見出し画像

√2 は無理数か─マイナーでエレガントな証明 【Kowの探究日誌1】

⚠閲覧前にこちらの注意事項をご一読ください。


数学においては、1つの問題に対して様々な角度からアプローチできることがあります。

時に、「そんな簡単な方法があったのか!😱」と感動を生むことすらあります。

私がそれを最も実感した問題の1つ∶
「$${\sqrt{2}}$$が無理数であることの証明
をご紹介いたします。


【0.おさらい】

まず、問題を考えるうえで必要な知識をおさらいしてみましょう。


《0-1.有理数と無理数》

整数$${m}$$と正の整数$${n}$$を使って、$${\genfrac{}{}{}{0}{m}{n}}$$という分数で表せる数を有理数といいます。

一方で無理数とは、有理数ではない数です。

このように、分数で表せる有理数と違って、無理数には決まった形がありません。

したがって、$${\sqrt{2}}$$が無理数であることを示すには、
「$${\sqrt{2}}$$は有理数ではない
ということを示す、更に言うと、
「$${\sqrt{2}}$$を有理数と仮定したら明らかにおかしい
ということを示す必要があります。


《0-2.背理法》

このような場合に用いるのが背理法です。

あえて逆の仮定をして、その矛盾を導くことで、仮定そのものが間違っていることを示す論法です。

今回は$${\sqrt{2}}$$が無理数であることを示したいのですが、直接示すことはできないので、

「$${\sqrt{2}}$$が有理数だと仮定するとおかしい!」

「じゃあ$${\sqrt{2}}$$は無理数だよね!」

という背理法の考え方を活用します。


《0-3.とある補題》

あらかじめ、次の命題(A)を証明しておきます。

$${a}$$を任意の整数として、
「$${a^2}$$が$${2}$$の倍数ならば、$${a}$$も$${2}$$の倍数である。」···(A) 

これを証明するには、(A)の対偶∶
「$${a}$$が$${2}$$の倍数でないならば、$${a^2}$$も$${2}$$の倍数でない。」···(B)
を証明すればよいことになります。

$${a}$$が$${2}$$の倍数でないならば、整数$${b}$$を用いて、
$${a=2b+1}$$
と表され、
$${a^2=4b^2+4b+1=2(2b^2+2b)+1}$$
ここで、$${2b^2+2b}$$は整数であるから、$${a^2}$$は$${2}$$の倍数ではありません。

ゆえに、命題(B)は真であり、その対偶である命題(A)も真であることになります。


【1.よく知られた方法】

教科書などによく載っている、普遍的に知られた証明方法は次の通りです。


[証明]
「$${\sqrt{2}}$$は有理数である」と仮定すると、$${\sqrt{2}}$$は互いに素($${1}$$以外に正の公約数をもたない)な正の整数$${m,n}$$を用いて、

$${\sqrt{2}=\genfrac{}{}{}{0}{m}{n}}$$

と表せる。これを変形して、
$${2n^2=m^2}$$···①
を得る。①と上記の補題(A)より、
$${m^2}$$は$${2}$$の倍数なので、$${m}$$も$${2}$$の倍数である···★
よって、ある正の整数$${k}$$を用いて、
$${m=2k}$$
と表せるから、これを①に代入して、
$${2n^2=4k^2}$$
すなわち、
$${n^2=2k^2}$$···②
よって、②と上記の補題(A)より、
$${n^2}$$は$${2}$$の倍数なので、$${n}$$も$${2}$$の倍数である···☆

★,☆より、$${m,n}$$はどちらも$${2}$$の倍数であるが、これは$${m,n}$$が互いに素であることに矛盾する。
∴$${\sqrt{2}}$$は無理数である。 


…少し長いですよね。

なぜ$${m,n}$$は互いに素($${1}$$以外に正の公約数をもたない)と設定したかというと、整数からなる分数は「これ以上約分できないよ!」「分子と分母はもう公約数がないよ!」というところまで約分した形で表せるからです。

このように、分子と分母が$${1}$$以外に正の公約数をもたない整数である分数(=約分し尽くした分数)を既約分数といいます。

平たく言うと、「$${\sqrt{2}}$$を既約分数で表したはず(仮定)なのに、まだ約分できることになるじゃん!無限に約分できるじゃん!こんなのおかしい!」という論法です。


【2.よりスマートな方法】

視点を変えて、素因数分解はただ一通りに表せるという「素因数分解の一意性」に着目すると、もっと簡単に証明することができます。


[証明]
「$${\sqrt{2}}$$は有理数である」と仮定すると、

$${\sqrt{2}=\genfrac{}{}{}{0}{m}{n}  (m,n∶正の整数)}$$

と表せる。
これを変形して、
$${2n^2=m^2}$$···①
を得るが、①の左辺は素因数$${2}$$を奇数個、右辺は偶数個含むから、素因数分解の一意性により矛盾。
∴$${\sqrt{2}}$$は無理数である。


先ほどの解法と比べて非常にスッキリしています。
さらに、$${m,n}$$が互いに素であるという前提すら必要ないのです!

ここでは、平方数(整数を$${2}$$乗した数)は、各素因数を偶数個含むという考え方を用いています。
(整数を$${2}$$乗すると、各素因数の指数は$${2}$$倍=必ず偶数になるため。)

さらに言うと、この素因数の個数に着目する論法は非常に柔軟で、応用が利きます。

$${\sqrt{2}}$$に限らず、一般に「平方数でない正の整数$${n}$$に対して、$${\sqrt{n}}$$は無理数である」ということが知られています。
それらの証明もスマートにこなせます。

視点を変えてみることで、より簡単な方法にアプローチすることができるという1つの例をご紹介いたしました。

誰かの参考になれば、幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?