令和5年司法試験再現 刑訴(評価:C)

第1 設問1
領置とは、遺留物や所有者などが任意提出したものについて、その占有を捜査機関に移転させるものである(刑訴法、以下略、221条)。
本来、相手方の占有権を制約する捜査については差押令状を要するところ(令状主義、憲法35条)、領置は相手が任意に占有を放棄するものとして、任意処分(197条1項本文)と解されている。したがって、領置が適法性を有するかは、任意処分として比例原則のもと許容されるかが問題となる。すなわち、必要性緊急性と、具体的状況下での相当性から判断する。
1捜査①について
捜査①は、ごみ袋1つを領置するものである。
まず、そのごみ袋の「占有者」は誰か。
ごみ袋は甲が居住するアパートの敷地内のゴミ置き場に捨てていったものである。
そして甲のアパートでは、居住者に対してごみをゴミ置き場に捨てるよう指示しており、大家がゴミ置き場のごみの分別を確認して地域のゴミ集積所に搬出することとなっており、居住者もあらかじめそのことにつき同意していた。このことから、一度ゴミ置き場に置かれたごみ袋は、大家がそのごみ袋を事実上支配できることとなるから、大家がそのゴミ袋の「占有者」となる。
では、そのごみ袋を領置することは、任意処分として適法か。
本件において、本件事件が発生しており、防犯カメラの映像などから、甲が本件事件に関与している可能性が高いと言える。また、本件事件は、強盗致傷事件であり、重大な犯罪である。
その甲が出したごみ袋には、本件事件に関する証拠物が入っている可能性は高い。また、ごみ袋を領置しなければ、そのごみ袋は大家によってごみ集積所に搬出されることで、Pが見失う可能性があるし、ゴミが回収されてしまえば、取り戻すことも不可能となる。
以上から、必要性緊急性が認められる。
そしてPは、甲が出したゴミ袋を特定しており、その一つのみを領置したにとどまり、他の者のごみ袋をも一緒に領置したりせず、そのゴミ袋を確認したりもしていない。このことから、甲以外のプライバシーを制約しないよう配慮がなされている。
また、そのごみを領置するにあたって、占有者たる大家に確認を取っている。
以上から、具体的状況下における相当性も認められるから、ごみ袋を領置したことは、任意処分として適法である。
よって、捜査①は適法性を有する。
2捜査②について
捜査②は、DNA型サンプルの採取のために、空容器を領置してサンプルを採取するものである。この空容器は、「遺留物」にあたる。
DNA型サンプルを取得することは、これによって甲のプライバシーを大きく制約するものであるから、強制処分(197条1項ただし書)に当たるようにも見える。もっとも、このことは領置後の事情であり、領置そのものの適法性を左右するものではないら、
そこで、空容器を回収して領置したことが、任意処分として適法か、1と同様の基準に照らして判断する。
本件において、ごみ袋からはスニーカー1足しか証拠品を回収できず、このスニーカーは量産品であったことから本件事件の現場で実際に使われたと断定することはできず、犯人の特定につながる証拠を得ることもできなかった。
また、マスクの外側に付着した血液から本件事件の犯人のものと思われる血液が検出されているが、甲のDNA型は警察のデータベースに登録がされていなかった。
ここで、甲のDNA型がわかり、そのマスクのDNA型と一致すれば、本件事件の犯人が甲であると断定することができる。また、空容器がゴミとして回収されてしまえば、甲のDNA型を検出する機会が損なわれてしまう。このことから、甲の唾液が付着したと思われる空容器を回収する必要性緊急性が認められる。
具体的状況下における相当性について、Pは炊き出しのボランティアとして甲らに豚汁を振る舞っているが、豚汁を受け取って食べるかは任意のものであり、Pが甲に食べることをそそのかしたりもしていない。また、あらかじめ容器にマークを付けることで、甲が使用した容器のみを回収できるようにしており、他の者の容器と一緒に回収したりせず、確実に甲のものだけをピックアップできるようにする一方他の者のプライバシーを制約しない配慮もなされているといえる。
よって、相当性も認められ、領置として適法である。
以上から、捜査②も、適法性を有する。
第2 設問2
実況見分調書①及び②が証拠能力を有するかについて、まず各証拠が伝聞証拠に該当しないかが問題となる(320条1項)。
伝聞証拠禁止原則の趣旨は、伝聞証拠が知覚・記憶・表現・叙述と複雑な供述た過程を経て作成されるにも関わらず、宣誓による偽証罪の予告、反対尋問の応酬、裁判所による供述態度の観察によって真実性を担保する手段を講ずることができないから、事実認定を誤ることを防止する点にある。
上記趣旨から、伝聞証拠に該当するかは、公判廷外における供述を内容とする証拠であって、要証事実との関係からその内容の真実性が問題となるものをいう。
実況見聞調書①及び②は、いずれも甲の起訴前に作成されていることから、公判廷外の供述を内容とする証拠にあたる。
そして、実況見聞調書①の立証趣旨は甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能であったこととされているところ、甲は犯人性を否定している。したがって、要証事実は、V方に侵入した人物は甲であるとする事実であると考えられる。かかる事実が推認されれば、甲が本件事件の犯人であるといえることとなる。
そうなると、実況見聞調書①の内容を見る必要があるから、その内容の真実性が問題となる。
よって実況見聞調書①は伝聞証拠にあたる。
実況見聞調書②は、被害再現状況を立証趣旨としており、これによる要証事実は、Vが供述通りの傷害を甲によって与えられたこととなる。かかる事実が推認できれば、甲が犯人であることに加え、甲の行為が強盗致傷罪の構成要件に該当することを認定できる。
以上から、実況見聞調書②も、伝聞証拠にあたる。
伝聞証拠に該当するとなると、321条以下の伝聞例外を満たさない限り証拠能力が認められない。
そして本件で甲の弁護人はいずれも不同意意見を述べていることから、326条によって証拠能力が認められる余地はない。
ここで、実況見聞調書①は甲に関する員面調書、実況見聞調書②はVに関する検面調書であるから、それぞれ321条1項3号・322条、321条1項2号の要件を満たさないか。
この点、321条1項柱書きによれば、それぞれにつき供述録取者の署名押印を要求しているところ、実況見聞調書①及び②はいずれも甲・Vの署名押印はない。
よっていずれもその要件を満たさない。
もっとも、1項の要件を満たさないとしても、3項の検証結果を記載した書面であれば、
作成者が真正に作成したことを証言することを条件として、証拠能力が認められる。
実況見聞調書は検証ではないが、任意処分の範囲内で作成者たる捜査機関が五官の作用を用いて経験した結果を記載するものであるから、321条3項を準用することができる。
よって、作成者が真正に作成したことを証言することを条件に、実況見聞調書①及び②は321条3項を準用することによって証拠能力を有する。

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