小説・『記者カイ見』・2
作家は、「神の視点」で小説を書くのだから、極めて良識とバランス感覚に富んでいる筈である。しかるにおれは良識とは無縁であり、感覚も異常である。なぜかと思い、よく考え、結論が出た。
今までずっと一人称で書いてきたからだ。
と、この老作家は嘯いているが、実際、そんなことはなく、しっかりと書いてきているでは無いか。そもそも「神」の視点、とやらは、本当に「神の視点」なのだろうか。「視点」とは何?
私の、そんな懸念を他所にこの老作家はまだ云々(うんうん)と唸り続け、仕舞いには本当に頭を上下左右に揺すりはじめた。
運転手の方は、流石に痺れをきらし、これまた実際にカー・ハンドルをパンパンと叩きはじめた。さながら、ボクサーのようだ。
一方その頃、世田ヶ谷の丁度真中(まんなか)に位置する邸宅に、一台の黒塗りの筺(くるま)がするりするりと到着。それを見越した長身の老人は、ドアを開けた。外は小雨が降っていた。
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