その家に居たモノ

崎田さんは小学校低学年の頃、それまで住んでいた古いアパートから中古の2階建て住宅へ引っ越した。
以前からアパートを手狭に感じていた両親が思い切って格安の中古住宅を購入してくれたそうだ。
そして、それから中学生の頃まで家族はずっとその家に住み続けた。
彼女はその家に引っ越すと2階にある1部屋を弟さんと共同で使う事になった。
共同での使用ではあったがそれまで住んでいた古いアパートでは子供部屋などと言う概念自体が無かったらしく彼女にとっては本当に嬉しかった様だ。
その部屋には2段ベッドと勉強机も用意されておりまさに理想的な子供部屋だった。
共同で使う子供部屋とはいってもまだ幼かった弟さんがその部屋にいる事は殆ど無かったらしくその部屋を使うのは彼女だけという感じで弟さんはといえば寝る時に2段ベッドで寝るくらいのものだった。
ただ彼女にとってはその方が好都合だった。
元々彼女は1人きりで過ごすのが好きだったらしく話し相手などいなくても全く苦にはならなかった。
だから子供部屋が与えられてからはその部屋で1人で好きな事をして過ごすというのが日常になっていた様だ。
しかし、いつ頃からかその部屋に1人でいると誰かが階段をギシギシと音を立てて上がってくる足音が聞こえる様になった。
最初の頃は
家族が階段を上がってきたんだろう・・・。
と思っていたがよく考えると階段を上って来る足音の後には何も聞こえない。
それに気付いて耳を澄ませて聞いていると確かに階段を上ってくる足音はしっかり聞こえるのに、階段を上り切った音も廊下を歩く音も全く聞こえて来ない。
あれ・・・おかしいな・・・。
そう思って部屋から出ると廊下には誰もおらず2階は静まり返っている。
まあ古い家だからそんな事もあるんだろう、と思っていたが今度は自分がいる子供部屋のドアが開いている事に気付く事になった。
完全に閉めていた筈のドアがほんの少しだけ開いている。
そして、そのままにしておくとまた少し開いている。
弟の悪戯かな、と思い2階を調べてみたが2階には誰もおらず、1階から家族全員の声が聞こえた時にはさすがに恐ろしくなってしまい1階にいる家族の元へ泣きながら階段を駆け下りたそうだ。
また当時は弟さんとジャンケンをして負けた方が2段ベッドの下の段で寝る事になっていたそうなのだが、とある週末も彼女はジャンケンに負けて下の段で寝ていたのだがつい寝坊してしまった彼女は上の段からゴロゴロと寝返りを打つような大きな音が聞こえてきたという。
その音は普通の寝返りというよりもわざと大きな音を立てようとしているんだ、と思わせるほどわざとらしく大きな音だった。
最初は我慢していた彼女だがなかなか止まないその音に業を煮やし弟さんに文句を言ってやろうと思った。
勢いよく起き上がり上の段にあがる梯子をのぼって
うるさい!いい加減にしてよ!
と文句を言ったが覗き込んだ上の段には誰もいなかったという。
どうやら弟さんは既に起きて1階へと行っていた様だ。
彼女が覗き込む直前まで確かに聞こえていたゴロゴロという音も覗き込んだ瞬間にピタッと止んで静かになっていた。
またその家はラップ音もよく鳴る家だった様で今にして思えば怪異のオンパレードだった様だ。
ただ彼女はそれを不思議とは感じていたが怖いとは感じていなかったのかもしれない。
いつも背後に誰かが居る様に感じていた彼女はある時背後にいるであろう何かに向かってこう言ったそうだ。
悪い事しないなら此処にいても良いよ・・・と。
それからしばらくして新居を購入したらしくその家から引っ越す事になった様でその家には現在親戚の家族が住んでいるそうだ。
既に大人になり自立している彼女だが不思議と夢に出てくるのはその古い中古の家ばかり。
現在は両親だが住んでいる引っ越した先の家が夢に出てくる事は無いそうだ。
もしかしたら、あの時背後にいる何かに話しかけた事で強い縁が出来てしまったのかもしれませんね、と彼女は言う。
そんな彼女はその家に住んでいた頃、おばあさんの霊に手招きされて交通事故に遭い大怪我をしている。
そのお祖母さんが夢に出てくる事もあるそうだから、もしかしたらその家とおばあさんの霊には何かの因縁があるのかもしれない。

 
 

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