見出し画像

きらめきのひと

 見回す限り、同じ「推し」を推す人達であふれている。
 彼女が好きなもの、メンバーカラーのアイテムを手にしている人達に囲まれた場所で、私はすうっと息を吸う。
 ああ、この空間がたまらなく好きだ。

 会場の照明が、ゆっくりとライブ開始を告げるように暗くなる。
 これから始まる瞬間への興奮と期待に包まれていたライブ会場が、しんと静まり返る。
 推しの単独ライブが始まった。
 推しが所属しているグループの曲を使ったイントロ映像が流れる。推しが映る度に、黄色い歓声が上がっては消えた。
 映像とはいえ予想に反する急な登場に息を飲みつつ、顔の造形を穴が開くほど見つめた。
 目の大きさ、形。
 スラッと伸びる鼻。
 先の先まで手入れされた髪。
 細い指先。
 にっと笑う口元で輝く、白くキレイに揃えられた歯。
 神が与えた造形とも言うべきその姿に、私はうっとりと目を細める。
 まさに貴方はこの世で一番の、と思ったその瞬間。
 会場に響く爆音と共に、彼女が姿を現した。少し顔を下にかたむけた推しは、すっと右手を挙げる。皆がその挙動に視線を注いだ。
 推しが、会場名を叫ぶ。
 今日一番の歓声が、私たちの喉を裂く勢いで飛び出した。
 生バンドの演奏が流れ出し、推しが観客を煽り出す。目の前を笑顔で駆けていく推しに、私たちは目を輝かせた。
 ペンライトを振る私たちは、推しの輝きの一部になれているだろうか。
私は推しの一挙手一投足を目に焼き付ける。
 貴方の全てを見つめて離さない。
 今日は貴方が、全力で輝いてと祈るように。
 サビに入ると、ペンライトの群衆の輝きが一層増したように思えた。
 この日のために、ここに来て、ここに来れて良かった。今までの全ての頑張りが、今この瞬間に報われたように思う。
 思わず涙を一筋こぼす。
 脳内を揺らすように響く声とメロディ、輝き。
 全部全部、この空間ごとまとめて抱きしめたいと思った。

 彼女の単独ライブは、言うまでもなく私の推し遍歴に残る大成功に終わった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?