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東京の農業をデジタルの力で未来につなぐ

今回のnoteでは、デジタルの力で東京の農業を未来につなぐ「東京型スマート農業」の取組について、東京都農林総合研究センターにおうかがいし、スマート農業推進室の宮崎室長にお話をうかがいましたのでご紹介します。

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東京の農業をDXでスマートに

東京の農業は、他の道府県と比較して農地が狭く小規模多品目の作物を栽培していることが特徴です。そのため、限られた農地でも効率的に付加価値の高い作物を生産し、高い収益を出せるよう支援していくことが重要となっています。

東京都農林総合研究センターでは、前身の組織である東京府立農事試験場の明治33年(1900年)の設立以来、120年以上にわたって、東京の農業の振興のため、研究開発に取り組んできました。

令和2年4月には「スマート農業推進室」を設置し、東京の農業の特徴にあわせ、AI、IoTなどの先端技術の力を使って「稼ぐ農業」を実現するため、「東京型スマート農業プロジェクト」を推進しています。

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本年6月にはローカル5Gを活用した遠隔からの農作業支援の実証実験を開始、本年8月には都内スタートアップ企業と連携して農作業スケジュール管理アプリを開発するなど、研究開発を進めています。今回はそうした取組についてご紹介します。


東京フューチャーアグリシステム

東京の限られた農地でも効率的に生産し、高い収益を出せるように。そのために研究開発したのが「東京フューチャーアグリシステム」です。

これは、高い生産性を実現しつつ、コスト抑制と環境への配慮を念頭に、太陽光利用型の植物工場として平成26~29年度に開発したもので、温室(東京ブライトハウス)養液栽培システム(東京エコポニック)統合環境制御システムで構成されています。

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このシステムにより、コンピューターが日照量や温湿度等の環境条件をもとにリアルタイムで計算、自己判断し、効率的に作物の生育が最大化するようにハウス内の温度や湿度が自動で調整される仕組みとなっています。これにより、暑さ寒さの季節変動を小さくし、1年中収穫が可能となります。

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現在、システムのさらなる普及促進に向けて、これまで取り組んできたトマトやキュウリ、パプリカに加え、高い収益が見込まれるイチゴについてもシステム開発に取り組んでいます。

また、システムの導入にあたってはコストもかかることから、ダウンサイジングや、汎用機器の導入等による統合環境制御システムの低コスト化にも取り組んでいます。

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ローカル5Gを活用して遠隔から農作業を支援

農業の担い手の確保は東京でも大きな課題です。農業とは異なる仕事をされていた方が新しく農業をはじめようとしたとき、システムの導入とあわせて重要なのが、専門家による農作業の支援です。

そこで令和2年4月、東京都農林水産振興財団とNTT東日本、NTTアグリテクノロジーの3者で連携協定を結び、本年6月にローカル5Gを用いて遠隔で農作業を支援する、という実証実験を開始しました。

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今回の実証実験では、調布市のNTT東日本研修センターに設置した東京フューチャーアグリシステムを導入した試験ほ場のハウスと、約20km離れた立川市の東京都農林総合研究センターをインターネット回線でつなぎ、試験ほ場で農作業を行う方に対し、研究所の職員が遠隔で指導を行っています。

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試験ほ場には超高解像度カメラやスマートグラス、遠隔操作走行型カメラを設置し、ハウス内の作物の生育状況等を高解像度の映像データで研究所とリアルタイムに共有することで、迅速かつ的確な遠隔での農作業支援が可能となりました。

高解像度の映像データは容量が大きいため、試験ほ場内ではローカル5Gを設置し、通信の遅延なくデータの収集・発信を行うことのできる体制を整えています。

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このことにより、従来なら週1回、研究所から車で1時間程度かけていた現地での技術指導が、現地に赴くことなく、遠隔で毎日映像データを確認し、迅速かつ的確な指導を行うことができるようになりました。

この結果、栽培未経験者でも定植~出荷まで完遂し、美味しいトマトの栽培に成功することができました。

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先日、調布市内の小学校でこの試験ほ場で育てられたトマトが小学生に提供されたのですが、「こんなおいしいトマト食べたことない」など好評だったようで、この様子はテレビで紹介されていました。

今後は、ドローンやAIを活用した更なる高品質な遠隔指導や、実証から実装に向けた仕組みづくりを検討していきます。

以下の映像でローカル5Gの取組を解説しています。


企業、大学のみなさまとともに

東京都農林総合研究センターで取り組んでいるのはシステムの開発だけではありません。令和2年10月、企業や大学など、多様なセクターで構成する「東京型スマート農業研究開発プラットフォーム」を設立し、本年4月から6つのテーマで共同研究開発をスタートさせています。

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本年8月、これらのテーマの一つで、都内スタートアップ企業と連携し、農作業スケジュール管理アプリを開発したのでご紹介します。


スタートアップ企業と共同で農作業スケジュール管理アプリを開発

東京の農業は、大消費地が近いという立地を生かし、他の道府県では一般的な広い農地で特定の品目を栽培して農協等を通して広く販売する形態ではなく、直売(消費者への直接販売)向けの多品目の栽培が主流です。

しかし、多品目栽培では、作業や資材等が多岐に渡り、農作業管理が極めて煩雑なため、生産者さんからは、多品目栽培に対応した農作業管理アプリの開発が強く求められてきました。

そこで、東京都農林総合研究センターと、都内で多品目栽培の農業を行っている元エンジニアの農家さんが設立したスタートアップ企業Agrihubが連携し、スマートフォンで簡単に管理ができる「東京型農作業スケジュール管理アプリ」を開発し、すでに多くの生産者さんに利用されている農業支援アプリ「AGRIHUB」に統合し、無償でリリースしました。

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このアプリでは、作付け品目ごとに作業予定を事前に登録することで、多品目の栽培スケジュールを管理することが可能となっています。また、作業実績を登録することで、農業日誌の作成も簡単にできるようになっています。

このアプリの開発者の方は、自身が農業を実施するにあたって困ったことを解決しようと考えて、このアプリを作ったそうです。

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また、多品目を栽培するためには、「連作障害」に気を付ける必要があります。連作障害とは、ひとつの土壌に同じ作物を作り続けると、土壌中の養分のバランスが崩れ、病害等の原因となる土壌生物、微生物(線虫や菌類、細菌類など)が増加することなどにより、作物が育ちにくくなる現象で、これを避けるために、同じ土壌には同じ作物を続けて作付けしないように注意することが必要です。

今回開発したアプリでは、地図上に栽培していた品目を登録することができ、作付けエリアごとに栽培履歴が一目で確認することができ、連作障害を予防することができます。

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これまで農業者さんの勘と経験に頼っていた農作業のスケジュール管理を、アプリによって見える化することで、作業の効率化や作物の品質を向上することができます。また、農業への新規参入の敷居を少しでも低くできると考えています。都内生産者による試験運用で実用性も確認しておりますので、ぜひご活用ください。


これからの東京型スマート農業

今後は「東京型スマート農業研究開発プラットフォーム」でスタートした6つのテーマのうち、残り5つの共同研究を推進するとともに、新たな研究開発テーマにも取り組んでいきたいと考えています。

東京の農業をデジタルの力で「稼ぐ農業」に転換し、都内の生産者のみなさまへの更なる支援につなげていくとともに、新鮮で美味しい農産物を都民のみなさまに提供するため、全力を尽くしていきます

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東京農林水産ファンクラブ、会員募集中です!

今回、東京型スマート農業について宮崎室長にお話をうかがいましたが、ひとつひとつの取組について、熱をもって語られていた姿がとても印象的でした。お時間いただきありがとうございました。
最後に、東京の農林水産業をもっと知りたい!応援したい!と思った方へ、お知らせです。

東京都農林水産振興財団では、多くの方々に東京の農林水産業への興味・関心を持っていただくため、8月に「東京農林水産ファンクラブ」を設立しました。

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ファンクラブでは現在、会員募集中です。東京の農林水産業を応援してくれる方であれば、どなたでも大歓迎!入会金・年会費は無料です。

マルシェ出店や農林水産魅力発信イベント・キャンペーンなどを通じて、東京の農林水産業を知ってもらい、親しみを感じてもらえれば、と思っています。東京の新鮮な野菜や海産物に間近で触れたり、作り手と話しをしたり、素敵な出会いや気付きがきっとあるはず!この機会に東京の農林水産業に触れてみませんか?ファンクラブでお待ちしております。

【ご意見募集】
「シン・トセイ」戦略では、「スマート農林水産業プロジェクト」を各局リーディング・プロジェクトとして推進しています。プロジェクトへのご意見・ご感想はこちらのフォームより受け付けております。ぜひ、ご意見をお寄せください!