後悔

自殺という行為はそれまでどれだけ良い事をして生きてきたとしても全てを帳消しにするどころか理由の如何に問わず、最低最悪の大罪人としてこの世やあの世の摂理から除外され孤独の中で永遠に苦しまなければならず決して許される事は無い。
勿論、これはこの世、あの世に関係無く存在し絶対的なルールである摂理に基づいた解釈になるのだが・・・・。
だから自殺した者の霊は悪霊となる場合が多い。
もっとも寂しいから仲間を増やそうとしているだけなのだが、結果として生きている人間を死の衝動に誘い込み自殺させる事になる。
どれだけ仲間を増やそうとしても、どれだけ多くの者が同じ場所で自殺したとしてもあくまで孤独は続いたままでお互いの存在にすら気付けないというのに。
俺は自殺という行為、いや自殺したいという思いを理解出来ないと言っている訳ではない。
この世には本当に沢山の人間がおり、それぞれが違った境遇の中で生きている。
死んだ方が楽、死ねば全てから解放される、という程の苦しみや辛さの中で、生きた屍のようにギリギリの状態で生きている人も決して少なくないのだと思っている。
しかし、自ら命を絶つという行為は自然の摂理の中では残念ながら許されてはいない。
だから自殺という行為だけは避けて欲しいのだ。
こんな事を書いて良いのか悩むところだが、もしも自殺したいと考えたとすれば、体に悪い食品ばかりを食べて体を壊し病院に行かないとか偶然の事故を期待し眼を瞑ったまま自転車で下り坂を猛スピードで駆け下りて車道に飛び出す方がマシかもしれない。
それならば、うまくいけば自殺者という罪から逃れられるかもしれないから。
勿論、私にその選定基準が分かるわけが無いのだからあくまで個人的な考えに過ぎないのだが。
そして、これから書くのはある方の体験談。
信じようと信じまいと構わない。
荒唐無稽な戯言だと思われても構わない。
ただAさんという霊能者と一緒に以前聞いた、ある自殺者からの体験談だ。
目的は自殺を考えている方に思い留まって欲しいという願いから。
自殺の先に待っているのは永遠の苦しみしかないという事を知って欲しいから。
そういう意味で、ここからは俺がその自殺者から直接聞いたままの言葉で書き綴っていきたいと思う。
 
私はずっと過保護に育てられてきたのかもしれません。
たぶん普通の家庭よりも裕福な家で生まれ育ったんだと思います。
全てを与えられていたし何も不自由する事もなかった。
それが当たり前なのだとずっと思っていました。
でも、本当はもっと早い時期にそれが決して当たり前ではなく、当たり前だと思っていた恵まれた生活が永遠に続かないという事に気付き、自分自身の耐性を付けていかなくてはいけなかったのだと思います。
永遠に続く事なんてこの世には存在しないんですから。
ある日、父の会社が倒産しました。
そして、それだけの事でそれまで目の前に在った当たり前の幸せが次々に崩れ去っていくのだという事をまざまざと見せつけられました。
誰も助けてはくれなかったし、手のひらを返した様な裏切りばかりが続きました。
そして、気か付けば周りには誰もいなくなっており、独りぼっちになっている事を悟りました。
でも、本当ならばそこで自分で踏ん張ってもう一度幸せな時間を少しずつでも作っていこうと考えるべきだったと思っています。
ただ、その時の私にはそんな勇気も気力も残ってはいなかった。
逃げる事ばかり考えてしまいました。
どうすれば今の苦しみから解放されるか?って。
別に何かに引き寄せられたわけではありません。
気が付けば出来るだけ高い建物を探していました。
そして、少し遠くに見えた大きなマンションを見つけ、そこに決めました。
勿論、自ら命を絶つ為にふさわしい場所として。
1人でゆっくりとそのマンションに向かって歩き出しました。
その途中、色んな事が頭の中を駆け巡りました。
本当にマンションからの飛び降り自殺が最適なのか?と。
もしも自分が落下した先に誰かがいたら、その方にもご迷惑が掛かる。
それならば、山の中へ入っていき餓死するか、それとも首を吊るという方法もあるのではないか?
そんな事も考えましたが、その方法は私には怖くて出来ませんでした。
真っ暗な山の中に1人で分け入るなど怖くて出来なかったし、首を吊って苦しみながら死んでいくのも嫌でした。
死ぬのなら一瞬の傷みで逝きたい・・・・。
そればかり考えていました。
服毒自殺という方法も考えました。
電車への飛び込みも考えました。
でも、ある理由で薬も買えませんでしたし、電車に飛び込むのはやはり怖すぎました。
そんな事を考えているうちに、あんなに遠くに見えていたマンションがすぐ目の前に在る事に気付きました。
今思うと、あれだけの距離を歩いて行ける体力があるのならば何でもして生きて行けたのに、と自分が情けなくなります。
マンションには小さな公園が併設されていたのでそこでぼんやりと夜になるのを待ちました。
絶対に飛び降りた際に誰も巻き込みたくなかったんです。
公園でぼんやりとベンチに座っているととても悲しくて泣きたくなりました。
でも不思議です。
泣き虫だったはずの私が一滴も涙がこぼれて来なかったんです。
ああ・・・もう感情も脳も正常には動いていないのかな、と感じました。
何人かが声を掛けてくれたのを覚えていますが、私が何も応えなかったのでしょう。
全員が私の前からすぐに遠ざかっていきました。
ベンチに座ったままずっと地面ばかりを見つめていたと思います。
そして、気が付けば辺りは真っ暗になっておりマンションの家々の窓の明かりも殆ど消えていました。
私はこのベンチに一体何時間座っていたのだろうか?
そんな事を考えると少し自分が滑稽に感じました。
そして、私はベンチから立ち上がるとマンションの入り口へ向かいました。
マンションの自動ドアを通りエレベーターに乗り込み最上階である8階へ上りました。
それから屋上へあがる階段を見つけましたが予想通り屋上に出る鉄の扉はしっかりと鍵がかかっておりびくともしませんでした。
本当ならば屋上から飛び降りたかったのですがそれは叶いませんでした。
そして、私は8回のフロアへ出ると廊下に出て誰もいないのを確認しました。
勿論、廊下には落下防止の壁が設置されていましたが身を乗り出して階下を確認するのは簡単な事でした。
きっと時刻は既に午前0時を回っていたのでしょう。
下の地面には誰もおらず飛び降りの障害になる物は何もありませんでした。
そこからは自分でも不思議なくらいにスムーズな動きだったと思います。
怖さなど全く感じず悲しさや辛さから解放されるという喜びだけに脳が支配されていたのだと思います。
この高さなら間違いなく即死できる。
勿論、頭から地面に落下するようにしよう。
それだけ考えると一気に壁の上に立ちそのまま飛び降りました。
壁の上に立ったのは少しでも高さを稼げると思ったからです。
でも、足から飛び降りた私は大きな間違いをすぐに悟りました。
飛び降りた後、ものすごいスピードで地面に向かって落下していくのです。
そして、そのせいか空中で体を回転させ頭から地面に激突する事など不可能な事だと気付きました。
そして、それに気付くと同時に私はうつむけの状態でコンクリートに激突しました。
最初に接地したのが足で一番最後が頭でした。
接地した体の部位が嫌な音を立てて何度も折れつぶれていく音を聞きながらも私は即死していない自分に気付きました。
傷みは言葉には出来ないものでした。
しかし傷みで泣き叫ぶ事もビクリとも体を動かす事も出来ませんでした。
そんな私に救急車が近づいてくる音が聞こえました。
それ以後は憶えていません。
ただ私の体を乗せて急いで走り去っていく救急車を私は自分が落下した場所で立ったまま見ていたのを覚えています。
ああ・・・ようやく死ねたんだ・・・。
そう思うと同時に私なんかの命を救う為に急いで走り去っていった救急車の方達に本当に申し訳なく感じていました。
そして、ふと気が付けば私はまたマンションのエレベーターに乗っていました。
何の為?
そう考えましたがそれはすぐに分かりました。
私はさっき飛び降りた場所からまた飛び降りたのです。
自分の意志ではありません。
そうしなければいけないという不思議な力に導かれると逆らう事は出来なかったのです。
それから私はずっとこのマンションの8階の同じ場所から飛び降りて同じ場所に落ちて激痛に苦しむという事を繰り返しています。
この場所に縛られ、それ以外の行為は一切出来ないのです。
このマンションでは他にも飛び降りされた方が数人いらっしゃる様で、その姿は常に私の視界に入っているのですが近づく事も話す事も叶いません。
孤独に同じ自殺を繰り返し痛みに苦しむ。
自殺の末に私が手に入れたのはそんな永遠に続く苦しみだけでした。
だから、自殺はしないで欲しい。
得られるのは永遠の苦しみ。
解放される事は無いのですから。
私は自殺した事を心から後悔しています。
今さら悔いても仕方の無い事ですね。
 
これが自殺を成し遂げた彼女から聞いた全てだ。
Aさんは彼女と話に来る事があるらしく、その時に彼女が俺に話してくれた言葉だ。
自殺をしようとしている者を見つけたなら絶対に自殺を思いとどまらせたいと話す
彼女を見て俺はAさんに何か彼女を助ける手立ては無いのか?と聞いたがAさんは
無言で首を横に振るだけだった。

朗読はこちらで聴けます。
https://www.youtube.com/watch?v=kBxabwEPhh0&t=64s
 

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