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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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#再会

【短編小説】プレリュード

別に何か用があったわけじゃない。 橋本は自分にそう言い聞かせる。 そこは、自分の実家からそう遠く離れていない場所で、歩いて15分くらいの距離。用がなければ、足を運ばないような場所。 目に入った光景に、橋本は思わず息をのんだ。 今歩いている道路、とはいってもかなり細く、車2台すれ違うのには、片方が止まらなくてはならないが。それを挟んで、住宅が立ち並んでいたはずだが、全て取り壊され、更地と化していた。 要するに、だだっぴろい空き地がずっと広がっている。 奥には、いわゆる

【短編小説】言葉にできないこの想い

彼女から手紙が来た。 内容は他愛のないもので、学生時代の思い出を語るのに大部分が費やされた後、最後の最後に、『また会いたいね。』と書いてあった。 仕事から帰ってきて、滅多にない封書の到着に驚き、差出人を見てさらに驚いた上、最後の一言を見て、その場に崩れ落ちそうになった。 まだ、スーツ姿のままの自分が、手紙を手に真っ直ぐにリビングに入ってきて、それを読んで動揺している様は、傍から見ればかなり滑稽なものだと思うが、一人暮らしの自分にそれを指摘する人もいないので、まぁ、いいんだ

【短編小説】季節外れの花火を、君と。

妻が出産のため、実家に里帰りをすることになった。3ヶ月くらい。 妻の実家はかなり遠く、土日の休みの度に、俺がそちらに向かうのも無理な話だった。だが、出産には立ち会ったし、その前後は有休を使って、彼女の実家に一時的に滞在させてもらった。 産まれたのは、男の子だった。自分に似ていると、妻が相好を崩して言ってくれた。役所への出生届などは、自分が提出し、会社への報告なども終わってしまうと、途端にやることがなくなった。妻とも、毎日連絡は取り合っているが、お義母さんと連携して、うまくや

【連作短編】僕は事あるごとに君のことを考えていた。Θ2

高校に入って、友達とカラオケに行くことが多くなった。私はカラオケが好きだ。狭い空間ではあるが、マイクを使って、自分の好きな歌を歌えるのはとても楽しい。 さすがに一人で来ることはなかったけど、友達もカラオケ好きだし、学割も効く。カフェにいるよりも安くつく。スマホにアプリを入れようかとも思ったけど、自分の部屋で歌っていたら、家族に聞かれてしまうので、諦めた。 その日も駅近くのカラオケ店で2時間歌い、もう帰ろうという空気が漂い始めた頃。最後のフリードリンクを取りに行った私の耳に

【短編】信じられない言葉

Scene 1 先日、私の彼だった人から電話があった。 「分かっていると思うけど・・。」 彼はそう話を切り出した。 自分は今疲れていて、誰かと関わっていたくない。 できれば、誰とも会いたくない。 だから、お前とも会えない。 だから、お前に別れを切り出した。 前回、承諾してくれたよな? 俺は人と別れる時は、二度と縁づかないように徹底的に関係を断ってしまうけど、お前とはそうはしたくない。友達にはなれると思う。 結局、誰とでも俺は駄目なんだ。俺はどうしてもあいつと比べてしま

【短編】赤い傘

自宅は高台にあって、2階の角に設けられた窓からは、川とその両端に広がる田んぼを望むことができる。成長すればするほど、この景色を自宅から見られるのは、結構贅沢なことだと気づいた。夏には、最寄り駅の更に奥にある河原で行われる花火大会も、自宅からそれなりの大きさのものを見られるのだ。 とはいっても、自分はまだ成人を迎える前のしがない高校生でしかないのだが。高校生活は、大きなトラブルもなく、過ごせている。つまり、特に変化のない毎日だ。 家に帰ってくると、ここから外を眺めることにして

【連作短編】まだ気持ちを残している。翔琉2

彼と別れて、足を運ぶことが少なくなった駅ビルのギャラリーから、珍しく連絡があった。 駅ビルからそのギャラリーが撤退してしまうらしい。 私は、ギャラリーで同じ画家の絵を3枚購入している。その内1枚は自宅の部屋に飾って、毎日のように眺めているが、2枚はそれよりも大きく、自宅に飾るスペースはないので、ギャラリーの倉庫に預かってもらっていた。 ギャラリーを運営していた会社自体も、規模を縮小するとかで、預けていた2枚の絵も引き取ってほしいと言われた。飾るスペースはないので、保管してお