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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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#クリスマス

【短編小説】イルミ・クリスマス

ホテルのシングル室から見る都会の夜景は、それなりに美しかった。 前入りした今日は何も予定がない。明日の朝まで、この部屋でのんびり過ごしていればよかった。明日の為の資料は完成していたし、初めての取引先への訪問でもないから、緊張もない。どうせ、年末の挨拶を兼ねてのものだから、向こうもそれほど気を張ったものではないだろう。 一緒に来た同僚は、こっちに友人がいるとかで、隣の部屋に荷物を置くと、早々に出かけて行った。この日の夜に示し合わせて会うのだから、ただの友人ではないのかもしれ

【短編小説】「お届け物です。」リターンズ

「お届け物です。」 玄関ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、大きな段ボール箱を抱えた宅配便の人の姿だった。 デジャブ。 私は頭を抱えたくなった。 去年も同じ光景が、目の前に繰り広げられた気がする。 「住所、氏名、あっていますか?」 私に向けて、宅配伝票を見せて、相手は問う。 去年と同じ人かどうかは分からない。 私がその場に立ち尽くしていると、相手は訝しげな表情をした後、「あの・・。」と戸惑ったような声をあげた。 その言葉にハッとして、私はその伝票に視線を走らせる。

【短編小説】ようこそ、クリスマスパーティーへ

部屋の片付けも済んだし、食べ物も飲み物も、狭いダイニングテーブルに並べた。後は招待客を待つだけだ。と思っていると、インターフォンが反応して、モニタに白いコートを着た女の子の姿が映った。 自分の想像していた人物像と違ったので、思わず言葉が出なくなる。招待客とはいえ、彼女を自分が住んでいる、ここへ呼んでもいいものか、と思ったが、相手も自分のことを偽っていたのだし、お互い様かと思い直す。 ここで、通話をしてしまうと、私の声で姿が想像できてしまうから、通話はせず、そのままオートロ

【短編小説】「お届け物です。」 ♯アドベントカレンダー ♯聖夜に起こる不思議な話

「お届け物です。」 玄関ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、大きな段ボール箱を抱えた宅配便の人の姿だった。 「住所、氏名、あっていますか?」 私に向けて、宅配伝票を見せて、相手は問う。 その伝票に視線を走らせると、確かに私の住所、氏名が記載されていた。 問題は、ご依頼主のところにも、『同上』と書かれていて、しかも、品名のところには、『肉』と書かれている。 段ボール箱自体は、私がよく使っている通販のものだ。クリスマスが近いせいか、張られている紙テープが赤くて、クリスマス

【短編小説】White Sweater 後編 ♯アドベントカレンダー ♯聖夜に起こる不思議な話

White Sweater 後編優子は川沿いの土手の上に、腰を下ろしていた。空には柔らかい光で地上を照らしている月や星がある。眠りに包まれた住宅街。完璧な静寂がここにある。 優子は手に持っていたセーターを抱きしめた。 もし、彼が今、このセーターを手に取って、着てくれたら、一体何と言っただろうか?案外、1年も経ったら、体が大きくなっていて、もうこのセーターが小さくなっていたりして。 サイズを調べるのに、青人のお母さんにも協力してもらったのにな。 彼を送る時に、着せかけてあげれ

【短編小説】ポインセチア ♯アドベントカレンダー ♯聖夜に起こる不思議な話

新宿南口の改札近くで、人待ちをしていた。 相変わらず人が多い。 そして、皆、進行方向か、自分の手元のスマホか、誰かと一緒であれば、その誰かの顔を、見つめている。 スマホを見ていて、よくこの人並みの中、進めるな。 私は改札近くの花屋の隣で、目の前の人波や、花屋に置かれた花を眺めていた。間もなくクリスマスを迎えるからなのか、数多くのポインセチアの鉢が床に並べられている。 クリスマスというと、ポインセチア。 きっと、その赤い部分が、クリスマスっぽいからなのか?赤と緑の取り合わせな

【短編小説】White Sweater 前編 ♯アドベントカレンダー ♯聖夜に起こる不思議な話

White Sweater 前編冷たい風が肌に突き刺すように感じられる。 今、高校1年生の二学期が終わり、周りの生徒達はこれからやって来るクリスマス、冬休み、お正月等に思いを馳せ、しばらく会うことのできない友達に、しばしの別れを告げる。そんな中、都中優子は一人浮かない顔で川沿いの道を歩いていた。 クリスマスが・・やって来る。 『優ちゃん。25日、パーティーやるけど・・もしよかったら来てね。』 友達の亜美が戸惑いながらも言った言葉。彼女は中学も一緒だったから、一年前のクリス

【短編小説】永遠の親友(再掲) ♯アドベントカレンダー ♯聖夜に起こる不思議な話

永遠の親友No.1 「クリス。クリス。遊ぼう。」 自分を呼ぶ声がして、クリス、クリストファーは皿洗いをする手を止めた。 「ファー?ちょっと待ってて、母さんから皿洗い頼まれちゃって。」 「皿洗い?」 勝手口から入ったのか、ファー、ファートリアンが台所に姿を現す。黒い髪に深緑色の瞳を持つ少年は、クリスの姿を見ると、大変そうだね。と呟いた。 「水、冷たいだろう?手伝おうか。」 「大丈夫。すぐ終わらせるから。いつものところで待ってて。」 金色の髪と青い瞳を持つクリスは、ファーを見

【短編】永遠の親友 No.4 最終話

永遠の親友 No.4 最終話なぜ・・クリスが・・。 ファーは、目の前で盛んに眠そうに目をこすっているクリスの姿を見つめていた。 自分自身で眠らせたのだ。自分が眠りに入るか、術を解くかしない限り、目が覚めることはないのに。 「どうしたの、ファー?」 クリスが不思議そうに尋ねる。 『クリス・・なぜ・・。』 「ねぇ、大きなもみの木だね。ここが願いの叶うところなんだ。」 クリスは目を輝かせて言う。 「僕の願いも叶うかな。」 『そ、それは・・。』 『いいだろう。叶えてやろう。』

【短編】永遠の親友 No.3

永遠の親友 No.3カミュスの目の前には、巨大なもみの木が立っていた。カミュスは風に乱れた髪を直すと、その木を見上げる。 「期待以上の大きさだな。」 そのもみの木は他の者よりとびぬけて高く、胴回りは大人3人でやっと抱えきれるぐらいの大きさであろう。幹に触れるとざらっとした手触りが伝わり、強い木の香りが辺りに満ちる。青々とした葉が雪に映えて美しい。強風も、もみの木の近くに来るとふっとやんだ。 「どうだ。初めて見た感想は?」 「!」 カミュスが振り返ると、そこにはクリスを抱え

【短編】永遠の親友 No.2

永遠の親友 No.2「ありがとう。君が助けてくれたんだってね。」 人好きする笑みを浮かべて、クリスに礼を述べる彼は、雪国では見られない姿をしていた。漆黒の髪と瞳、浅黒い赤銅色の肌。思わずクリスはまじまじと彼を見つめた。 「君の・・名前は?」 「クリス、クリストファー。」 「私はカミュスヤーナ。ここからずっと南から来たんだ。」 そう言うとカミュスヤーナ、カミュスは目を細めた。まるで遠くを見つめるかのように。クリスは大きな青い瞳をくりっと動かすと、たどたどしくこう尋ねる。 「

【短編】永遠の親友 No.1

永遠の親友 No.1「クリス。クリス。遊ぼう。」 自分を呼ぶ声がして、クリス、クリストファーは皿洗いをする手を止めた。 「ファー?ちょっと待ってて、母さんから皿洗い頼まれちゃって。」 「皿洗い?」 勝手口から入ったのか、ファー、ファートリアンが台所に姿を現す。黒い髪に深緑色の瞳を持つ少年は、クリスの姿を見ると、大変そうだね。と呟いた。 「水、冷たいだろう?手伝おうか。」 「大丈夫。すぐ終わらせるから。いつものところで待ってて。」 金色の髪と青い瞳を持つクリスは、ファーを見て

【短編】2人で過ごす時間

目の前に座っている水色の髪、青い瞳の少女が、とびきりの笑顔を向けているのを、私はぎこちない笑顔で受け止める。 なんでも冬の寒い時期に、家族で集まって、過ごす行事があるそうなのだが、それを知らずに仕事を入れてしまう私に、彼女は怒っているのだ。 この冬は、私と彼女が婚姻して初めて過ごす家族としての冬である。 それを特別と思わず、いつも通り摂政役の仕事をこなしている机に向かい合うように置かれたソファーに、今、彼女は座って、私の仕事が終わるのを待っているのだ。 ミシェルも彼女が