R5司法試験再現 会社法(評価:B)

第1 設問1
1 小問1について 
会社法(以下略)423条1項に基づく損害賠償請求が認められるための要件は、①役員②任務懈怠③損害の発生④因果関係となる。
(1)Aは甲社の代表「取締役」であるから、役員にあたる(①)。
(2)任務懈怠とは、取締役が会社に対して善管注意義務・忠実義務を負っていることから(330条・355条・民法644条)、具体的法令定款違反・善管注意義務違反を指すものと解されている。
Gとしては、Aが本件土地を甲社に5000万円で買い取らせたことが、会社の利益を最大化するように図るべきとする善管注意義務に反すると主張することが考えられる。
これに対しAは、本件土地を甲社として購入することは、経営判断であるから、善管注意義務違反にあたらないとする反論が考えられる。
この点、Aが甲社を代表して本件土地を購入したのは、Aと本件土地の所有者であるEとの間で本件土地をめぐるトラブルが生じたため、そのトラブルを回避することを目的としている。このことは、Aのプライベートな事項に由来しているため、経営判断とはいえない。
そこで、善管注意義務に違反するかについて検討する。
前述のとおり、善管注意義務とは、会社の利益の最大化を図る義務に違反することを指す。
本件土地は、本件売買契約後も甲社で利用されることなく放置されている。このことは、Aとしても会社のために利用する意図がなかったといえる。また、本件土地の相場は高く見積もっても1000万円とされているところ、AはEの言い値である5000万円で買い取っている。会社の利益の最大化を図るという観点からすると、Aは少なくとも、本件土地の価格についてEと交渉する義務があったと考えられる。それにもかかわらず、Aはそれらをせずに買い取っていることから、Aは善管注意義務に反するといえる。(②充足)
(3)③について
損害額はいくらか。本件土地の相場価格と実際に買い取った価格の差額である4000万円とも考えられるが、本件土地を甲社が全く利用していないことを鑑みると、一切買う必要がなかったものといえ、5000万円全体が損害額といえる。(③)
(4)④について
Aが本件土地を5000万円で買い取ったこととそれにより甲社に5000万円の損害賠償が生じた因果関係は明らかである(④)。
(5)よって、GのAに対する423条1項に基づく損害賠償請求は認められる。
2小問2について
429条1項に基づく損害賠償請求が認められる要件は、①役員②任務懈怠③第三者に対する損害の発生④因果関係となる。
(1)①について
Aは取締役であるから、役員にあたる(①充足)。
(2)②について
任務懈怠とは、423条1項同様、具体的法令定款違反・善管注意義務違反となる。
そして、甲社は善管注意義務として、本件債務を履行すべき義務を負っているところ、
甲社は、本件債務を履行しなかったことにより、前期善管注意義務に反している。(②)
(3)③について
損害とは、429条の趣旨が、会社の事業活動によって生じた損害を特に保護するために法定責任とした趣旨から、直接損害のみならず、間接損害も含まれると解されている。
本件において、甲社が本件債務を履行しなかったのは、甲社は本件定期預金から本件債務を履行するつもりでいたところ、Aが甲社を代表して本件土地を購入するにあたって本件預金を取り崩したことから、実質的な債務超過に陥り、本件債務の履行ができなくなったことにある。
したがって、乙社は、Aが甲社を代表して締結した本件売買契約による債務超過によって本件債務の履行を受けられなかったということとなり、間接損害が生じたといえる。(③)
(4)④について
本件債務の債権額3000万円と、乙社の損害には因果関係は明らかに認められる(④)。
(5)
以上から、乙社のAに対する429条1項に基づく損害賠償請求は認められる。
第2 設問2
1 小問1について
(1)   Iに本件訴えに係る原告適格は認められるか。
甲社は、定款により全株式に譲渡制限をかけている(107条1項1号)ことから、甲社は公開会社(2条5号)にあたらない。
Iは、株主であったAを相続したことにより、Aの株式をHとともに準共有している(民法882条・887条1項・898条1項)。このことから、Aの株式を権利行使するためには、代表者を一人定めて会社に通知しなければならない(106条)。もっとも本件では、IとHとの間で協議が全く整わなかったため、代表者を定めた通知を行っていない。
では、Iは本件訴えを提起できるか。
この点、株主代表訴訟の提起は、他の株主の利益を図る機能も有することから、共益権に分類される。また、Iが訴訟提起できないとすれば、他の株主の利益を損なうおそれもある。したがって、Iは共有権の保存行為として、訴訟提起を認めるべきである。
よって、Iに原告適格が認められる。
(2)   Iに訴えの利益はあるか。
本件訴えは、本件決議1の取り消しを求めるものであるところ、本件では本件決議1のあと本件決議2がなされている。そうだとすれば、本件決議1を取り消す必要性があるだろうか。
この点、本件決議1に瑕疵があり、その瑕疵が治癒されないまま本件決議2がなされたとなれば、本件決議2にも瑕疵が連鎖しているとして、本件決議1を取り消せば本件決議2も不存在となるため、本件決議1を取り消す必要性が認められる。
よって、Iに訴えの利益を認めるべきである。
(3)   Iの本件訴えに係る請求は認められるか。
本件訴えは総会決議取り消しの訴えであることから、831条1項各号に該当する場合認められる。
本件では、本件決議1において、HがAの相続人として本件準株式の全部について議決権を行使している。前述のとおり、HとIは遺産分割協議が整っておらず、甲社に対して通知もしていない。したがって、106条本文に反しているようにみえる。
もっとも、甲社はHの議決権行使に同意していることから、106条但し書きによって有効となるように思われる。しかし、106条但し書きの同意の効果は、106条は民法264条但し書きの定める特別の規定であると解されていることから、民法264条本文に戻るということであり、権利行使者の権利行使を認めることではない。
そうなると、議決権の行使は管理権に関する事項であり、持ち分価格の過半数によって決するべきとなる(民法252条1項)。
そしてHは本件準共有株式について、持分価格の過半数は有しておらず、議決権行使は管理権の行使として有効とはいえない。
よって、決議の方法が法令に違反しているといえ、831条1項1号により取消事由が認められる。
また、Iと協議せずに議決権を行使した違法の程度は大きいといえ、裁量棄却も認められるべきでない(同条2項)。
よって、Iの請求は認められる。
2 小問2について
本問においては、Iは本件決議2において議決権を行使できた以上、本件決議1について取消の訴えはないようにもみえる。
もっとも、Iは本件決議1については議決権行使ができなかった上に、株主総会決議取り消しの訴えは他の者の利益保護にもなるため、Iが自ら議決権を行使したとしても、訴えの利益は否定されるべきではない。
よってIに訴えの利益は認められる。

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