に壊れているわけではない。
実際に常時その乗り物の管理棟には遊園地の職員らしき人が最低1名は待機している。
とりたてて高額なチケット価格でもなく、晴れた日などは地上から3~5メートルの高さを移動しながら景色を堪能でき良いストレス解消にもなると思うのだが何故かその乗り物には人が寄り付かない。
ごく稀にその乗り物が動いているのを見たとしても、せいぜい1組のグループだけだったりととにかく人気が無い。
その理由は決められたルールが理解不明なうえに融通が利かないという事。
その乗り物は3人がベンチシートの上にしっかりと座った時点でしっかりとシートベルトで固定され、それを確認した時点で乗り物が動き出す、というものなのだがとにかく融通が利かないのだ。
定員が3人という事は3人以上の人数では負荷が掛かり過ぎて危険だから3人以下の人数で乗らなければいけないという意味なのだと理解しているが、その乗り物に関しては定員を超えた人数だけでなく3人という定員に達しない場合にも絶対に搭乗許可がおりない。
つまり1人や2人ではその乗り物には乗せてもらえないという厳しいルールなのだそうだ。
だからその遊具ではよくいざこざが起こる。
1人もしくは2人でやって来た客が係員から断られ激高するのだという。
3人分の荷重が掛からないと危険とか3人で乗らなければバランスが取れないという明確な説明が在るのならまだしも、ただ危険だから、と言われても納得できるものではない。
大人でさえそうなのだから子供になれば尚更納得などしないのだろう。
ずっと泣き続けてその場から離れようとしない光景を良く目にするそうだ。
そんな時には係員が別の職員を呼んで、3人で乗れるように無理やり調整する事もあるようだが、私的には友達同士や恋人、親子の中に他人である係員が混じってしまっては血の染みも半減してしまうと思うのだが。
この乗り物は本当にその遊園地が開園した当初から厳格な3人乗りを厳守してきたのか?
気になって調べてみたらしいのだが、どうやらある時期まではその乗り物は3人以下ならば1人だろうと2人だろうと問題なく乗れていたという事実が分かったそうだ。
それでは、という事で今度は過去にその乗り物、いやその遊園地全体でも死亡事故の類は発生しているのか?という事を調べてみたらしいのだがこちらの方も該当するような死亡事故はおろか大きな事故すら起きていない事がわかった。
黒田さんもオカルトが好きが高じて、なんでも原因をオカルト的なものに結びつけてしまうという悪い癖がある様なのだが、実際にその乗り物を自分の眼で見たうえで過去の因縁について調べていくと何か得体のしれない気持ち悪さのようなものを感じてしまったようだ。
だから色んな手段で遊園地の関係者から話を聞き出そうとしたらしいのだが、やはりその乗り物に関して緘口令が敷かれているのか誰も何も話そうとはせずいっこうに埒が明かなかった。
それでも彼はある意味、意地になり調べていた様だがそれももう限界かと半ば諦めかけていた時、偶然に実家の両親からその真相を聞かされる事になった。
実は全く覚えてはいなかったのだが彼自身も幼い頃にまだ設置されて間もないその乗り物に乗った事があるのだと聞かされた。
その頃は3人以下ならば何人であろうと問題なく乗れていたらしくその時も一度目は両親と一緒に定員ギリギリの3人で乗ったらしいのだが幼い彼はその乗り物をいたく気に入った様でもう一度一人で乗りたいと言ってきかなかったのだという。
両親は心配したが係員は明るく
小さなお子さんお一人でも大丈夫ですよ!
と言ってくれたこともあり、彼一人でもう一度その乗り物に乗る事になった。
結果として途中に事故が起きる事も無く、彼は無事にゴール地点へと戻ってきた。
しかし、後日、一人で乗っている幼い彼を父親が撮影した写真を見て両親は愕然としたという。
楽しそうにカメラに向かって手を振る幼い彼。
そしてその両脇には青白く巨大な顔の男の子と女の子が彼をしっかりと摑まえるようにしながらカメラに向かって手を振っていた。
カメラに向かって手を振っているがその顔はカメラを睨みつける様に冷たく暗い顔だった。
途中で誰かが空いていた椅子に乗り込んだのか?とも思ったが、そもそも彼はその時間違いなく一人で乗っておりその様子は両親がずっと見守っていた。
だから途中で誰かが乗り込む事などあり得ない事だった。
父親がカメラのファインダー越しに見た際にも彼一人しか座ってはいなかったしゴール地点に戻ってきた時にも間違いなく彼一人しか乗ってはいなかった。
そして、その時、乗物から降りてきた彼が両親に向かって
タカオ君とマルちゃんと一緒に乗ってたんだよ!
と新しい友達が出来たと自慢していた事もはっきり覚えていると話してくれた。
そして、それはきっと彼ら親子にだけ起きた怪異ではなかったのだろう。
その後、その乗り物に1人で乗ると幽霊が乗って来るという噂が広まったらしく、両親は彼が言っていた事は本当だったんだと背筋が冷たくなったそうだ。
そして、どうやら彼のオカルト好きは父親譲りだったようで、彼の父親もその事が気になって色々と調べてみたそうだ。
すると、どうやら本当に危ないのは一人で乗るよりも二人で乗った時なのだという情報を得たという。
確証は無いが確かに2人で乗った際、2人のうち1人がそのまま行方不明になるという事例が2度起こっているのだという。
つまり死亡事故は起きていないが行方不明者は2人も出ていたのだ。
更に、行方不明事件が発生した際には遊園地の経営者が2度変わっている。
噂ではその乗り物を危険と判断して使用不可にしようとした途端、2人とも突然死を遂げたという。
だから、その乗り物は定員である3人で乗らなければいけない。
そう説明されれば誰でも素直に納得すると思うのだが。
しかし使用禁止にすら出来ないという事になるとまさに負の遺産としか言いようがない。
ちなみにどうしてこんな事が起こる様になったのかは誰にもわからないそうなのだが、彼が今も元気に生き続けていられるのも行方不明にならなかったのも、2人で乗らなかったから・・・。
もしかしたらあの遊具に乗った後、無理やり受けさせたお祓いの賜物かもしれんぞ・・・と言われ思わずぞっとしたそうだ。
 

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