R5司法試験再現 刑法(評価:C)

第1 設問1
1(1)について
未遂罪とは、実行に着手してこれを遂げなかったときに認められる(刑法43条本文)。
未遂罪の処罰根拠が、法益侵害の具体的危険を惹起した点に求めるとすると、実行に着手したとは、実行行為に密接的関連する行為に認められると解するべきである。
詐欺罪は、欺罔行為、錯誤、錯誤に基づく交付行為、財物移転の各過程が因果関係を有する一連の行為がなされた時点に既遂が認められ、欺罔行為が実行行為にあたると解される。
たしかに、現金の交付を求める文言を述べることは、被害者の個別的財産権の法益侵害の危険性を惹起させるが、そのような行為でなくても、そのような法益侵害を惹起することがあり得ることから、現金の交付を求める文言を述べることでなくとも、実行行為に密接的関連する行為をすることは可能である。
以上から、甲に未遂罪を認めることができる。
2(2)について
欺罔行為に密接的に関連する行為であるというためには、行為時の全事情を判断の基礎として事後的に判断する。この際、行為者の計画も判断の基礎となる。
本件では、甲は計画に基づき常習的に高齢者から現金をだまし取っていたことからすると、1回目の電話の時点から、当該計画が具体的に始動するものといえる。すなわち、対象者たるAの財産権が侵害される現実的危険が生ずるおそれがあるといえるため、それより前の時点との実質的相違が生ずる。2回目の電話は、この危険をより高めるものとみることができる。
したがって、②に実行の着手が認められることとなる。
第2 設問2
1 乙と丙が、Bを縛り上げて、B宅から300万円を持ち出した行為につき、1項強盗罪の共同正犯が成立しないか(236条1項、60条)。
強盗罪は、①「他人の財物」を②「強取」することで成立する。
300万円は、B宅のテーブルの上に置かれていたものであるから、Bが占有する「他人の物」にあたる(①)。
強取とは、相手方の反抗を抑圧して、強制的に他人の財物の占有を移転することをいう。
相手方の反抗が抑圧されたかについての判断基準は、社会通念に従い客観的に判断する。
Bは一人暮らしの高齢者である一方、乙と丙は二人組であるから、B側のほうが人的不利をとっているうえ、体格差もあると思われる。
また、Bをロープで縛り上げ、口を粘着テープでふさぐことは、助けを呼べなくさせるほか、身動きをとれなくさせるものである。
したがって、Bの反抗は抑圧されていたといえる。
そして、乙と丙がテーブルの上から300万円を持ち出すことは、Bの反抗を抑圧してその占有を強制的に移転させるものであるから、「強取」にあたる(②充足)。
そして乙と丙に故意(38条1項本文)と不法領得の意思も認められる。
以上から乙と丙の上記行為は強盗罪の構成要件にあたる。
ここで、BはCによって緊縛を解かれたものの、その後転倒して頭部を床に打ち付け、全治2週間の傷害を負っている。そうなると、乙と丙に強盗致傷罪が成立しないか。(240条)
「強盗が、人を負傷させた」とは、強盗が人の生命身体といった重要な保護法益を侵害することが類型的に多いことを鑑みて、副次的にそれらも保護する趣旨から、強盗の機会によって生じたことを指すと解されている。すなわち、場所的時間的近接性から判断する。
本件では、傷害結果は強盗行為の1時間後に生じており、時間的近接性が認められない。
したがって、「強盗が、人を負傷させた」とはいえない。
また、Bが転倒したのは、Cが座って安静するよう言ったにもかかわらず、これを守らずに動いて転倒したものである。
そしてCが来訪したのはたまたまであることからしても、Bが動いたとする介在事情の結果への寄与度は大きい。
したがって因果関係も認められない。
よって乙と丙に強盗致傷罪は成立しない。
次に、乙と丙に共同正犯が成立するかについて検討する。
乙と丙は犯罪を共同して実行していることから、実行共同正犯が成立するか検討する。
実行共同正犯は、共同実行意思の形成と、その実行意思に基づく実行行為が認められた場合に成立する。
本件において、乙と丙は、甲の計画に従わず、Bを縛り上げてしまえばより確実に現金が手に入ると考えたことから、Bを縛り上げて金品を奪うことについて意思連絡し、共同実行意思の形成をしている。
そして、それに基づきBに対して強盗行為を働いていることから、共同実行意思に基づく実行行為がなされている。
また、乙と丙は自らテープやロープを用意し、100万円ずつ山分けすることとしていることからも、重大な寄与が認められる。
以上から、乙と丙は共同正犯が認められる。
よって、乙と丙には、強盗罪の共同正犯一罪が成立する。後術のとおり、甲とは窃盗罪の範囲で共同正犯となる。
2甲が乙及び丙にBから300万円をだまし取ってくるよう指示した行為に、窃盗罪が成立しないか。
甲は実行行為に関与していないことから、共謀共同正犯が成立するかについて検討する。
共謀共同正犯は、共同正犯の処罰根拠が2名以上が共同して犯罪結果の実現に物理的・心理的に因果性を及ぼした点にあるとすることから、①共謀②共謀に基づく実行行為③正犯意思の各要件が認められる場合に成立する。
甲は、乙と丙とともに、計画に基づき高齢者から現金をだまし取ることを常習的に行っていたことから、Bについても、B宅から現金を奪う点について意思連絡があったといえる(①充足)。そして甲は計画を首謀しているほか、100万円のわけ前を受け取っていることから、正犯意思も認められる(③充足)。
もっとも、乙と丙は、前記通り、計画どおりに行わず、自ら強盗行為に及んでいる。したがってこの行為の結果を甲に帰責できるか。共謀の射程が問題となる。
たしかに、300万円を奪うことや、被害者がBであることは共通しているものの、甲としては、Bに直接危害を加えることは考えておらず、常習的に行われる計画においてもこれは想定していない。
そうなると、Bの反抗を抑圧して300万円を強取する点については、甲は物理的・心理的因果性を及ぼしているとまではいえない。
よって、強盗行為は共謀の射程外にあり、甲に帰責することはできないというべきである。
もっとも、Bから300万円を窃取する点については、なお物理的心理的因果性を及ぼしたといえることから、甲は窃盗罪(236条1項)の範囲で罪責を負うべきといえる。
そして甲に故意および不法領得の意思が認められる。
よって、甲には、乙と丙とともに、窃盗罪の共謀共同正犯一罪が成立する。
第3 設問3
業務執行妨害には、権力的公務が含まれないと解される。
なぜなら、権力的公務は、別個、公務執行妨害罪によって保護されているといえるからである。
そうなると、事実6は、Dが乙を逮捕するという権力的公務を妨害するものであるから、公務執行妨害罪の対象となる一方、業務妨害罪は成立しないこととなる。
一方で、事実7で虚偽の通報をして応援要請を妨害した点について、応援要請そのものは権力的公務とはいえず、業務執行妨害罪が成立することとなる。

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