【短編小説】私達の距離は電車のドア二つ分
朝、駅のホームでいつもの電車を待っていると、隣の白線で示された箇所に、彼が立ち止まった。私が顔をあげると、こちらを向いた彼と視線が合う。お互いに軽く会釈をすると、そのまま視線を逸らした。
毎日、朝、同じ場所で、同じように電車を待ち、ホームに滑り込んだ電車に乗るのに、私達は言葉を交わしたことはない。
私が彼の存在を認識するようになったのは、3ヶ月前。
彼が背負っているバッグがあまり見たことがないもので、自分でも欲しいなと思ったからだった。黒のボックス型のものだったが、ブラン