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いつも、私の創作物を読んでくださる方、スキをくださる方、フォロワー様、こんにちは。説那です。 タイトルにある新しいジャンルの名前は、『特殊設定恋愛小説』です。全ては、私とやり取りしてくださっているフォロワー様からの指摘から始まりました。そもそも、『特殊設定』とは何だ?という話からしなくてはなりません。 本を読むことが好きな方々であれば、『特殊設定ミステリー』というジャンルがあることをご存知かもしれません。『特殊設定ミステリー』は、SFやファンタジー、ホラーなどの設定を用い
それほどではないむかし、あるところに、一人のさえない会社員の男がいました。 せっかくの休みの日も、特にやりたいことが思いつかず、遅くまで布団で惰眠をむさぼり、遅い朝食兼昼食を食べ、サブスクの動画を見たり、ゲームをしたりして時間を潰し、取り敢えず買い物に行き、翌日の仕事の事を考えて嫌な気持ちになり、それを忘れるために寝る。 今日も、そんな日を過ごすことになるんだろうと、彼は重い上半身を起こす。 「おい」 彼は、その起き上がった体勢のまま、何もない空中に向かって、声をかけ
仕事から帰って、お風呂場の扉を開けると、明らかにダルそうな表情で、リュウがこちらを振り返った。お風呂場の窓は開いているものの、風はあまり吹いておらず、窓の外は夏の強い日差しが降り注いで、彩度のない白飛びした畑が見えた。 「おかえり、白羽。」 「ただいまー、水、温そうだね。」 リュウが浸かっている水に手を当てると、お湯まではいかないものの、思った以上に温い温度が感じられる。リュウは白羽の手を取ると、自分の頬にそれを当てる。ぬるっとした感触。リュウの肌の方が冷たく感じられる。
0 人魚姫症候群 その現象がいつから発生したのかは、よく分かっていない。ただ結果として起こる事象ははっきりしている。 人が消える。 それこそ、体の端から、泡のように空に弾けて消えていく。 その様子から、『人魚姫症候群』と、まことしやかに囁かれるようになった。 なぜ、その現象が起こるのか。それは早々に判明する。それは特定の事柄を行わないと発生しない。そして、必ず相手が存在する。つまり、必ず『人魚姫症候群』のきっかけとなる事柄を見ている人が、存在するということ。 中には
「それ、本気で言ってる?」 女の言葉に、男は肩をすくめる。 「嘘みたいな話だけど、本当だし、本心から言ってる。」 女は口を噤んで、考え込む仕草を見せた。 「無理に、とは言わない。」 「・・でも、このまま断ったら、私はあと3ヶ月、ずっと気になってしまうし、張元くんが嘘を言うとも思えないんだよね。」 女は、はぁっと深く息を吐く。張元と呼ばれた男は、その様子を見て、心配そうに「すまない。」と口にした。 「・・私が断ったら、他に頼めそうな人のところに行くの?」 「いや
私達の結婚生活は、25年を迎えた。 大切に育てた子どもたちも、成人し自分たちの世界に旅立っていった。 寂しくなった2人だけの生活は、それでも穏やかに過ぎさっていく。 何も問題はない。 たぶん、これが幸せというものだろう。 私達の間には、もう情というものしかなく、恋愛のような甘ったるい空気は少しも流れていない。 お互いを見つめる目に映るのは、無関心ではないが、特別な感情は滲まない。 ただ、時々、自分たちはなぜ一緒にいるのかと、考えることがある。 仕事から帰ってきたら、ダ
第十二話 自分のことがよく分かってないよね。 「貴方は選ばれました。貴方の願いを一つ叶えましょう。」 そう言って、現れる白い服、白い肌、中性的な面立ち。 彼、彼女は、誰かの前に決まり文句を吐いて現れ、相手の願いを一つ叶えてくれると言う。 都市伝説のような、怪しい話。 そもそも、願いを叶えたら、その叶ったことすら忘れてしまうと言うのだから、その話が広まっていることすらおかしい。だが、救いのない今の世界には、好意的に受け取られ、広まった。 いや、実際に見た事のある人は、ただ
自分の腹から胸にかけて手を当てて、その場に立ち止まる。さっき学食で昼食を取ったばかりなのに、もう空腹感を感じる。 まったく、自分の体はどうなってしまったんだ。 思わず舌打ちしたくなったが、同じ空間に人がいることを考えて自重する。 「どうした?」 後頭部をはたかれた。そんなことしなくたって、聞こえてるのに。俺は、相手を見ながら、渋々と口を開く。 「・・腹減った。」 「まじで?さっき食べたばっかじゃん。」 「でも、食べたい物があるわけでもないし、どうしようかと思って。」
夜、眠りにつく前。 その日、一日が終わって、後は本当に寝てしまうだけで、でも、直前に見ていたスマホとかのせいで、全く眠れなくて、真っ暗な部屋の中、布団に入っている時。 自分が一番、一人だと感じる時間。 普段は、仕事をして、同僚や上司、部下とそれなりに会話もして、休みは一人で過ごすことも多いけど、何かしらしている内に時間は経って、一人でいることなんて、気にもしないのに、寝る直前に、どうしても考えてしまう。 自分の手の届くところに、他人の温もりなど感じない。 もうどれくらい
私達が出会ったきっかけは、病院の通院バスの中で、隣の席同士になったことだった。 私は、命に係わるものではなかったが、体内に良性の腫瘍ができていて、そのままにしておくと、生活に支障が出るというので、手術で取り除くことが決まっていた。手術までの間、定期的に病院で診察を受けなくてはならなかった。一方、彼は持病を抱えていて、私と同様、定期的に病院に通っていた。 同じ病院に通うもの同士、そして、年齢が近いこと、また平日は仕事があり、通うのは土曜日の午前中と同じ時間帯。共通点も多く、
その現象がいつから発生したのかは、よく分かっていない。ただ結果として起こる事象ははっきりしている。 人が消える。 それこそ、体の端から、泡のように空に弾けて消えていく。 その様子から、『人魚姫症候群』と、まことしやかに囁かれるようになった。 なぜ、その現象が起こるのか。それは早々に判明する。それは特定の事柄を行わないと発生しない。そして、必ず相手が存在する。つまり、必ず『人魚姫症候群』のきっかけとなる事柄を見ている人が存在するということ。 中には、それを自らの危険を顧
眼鏡もコンタクトも使わずに過ごしてきた私だったが、仕事柄か、趣味の為か、特定の距離のものが、ぼやけて見えるようになってきた。 まだ、老眼になるような年齢ではないけど、今は『スマホ老眼』と言って、若い年代でも、目を酷使していて、老眼になることがあるらしい。 仕方がないので、休みの日を使って、近くの眼鏡店に行き、眼鏡を作ることにした。せめて、仕事の時だけでも眼鏡を使えば、仕事の後に感じる疲労から解放されるだろうと考えたためだ。 でも、私の目は思っていた以上に悪くなっていて、日常
クリスマスや年末を前にして、飾り付けられたイルミネーションが、まばゆい光を放っている。 さすが、土曜日。さすが、クリスマスイブ。 この駅前の人の多さは、普段の土日に比べたら、断然多いと思う。 彼女が人混みに酔ったり、誰か怪しげな人に声をかけられなきゃいいけど。駅前で待ち合わせじゃなく、僕が彼女の家まで迎えに行けばよかった。 僕は首元のマフラーに顎を埋めると、大きく息を吐いた。 息はマフラーから漏れて、視界に白く映る。 僕の座っている円形の石のベンチから、冷たさが登ってくる。
「お届け物です。」 玄関ドアを開けた私の目に飛び込んできたのは、大きな段ボール箱を抱えた宅配便の人の姿だった。 「住所、氏名、あっていますか?」 私に向けて、宅配伝票を見せて、相手は問う。 その伝票に視線を走らせると、確かに私の住所、氏名が記載されていた。 問題は、ご依頼主のところにも、『同上』と書かれていて、しかも、品名のところには、『肉』と書かれている。 段ボール箱自体は、私がよく使っている通販のものだ。クリスマスが近いせいか、張られている紙テープが赤くて、クリスマス