2014年以降に起きたこと


ロシアにとってのウクライナ


ロシアにとってウクライナというのは、ほとんどロシアという感覚なんだ。ウクライナ語とロシア語は近いし、人種てきにも東スラブ民族であるし、宗教もロシア正教とウクライナ正教ということで近しい。
だが、ウクライナ人からすると、ロシア人からそう思われていることがうっとうしい。

ウクライナの国土は、約60万平方キロメートルあり、これは日本の国土の1.6倍。ヨーロッパではロシアに次ぐ第二の面積の国で、非常に巨大な国なんだ。ソビエト崩壊時点で、既に人口5200万人であり、旧ソ連県内でも屈指の重工業地帯と農業地帯があった。
アメリカの政治学者のブレジンスキーという人の分析によると、ロシアがウクライナを勢力圏に留めておけるかどうかというのは、ロシアがヨーロッパとアジアを跨がるユーラシアの帝国でいられるのか、それともアジアの帝国に留まってしまうかの大きな分水嶺だと言われている。つまり、そのくらいウクライナというのは豊かで強大な国なんだ。

ソ連崩壊後、ロシアは、ウクライナの重工業や金属メーカー、工業部門や電力部門への発注を通して、ずっと経済援助を続けていた。
たとえば、2013年の時点でロシアからウクライナ産業界に対する発注額というのは年間50~100億ドルに及んでいた。ウクライナの産業も、ロシアからの受注にほぼ完全に依存しており、また、全ての部門がロシアからの天然ガスによって発電していた。つまり、経済的な結び付きに於いてとても親密であった。

ウクライナはソ連崩壊後、ロシアからの脱却を目指すわけだが、この経済的な結び付きによってすぱっと縁を切ることはできなかった。
具体的に言うと、ロシア産の天然ガスというものをすごく安価で供給して貰っていたし、供給する為のパイプラインの使用量も破格の安値だった。
また、ウクライナの重工業製品と農業生産品の消費地もロシアだった。
更に、重工業製品の下請け業者がロシア内に散らばっていた為、ウクライナだけでは生産できなかった。
その為ウクライナは、ロシアを刺激しないように穏当にゆっくり出て行こうとした。


ウクライナの誤算

だが、ポーランドやチェコスロバキアが早い時期にNATOに加盟してしまったことにより、ロシアの警戒を招いてしまう。
1990年代中盤から第二代大統領のレオニード・クチマが指導者となるんだが、基本的には初代と同じEUやNATOへの加入といった路線を踏襲する。ただ、突然加入するわけではなく、まずはジョージア・ウクライナ・アゼルバイジャン・モルドバの頭文字を取ったGUAMという枠組みを作る。
それは、みんなで協力し合ってソ連の枠組みから抜けようぜっていう協力体制だった。赤信号、みんなで渡ればなんとやら、だ。
更に西側にアピールする為に、2003年にアメリカがイラクに侵攻した際、アメリカを支援する為にウクライナ軍を派遣したりしている。
この時期にはプーチン政権も対米関係を改善に乗り出しており、雰囲気としては平和裏にNATOやEUに加盟できそうな感じだった。

にも関わらず、2004年にバルト三国が、NATOとEUに加盟してしまう。この三国はロシアと隣接する国々なので、ロシアとしては恐怖でしかなく、警戒感が跳ね上がってしまう。
そして、同年、ウクライナで大統領選挙が行なわれる。親ロシア的傾向が強いヴィクトル・ヤヌコーヴィチという人物が出馬したんだが、この人は、利権次第でどうにでもできる人物であった為、ロシア側からの見え透かんばかりの強力な後押しがあった。彼に対抗して出馬したのが、NATOの加盟など西ヨーロッパに近付く政策を掲げていたヴィクトル・ユシチェンコ。
その結果、ヤヌコーヴィッチが勝利してしまい、ウクライナでは不正選挙だとして、大規模な抗議デモが起こり、それを受けて最高裁判所は、超法規的措置として選挙をやり直した。
すると、親ヨーロッパ派のユシチェンコが再投票で勝利した。これはオレンジ革命と呼ばれている。
こういった反ロシア的な運動は、ウクライナのみならず、旧ソ連諸国では軒並み起きていた。それら全ての動きを総称して、カラー革命と言っている。
その民主化運動には、小規模ながらアメリカの支援もあったという。その為、ロシアは自分の勢力圏に対するNATOの切り崩し工作だと受け止め、更に危機感と警戒感を強めることとなる。


【悲報】NATO加入が遠離る

ロシアが主導する、旧ソ連諸国内の経済機構である、共通経済空間(EEP)という枠組みがあるんだが、ウクライナはそれから距離を取った。
だが、政権内には、親ロシア派と反ロシア派がいて、内閣が機能しなくなってしまう。
そして2008年、ジョージアで南オセチアとアブハジアという地域を巡って紛争が起きてしまう。NATOはウクライナとジョージアはいつかNATOに入れるけど、今は無理という対応をする。確か、紛争中の国は加盟できないという理由だったはず。
こうしてウクライナ側からはいくら希望しても入れないという状態にされてしまう。

2010年に再び大統領選挙があるんだが、今度は親ロシア派のヤヌコーヴィチが当選してしまう。そして彼は、NATOに対する加盟方針の撤回を行なった。もう一つは、クリミア半島にあるセヴァストポリという海軍基地をウクライナはロシアに租借させていたんだが、その期間を25年延長した。
事実上ロシアの勢力圏に留まるという決断を、ヤヌコーヴィチ大統領は示した。
ヤヌコーヴィチ大統領の任期中の2012年、プーチンはちょっと引っ込んでいて首相だったんだが、大統領選に再び出馬しようとしていた。その際に、選挙に向けて一連の政策論文というのを書いている。
その内容はというと、ロシア・カザフスタン・ベラルーシによる同盟というのを作り、それを土台としてユーラシア経済連合EDUというのを作ろうとしている。このEDUというのに旧ソ連諸国を加入させて、ロシア主導のEUといったものを作ろうという構想をぶち上げた。
ソ連崩壊でばらばらになった地域経済を統合して、脆弱なロシアの経済を守ろうという目的があったんだ。
そして、この構想の鍵を握る存在が、大国ウクライナだった。もしもウクライナがいないと、このユーラシア経済連合もロシアにとってはあまり意味のないものになってしまいかねない。その為、ウクライナのNATOやEUへの接近は、彼の計画を頓挫させて、ロシア経済を弱体化させる企みに感じられてしまったのかもしれない。


EUの動き

ソビエトが崩壊した後、東欧諸国、ポーランドやチェコスロバキアといった、旧ソ連ではなかったが、社会主義国だった衛生諸国が、まずEUに加入する。これで、旧ソビエトの緩衝地帯だった国とEUが隣接することになる。これは、EU側からすると不安だった。旧ソ連というのは経済的にも上手く行ってないし、軍事的にも昨日まで敵だったわけで、この人たちとなんとか仲良くして安定化したいと考える。
その為に、2009年旧ソ連諸国向けに発表されたのが、東方パートナーシップEAPと呼ばれるものだ。それは、『深化した包括的自由貿易協定を含む連合協定』(舌噛みそう)DCFTAというものに加盟することを含むものだった。これは、簡単に言うと、旧ソ連諸国に、あなたたちと関税抜きで商売取引をして儲けさせてあげるから、民主化してください、と迫る内容だ。
ただ、これには、加盟してしまうと他の国との経済協定に加盟できないという決まりがあった。ロシアからしてみると、ロシアが主導しているユーラシア経済連合に加入して貰えなくなるので、疎外感と危機感を抱く。更に、ウクライナが関心を示したことにより、危機感がマックスとなる。

紺が欧州連合
緑が加盟しようとした東欧諸国

ロシアはウクライナに、ウクライナ産の農作物を買わないぞと恫喝をする。更に、ロシアはウクライナに対して最恵国待遇という貿易上の特権を与えていたんだが、それを廃止するぞと警告する。
今度は、飴として、150億ドル分のウクライナの国債を買って経済援助しますよとアピールする。更に、天然ガスを更に値下げしますよと、飴と鞭で、ウクライナの譲歩を引き出そうとして、この時点ではウクライナを中立化することに成功した。
ロシアは経済的代償を支払って、旧ソ連諸国がロシアの勢力圏内に留まるようにすごく頑張った。
軍事的ではなく、経済と交渉で引き留めるという姿勢を見せている。

一方、ウクライナでは、DCFTAに加盟しないと決めたことで、国内の政情が不安定化してしまう。なぜかというと、このままEUに近付いていって、いつかEUに加盟できると思っていた都市部のリベラル層がいるんだが、ブレーキを掛けられてしまったんで、「なんでや!」って反発を生んだ。
まずは平和裏にデモ活動が行なわれる。これに対して、政府が機動隊を投入してしまう。このときの大統領は親ロシア派のヤヌコーヴィチ大統領なんだ。彼は、西ヨーロッパに近付こうとするデモ活動に対して機動隊を投入し、暴力で鎮圧しようとした。それに対抗して、民族主義集団であるスヴォボーダ、極右政党の右派セクターと呼ばれる人たちがデモ隊に参加して過激化していく。
流石にそこまでなると、反政府派と政府派は事態の収拾に向けて合意を図ろうとするんだが、過激派が一旦まとまった合意を無視して、大統領府を占拠してしまう。そして、その事態に煽られる形で、ウクライナ議会はヤヌコーヴィチ大統領の解任を決議する。
ただ、問題なのは、憲法上、ウクライナ議会に大統領解任権限はない。だから、意味のないことなんだが、兎も角決議した。
その結果、ヤヌコーヴィチ大統領はクリミア半島経由でロシアに脱出してしまった。そして、ウクライナには権力の空白期間というものが生じる。

ウクライナ、権力の空白期間2014年に起きたこと

ロシアはソチオリンピックをやっていて、全体的にお祭りムードだった。
その中で、首都キーウでは暫定政権が成立する。大統領が逃げちゃったから。
ウクライナの中でクリミアは自治共和国だった。なんなら、ソ連時代にフルシチョフに棚ぼた的に貰った領土だったから。
そのクリミア自治共和国の首都に、突然覆面をした兵士たちが現れて、主要部を占拠するという事態が起こった。この兵士たちはロシア兵とみられているんだが、当時ロシアはそれを否定していた。
恐らく、ロシア参謀本部直轄の精鋭部隊として設立されたばかりの特殊作戦軍だったんじゃないかと言われているんだが、プーチン大統領はロシア軍を送っていないと明言した。
この覆面の兵士たちはクリミア全土というのもそのうち掌握していくんだが、クリミア半島内のウクライナ軍はロシア軍よりも数的に優位だったのに、抵抗しなかった。
もし抵抗していれば、ロシア軍はクリミアを迅速に占拠することができなかった。だが、ウクライナは半ば無政府状態で、判断を下すことができなかったし、クリミア半島は過半数以上がロシア系住民で、在地のウクライナ軍にもロシア系が多かった。
しかも、ウクライナに駐留しているウクライナ海軍は、元々ソ連海軍で攻め込んできたロシア海軍と一緒に働いていた、少し前まで仲間だった人たちだった。更に、ウクライナ軍とロシア軍は、クリミア半島で仲が良かったものだから、ウクライナ軍はそこで戦闘になるのを避けて、降伏してしまう。
その結果、クリミア共和国の住民は、クリミア自治共和国とセヴァストポリ特別市として、ウクライナからの独立を宣言する。
宣言した二ヶ月後に、住民投票して、ロシア連邦に加盟することを決断し、結果、ロシア連邦に併合された。

だが、これはあまりに杜撰な結果だとして、親ロシアの国である、ベラルーシやカザフスタン、そして中国ですら承認していない。
これまた日本に喩えると、九州が住民投票の結果、独立しますって宣言して、日本や世界がそれを認めるかというと、そうはならないってことだ。
しかも、怪しげな覆面の兵士が送り込まれた末だ。スペシャルマナー違反だ。

このクリミア自治共和国がロシア連邦に併合される調印式は、ロシアのモスクワのクレムリン宮殿で実施された。そのときにプーチン大統領は一時間にわたる演説を行なったらしい。
その中で、「クリミアというのはソ連時代でも元々ロシア領だった。それなのに、フルシチョフ時代にはっきりした法的根拠もなく、ウクライナ領になってしまった。そして、政変で成立したウクライナ暫定政権には法的正当性がない。更に、クリミアの住民自身がロシアへの併合を望んでいる。民族自決権によって、ある地域が独立できることは、西側自身がコソボの例で実証している。」

ここで説明を加えると、ユーゴスラビアの紛争にNATOが介入した件が持ち出されている。
そこで成立した国にセルビアがある。バルカン半島の国だ。このスラブ系民族の中に、コソボという地域があったんだが、ここの人々が独立したがったので、アメリカやイギリスドイツといったEUの加盟国はコソボの独立を承認した。
さらに、コソボを守る為にユーゴルラビアに対してNATO軍が空爆を始めてしまい、それで状況が不安定化した為、NATOは更にコソボに治安部隊を送ったりしてコソボの独立を促した。
現状、コソボ独立を認める国は、どっこいどっこいといった微妙な感じではある。

これをロシアがどう見たかというと、ある国の中で特定の地域っていうのの独立が勝手に他国に承認されて、軍事支援されて、既成事実化されるっていうことに恐怖を覚えていた。
ロシアはチェチェンを含めた似たような地域を多数抱えていた為、そんなことをされるのがもの凄く嫌だった。

だから、ロシアもコソボにいるセルビア人を守るという名目で治安維持部隊を送ろうとする。NATOとロシア軍は調停しようとするんだが上手く行かずに一旦破綻に終わり、両者とも勝手にコソボに部隊を送り、現地で一触即発になった。
現地のアメリカ人司令官が「ここまで来たら全面戦争だ!」と言ったんだが、イギリス人指揮官が「そういうわけにもいかないだろ…」ってことで調停に乗り出し、現場のロシア人指揮官と調停して、前面衝突というのは避けられた。
何はともあれロシアは、こんな感じで西側は、国家を独立させることができるということを学んだ。そして、クリミアを併合するときに、真似をしたんだと主張している。
更に、プーチン大統領は、「西側諸国は力による支配で世界の流れを決めることができると思っているが、ウクライナの件はロシアにとって越えてはならない一線なんだ」と主張する。
この主張は、ウクライナでデモが起きて、大統領がロシアに逃亡するという件まで含め、全て西側の陰謀ではなかったのかという疑心暗鬼を示している。


クリミア自治共和国独立の余波


クリミアの独立の動きを見て、ウクライナの中で、ロシア系住民の多いドンバスで、分離独立の動きが強まることになった。具体的には、ロシア系住民が民兵組織を作り、独立運動としてウクライナの警察などを襲撃し始めた。
その結果、ドネツク一帯が武力で支配されることとなってしまうんだが、ウクライナ政府は部隊を派遣して鎮圧しようとしていた。次第に強力な部隊を送り込むようになった為、ウクライナ政府側が有利に進んでいた。
武装勢力を倒せそうになったところで、ロシア側から民兵が入ってきたり、武器弾薬が送られたりして盛り返し、ドンバス地方の戦況は泥沼化していく。

ロシアとウクライナはベラルーシの首都のミンスクで、停戦をしようと合意して、ミンスク議定書というものを結んだ。ところが、その後もなかなか停戦せずに、ずるずると八年間続いていた。

その間に、大統領が二回替わっている。2015年~2019年までは第五代大統領ペトロ・ポロシェンコ。彼は、亡命してしまったヤヌコーヴィチの後、空白の権力機関を経て、就任した。彼がやろうとしたのは当然ながら、ドンバス地方の回復。ミンスク議定書に調印して、ロシアと停戦しようとした。更に、ウクライナ国内で経済が悪化していた為、建て直そうとした。
ただ、彼は汚職のイメージが強かったり、経済復興ができなかった為に、2019年の選挙で負けてしまう。そして、彼に勝って当選したのが、第六代大統領ウォロディミル・ゼレンスキー。


ウォロディミル・ゼレンスキー

政治風刺を描いたドラマで人気を博したコメディアン俳優で、政治経験はなかった。それが汚職とは無縁なイメージを作り上げ、プラスに評価されて得票に繋がった。ウクライナは汚職指数が180国中122位で、メキシコやフィリピンやエジプトに並ぶレベルらしい。
更に、ゼレンスキー大統領はNATOとEUに加盟を果たすことを訴え、現行でロシアに圧迫されてる為、これも民衆に支持された。
当選後、ゼレンスキー大統領はNATO加盟に尽力したんだが、NATOには紛争を行なっている国は入れないという原則がある為、ドンバス地方の紛争が原因で、加入できなかった。

更にゼレンスキー大統領は、トルコから大量の無人戦闘機ドローンを購入し、東部の親ロシア派武装勢力を攻撃し始めた。続いてトルコから、ドローンを製造する権利も購入し、ウクライナ国内で製造して、東部に投入していく。これが、去年2022年2月に行なわれた。
このドローンの攻撃を受けて、ロシア軍がウクライナ国境に10万人規模で集結し、24日、ウクライナ政府によって八年間虐げられた人々を保護する為という名目で侵攻を開始してくる。


ロシア軍のウクライナへの侵攻

侵攻直後のロシア国内のニュースでの政府の主張は以下の通り。
「ロシアはウクライナというのを兄弟国とみており、弟国を攻撃するのは心外だし、この戦争は避けられたのかもしれないが、ソビエトが崩壊した90年代以降、プロパガンダ戦争でロシアは西側に敗北してしまっている。
このときに西側がきちんとした対応をしてくれていたら、この戦争は避けられたのかもしれないんだが、西側はロシアのことを追い詰めるばかりだった。だから、こんな事態になってしまっている

ロシアは、他の地域での分離独立運動への援助のときのように、最小の被害で地域に平和をもたらすことができるだろう。
最終的には、ウクライナの隣に、ハリコフを首都とする親ロシア派の国家を作りあげる。
ウクライナは、ナチスドイツに侵略されたときに、ロシアに助けて貰ったことを思い出して感謝すべきである。その為には、すぐに事態を収拾する為に、ロシアの言うことを聞いて欲しい」

一方で、ウクライナのニュースメディアの主張は以下の通り。
「ロシアはウクライナとの交渉を放棄して、ドンバス地方への攻撃を実行している。ロシアはウクライナの政権がナチス化してきていると指摘しているが、それは的外れだ。
今回の侵攻というのはロシア側の深刻な過ちであって、しかもそれは2014年から始まっている。だから、今やウクライナ人は自衛の為に戦わなければならないし、この事態を収拾できるのは、プーチンがこの事態の説明責任を果たして事態を好転させることだけだ

ロシアがこのような軍事侵攻に踏み切ったわけは、ロシアの軍事力とNATOの軍事力の差というものがある。NATOの兵力は、アメリカやカナダだけで318万人、ヨーロッパの加盟国だけで171万人いる。一方、ロシアの兵力は101万人となっているが、実際には90万人しかおらず、三分の一ぐらいでしかない。更に、このうちの15万人は徴兵されたばかりの子供で、役に立たないだろうと言われている。しかも、国土が広大で、守備隊を配置しなければならない為、攻撃にはほとんど使えない。
一方、ウクライナ軍は20万9千人しかいないし、ジョージア軍に至っては2万650人しかいない。
NATOには勝てないが、旧ソ連諸国には勝てる。だから、NATOと直接対決しない形で事態を収拾しようとすると、旧ソ連諸国をNATOに軍事介入する隙を与えることなく迅速に武力で制圧してしまうことが望ましい。
更に、NATOの軍事介入を防ぐ切り札として、『核兵器の使用の示唆』がある。

ちなみに、この『核兵器の使用の示唆』を一番始めに使ったのは、アメリカのニクソン大統領だ。ベトナム戦争の時に、「俺は核のボタンを持っているから、ソビエトはベトナム戦争に介入してくるな」と言って、脅しをかけた。これをロシアはNATOに対してやっているということだ。
刺激すると何をするか分からないぞと、追い詰められた狂人を装う理論。


ウクライナ侵攻の特筆すべきこと

第二次世界大戦以降のウェストファリア体制が暗黙の了解とされて来た時代、内紛への介入といった外部からの軍事投入というのは幾度も行なわれてきたが、首都にミサイル撃ち込みますみたいなことは一度もなかった。

その地域の人たちが、「独立したいよ」って言って、そこに軍事介入や軍事援助をすることによって独立国として承認するというやり方を取ってきた。
クリミアや、ドネツク、ルガンスクでもそういった方法が取られてきた。
だが、首都キーウに侵攻し、その国の軍事施設にミサイルを撃ち込むといったことは、あまりにもあからさまな侵略戦争行為で、国際法でも禁止されている。

ロシアを地政学から見たときの、安全保障としての防御反応からの侵攻だということは、理屈では分かるが、だからといってウクライナの主権を無視して良いのかというと、国際ルールにあからさまに反している。
その国際ルールというのは、西側に都合の良いルールであるという一面はある。だが、それを破ってしまうことが、国際秩序を乱すのは間違いないし、昔アメリカが核爆弾で脅したから、ロシアもやっていいというわけではない。みんなやめろやと、俺は思う。

ロシアは昔から主権を侵すような行為は度々してきてはいたが、正規軍を投入して首都を目指すという軍事行為を成功させてしまうと、旧ソ連諸国全てが同様の危機に晒され、ロシア周辺の緊張状態が一気に高まることになり、世界情勢を一変させてしまう。
これまでも、世界のあちこちで戦争が行なわれてきていたのは確かなんだが、少なくともあからさまな侵略戦争は建前上避けてきた。
ここからは俺の意見なんだが、今回の、純粋な侵略戦争を成功させてしまうと、少なくともロシア周辺は世界大戦前の植民地時代に逆行して仕舞いかねない。
そんな危機感を覚えている人が多い為、これだけロシアに批判が集まり、各国からのウクライナへの軍事支援が行なわれているのだろう。


ウクライナ議員団の訪問を受けて

ウクライナ研究者岡部芳彦氏がウクライナ議員団の訪問を受けて、興味深い会話を交わしている。
ウクライナ議員は軍人との兼務もできるらしく、現役の軍人でありながら議員という人もいたらしい。
現状、戦場の動きが鈍くなっているのは、矢張り寒さで動きが鈍るというのが大きいと説明している。だから、冬の間は大きく戦況が動くことはないんじゃなかろうかとのことだった。
更に、春先から春の頭くらいに何らかの形で戦争は終わるんじゃないかと言っている。なぜならば、既にそう想定して、いろんな復興のカレンダーを作っているという、とても曖昧な根拠ではあった。ちなみにウクライナ議員団が訪問した先は、神戸で、震災からの復興事業を参考にするのが目的だったらしい。

だが、ソ連研究者服部倫卓氏の見立てはもう少し悲観的だ。
9月にロシアがウクライナ南東部4地域を併合する宣言をしてしまい、そこが奪還されたとしても、プーチンの顔を立てる為にもロシアが執拗に奪還を目指す可能性がある。
ウクライナ研究者岡部芳彦氏の意見も同様に悲観的だ。
ロシアというのは、小規模の戦争を継続的に続ける経験と技術は持っているので、ウクライナが勝ったとしても、すぐに終戦という形にはならないんじゃないかということだった。





























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