R5再現答案 憲法(評価:B)

第1 設問1 

1 新制度第3について、

(1)   新制度第3が、遺族年金の被保険者側の要件を被保険者が死亡時に妻が40歳以上、夫・父母が55歳以上と一定の年齢としている点について、年齢を理由とする差別にあたるとして、憲法25条1項及び14条1項に反しないか。

憲法25条は、生存権について、抽象的権利説であると解されている(朝日訴訟・堀[1]訴訟)。

したがって、生存権に関する法律が制定されると、その法律によって与えられた権利が、憲法25条と一体となって保障されることとなる。

そして、その受給要件の中で差別的規定があれば、別個に憲法14条1項違反が問題となる。

本件で、新制度によって新遺族年金受給権が与えられることから、これを受給する権利は25条1項によって保障されることとなる。

そして、憲法14条1項は、立法内容の平等を求める規定である。

もっとも、合理的根拠に基づく合理的区別であれば、受給要件に差異があったとしても14条1項に反しないと解される(国籍法違憲判決)。

もっとも、年齢といった、14条1項後段列挙事由が問題となっている場合は、歴史的に非合理な差別を受けやすいという背景を反映しているものであるから、その合憲性は厳格に審査されるべきである(特別意味説)。

それに従えば、上記区別の審査基準は、厳格な審査基準、すなわち、①目的がやむにやまれぬほど重要であること②目的達成の手段が必要最小限であることとなる。

ア①について

年齢につき一定の要件を設けた目的は、Bの説明によれば、被保険者の死亡後の遺族の生活を守るという遺族年金の趣旨を踏まえつつも、遺族が就労によって自ら収入を確保することを促進することを目的とするものであるとされている。新制度の財源が、国民年金の保険料、厚生年金の保険料および国庫負担金によって賄われているものの、これらの財源が有限であることを鑑みれば、財源の出費を抑えるためのこのような目的は、やむにやまれぬほど重要であるといえる(①充足)。

イ②について

もっとも、②については、以下の理由から、要件を満たさない。

新制度が、妻について被保険者の死亡時に40歳としたこと、夫や父母について被保険者の死亡時に55歳としたことについて、Bはその根拠について何ら説明をしていない。

したがって、必要最小限度であることについて検討されたとはいえない。

よって、②を満たさない。

ウ以上から、上記の点は、厳格審査基準の要件を満たさず、憲法25条1項・14条1項に反する。

(2)   新制度第3が、男女で支給要件を分けている点について、憲法25条1項・憲法14条1項に反しないか。

この点も、男女という「性別」を理由とする差別であるから、特別意味説により、厳格審査基準によって判断されるべきである。

ア①について

新制度が男女別に支給要件を設けた目的は、男女の就労状況・収入の実情に大きな格差があることから、これを是正することにある。

すなわち、Bの提供した資料によれば、20XX年の前年の給与所得者の年収では、男女の平均年収に2倍の格差が認められ、40歳・50歳代でも1.5倍の格差が尚存在することからすると、その格差を是正する目的はやむにやまれぬものといえる(①充足)。

イ②について

もっとも、男女間において、その年齢差を15歳もの差を設けた点については、立法事実から合理的根拠を見出しがたく、必要最小限度の手段とはいえない。したがって、②を満たさない。

ウ以上より、上記点について、合理的根拠に基づく区別とはいえず、憲法25条1項・14条1項に反する。

2 新制度第5について

新制度第5が、旧遺族年金を廃止する点について、憲法25条に反しないか。

前述の通り、生存権については抽象的権利とされており、具体的な法制度によってその権利が認められると解すれば、遺族年金制度によって遺族年金給付を受ける権利が制定された結果、その権利は憲法25条によって保障されることとなる。

そして、憲法25条2項は、福祉制度の向上に努めるものとしている。学説では、これは制度後退禁止原則を採っていると解されている。

したがって、遺族年金制度を廃止することは、制度後退禁止原則に反するため、憲法25条2項に反する。

第2 設問2

1 新制度第3について

(1)設問11(1)の点について、年齢を理由とする区別がなされている際は厳格審査基準にするべきだとすることにつき、判例はそれを認めていないことや、本件もそうすべきとまではいえないとする反論が考えられる。

これについて私見も、厳格審査基準をとるべきとまではいえないと考える。もっとも、年齢については自らの努力では変えられない性質である点や、新制度によって年金を受給する権利が25条によって保障されるべき点を鑑みると、厳格な合理性の基準によって検討すべきと考える。すなわち、①目的が重要であること②手段が実質的関連性を有していることによって審査する。

①    については、設問1と同様で、その重要性は否定されるべきではない(①充足)

②    については、以下の理由から実質的関連性は否定される。すなわち、寿命は自らの意思でコントロールすることはできず、予期せぬ事情で遺族年金を受給する法的地位に影響を与えることになるため、一定の年齢要件を定めることは、実質的関連性を有しないといえる。
以上から、結論としては新制度第3が年齢要件を定めている点につき違憲であるとするXの主張は正当と考える。

2設問1の1(2)について
この点も、厳格審査基準をとるべきでないとする反論が考えられ、私見も同様である。
もっとも、性別も、自らの努力で変えることはできないものであるから、この点も厳格な合理性の基準によって審査されるべきである。
①について、格差を是正するとする目的の重要性は否定されない。
②について、特に40歳以上の女性が新たに正規雇用の職を得ることが困難な現状を鑑みると、女性について特に支給要件を優遇する点は実質的関連性を有しているといえる。また、男性も55歳までは一般的には充分に働けていることが多いと思われることからすると、このように男女差を設けた点は、実質的関連性を有するといえる。
よって、上記点は14条1項・25条に反せず、合憲といえるから、Xの主張は正当とはいえない。

3設問1の2について
Xの主張に対する反論としては、そもそも旧遺族年金制度を廃止している点からすると、新制度は制度を後退させるものとはいえないとする反論が考えられる。そして、仮に制度後退にあたるとしても、立法裁量が尊重されるべきことから、正当化できるとする反論が考えられる。
この点、今まで遺族年金の給付が得られたであろう国民が、新制度によって遺族年金の支給を得られなくなるという点からすれば実質的に制度後退にあたるといえるし、立法裁量が尊重されるとしても裁量権の逸脱濫用があれば、憲法25条2項に反することとなると考える。

そして、裁量権の逸脱濫用について検討すると、第6において、5年間旧遺族年金の支給を認めるとした点や、3年目以降は半額に減らす点について、そのような期間を設定した合理的根拠が見出すことができない。

以上から、裁量権の逸脱濫用が認められ、第5・第6は憲法25条2項に反するといえる。よってXの主張は正当と考える。



[1] 試験本番堀木さんの名前をド忘れした

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?