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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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#遠距離恋愛

【短編小説】あの時、告白してなかったら

最寄駅前のカフェに入ったら、思っていた以上に客がいて驚いた。今の時刻は午前6時半過ぎ。大半は夜行バスで来た人が時間を潰しているんだろうと思う。 だが、その内、一人で過ごしている女性は、待ち合わせ相手の彼女しかいなかった。その横に立つと、彼女は手元の本から視線をあげて、自分を見上げる。 「ロミさんですよね?」 彼女は私の言葉にニッコリと笑んで応えた。 「そうです。はじめまして。幾夜さん。」 改めてコーヒーを頼みに行き、彼女の前の席に座る。 何と話を切り出していいか分か

【連作短編】彼のかけら ヒロエ2

私はベッドの上で大きく伸びをする。 今日、午前中は大学の研究室に顔を出して、夕方から夜にかけてはバイトだ。大学は今年分の必要単位はほぼクリアしているから、それほど頻繁に行かなくてもいい。バイトもさすがに3年目となると、特に気になることもない。 私はベッドの横のラグを引いている空間を、じっと見つめた。 もちろんそこには何もない。 何となく、彼がそこに座って私を見ているような気がした。 そんなことあるはずもないのだが。 私が彼氏と会わなくなって、既に2ヶ月が過ぎようとしている

【連作短編】笑顔にしたかったはずなのに。ヒロエ1

彼女の体の上から、隣のベッドの空いたところに移動して、天井を見ていると、彼女が心配そうに顔を覗き込んできた。 「大丈夫?」 「何が?」 「心、ここにあらず、って感じ。」 まだ、ヒロエちゃんに言ってないの?と、彼女が言葉を続けた。 「うるさい。お前には関係ない。」 先ほどの行為で、荒くなった息を抑えながら、絞り出すように言葉を発した。 彼女は、俺の言いように不服そうに頬を膨らませた。 でも、それだけでは、気がおさまらなかったのか、さらに言葉を続けた。 「このままじゃ、かわ

【短編】邪魔する咳

唇を近づけたら、目の前の彼女に押し留められた。 「ちょっと、待って。」 かすれた声で言うと、彼女は外していたマスクを着け、咳をする。 「やっぱり、止めとこうよ。」 「だって、一ヶ月ぶりに会えたのに。。」 彼女は僕を、咳のせいか、熱のせいか、涙目で見上げる。 いや、熱はないって言ってたっけ。 僕は彼女の頭を慰めるように撫でた。 「でも、その状態で、服脱いだら、風邪悪化するんじゃない?少なからず、汗もかくし。体力も使うし。」 そう言ったら、彼女は押し黙った。 僕を見つめる目