R5再現答案 行政法(評価:B)

第1 設問1(1) 
1本件解職勧告が取消訴訟の対象となる処分に該当するか(行訴法3条2項)。
取消訴訟の対象となる処分とは、公権力の主体たる国または公共団体のする行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
以上の定義から、取消訴訟の対象となる処分とは、①公権力性②法的効果を有するものを指すと解されている。
(1)①について
本件解職勧告は、所轄庁たるB県という公共団体が、その優越的地位に基づき一方的に行うものであるから、①を満たす。
(2)②について
解職勧告が法的効果に当たらないとする反論の論拠として、行手法13条1項に規定するような聴聞手続きをとっていないことは、解職勧告は不利益処分に該当しないとすること、すなわち、行政指導ととらえてるように思える。行政指導となれば、事実行為であるから、法的効果が認められないこととなる。
そして役員の解職は、所轄庁ではなく理事会が行う(法45条の13の1項3号)ものであるから、解職勧告によって直ちに解職の効果を生じさせるものではないから、この点からも法的効果が認められないとする反論が考えられる。
もっとも、法56条4項に基づき講ずることができる措置として、役員の解職は外されていること、そして役員の解職を勧告するにあたっては同条7項に基づきすることとなっていること、そして同条7項に基づき役員の解職を勧告するにあたっては、4項・6項に違反していることが前提となっていることからすると、法は解職勧告について、単なる行政指導に留めないものと捉えているといえる。
また、役員の解職が勧告されるにあたっては、9項に基づき弁明の機会を与えなければならないとしている。
もし、解職勧告に従わなければ、所轄庁は監督の目的を達することができない場合にあたるとして、8項に基づき解散命令を出すことができるようになる。
以上からすると、解職勧告がされると、対象となる法人は事実上解職勧告に従って役員の解職しない限りは解散命令を出されうる地位に立たされるといえるし、実際に本件では本件解職命令に従わなかったことが考慮されて本件解散命令が出されている。したがって、解職勧告は、事実上の行為ではなく、法的地位に影響を与えるものといえる。そうだとすれば、実効的権利救済の観点からも、不服があれば解職勧告の違法性を取消訴訟で争うことを認めるべきといえる。
よって解職勧告に、法的効果を認めるべきである(②充足)。
2以上より、本件解職勧告は、取消訴訟の対象となる訴訟にあたる。
第2 設問1(2)
1 Dに当該取消訴訟の原告適格が認められるか。
原告適格は、法律上の利益を有する者に認められる(行訴法9条1項)。
法律上の利益を有する者とは、当該処分によって法律上の権利又は法律上保護される利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、法律上の利益を有するか否かは、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるに留めず、個々人の個別的利益としてもこれを保護する趣旨であると解される場合には、そのような利益も法律上保護される利益にあたる。
本件解散命令は、社会福祉法人たるAに対して出されたものであるから、Dは本件解散命令の名宛人ではない。
もっとも、名宛人でないとしても、当該処分によってその者の法的地位に影響を与える場合は、そのような地位を保障すべきことは法律上保護された利益といえることから、原告適格を認めるべきである。
Dは、Aの役員である。そして、解散命令によって法人が解散されると、法40条1項5号・44条により、解散を命ぜられた法人の解散当時の役員は、他の社会福祉法人の評議員や役員になることができなくなる。そうなると、Aが解散命令によって解散されれば、Dは法令により直接他の社会福祉法人の評議員や役員に就任することができない地位に立たされることとなるし、その地位は社会福祉法人の理事となることから生ずる反射的利益と捉えることもできないから、Dの法律上保護された利益が侵害されることとなる。
よって、Dに原告適格が認められる。
第3 設問2(1)
行訴法25条2項の「重大な損害」については、同条3項に解釈規定がおかれている。
解散命令が出され、Aが解散されれば、Aが福祉事業サービスを継続することができないのみならず、多数のAの福祉サービス利用者やAの従業員が、新たな事業サービスを受けられる事業者を探したり、転職先を見つけたりすることを余儀なくされるという不利益として損害が生ずる。また、Aと立地やサービス内容・待遇が同等な事業者を見つけられるとは限らず、このような損害の性質・内容を鑑みると、その回復は困難といえる。
ここで、B県としては、再び同じような法人を立ち上げることでこのような損害は回避できるため、重大な損害とはいえないとする反論が考えられる。
この点、当該処分は、Aの法人格を失わせるものであり、前述のとおりAの解散当時の役員は、他の福祉法人の評議員・役員になることはできないのであるから、同様の法人を立ち上げることもできなくなる。一方で、その処分が撤回ないし取り消されれば、以前のようにAは事業を営むことができ、このような損害を回避することができる。
以上から、本件では、「重大な損害」が認められる。
第4 設問2(2)
本件解散命令は、法56条8項に基づきなされるところ、法56条8項は、解散命令をすることができると規定し、解散命令をするか否か、そしてその要件につき「その他の方法で監督の目的を達することができないとき」と認定することについて、諸官庁の裁量にゆだねる趣旨であると解される。なぜなら、両者は抽象的概括的文言を用いており、また、その性質上、地域の実情に精通する所轄庁の専門技術的裁量にゆだねるのが妥当といえるからである。
したがって、本件解職命令が違法となるのは、その裁量権に逸脱濫用が認められる場合となる(行訴法30条)。
本件において、B県が法27条違反及び本件改善命令違反を理由に直ちに「他の方法により監督の目的を達することができない」と判断した点について、比例原則違反にあたり、判断過程に著しく不合理な点があるといえることから、裁量権の逸脱濫用が認められる。
また、B県知事が、今回の不正がDに起因することを認識しているにも関わらず、本件解職命令の拒否を本件解散命令において重視していることについて、他事考慮であり、判断過程に著しく不合理な点があるといえることから、裁量権の逸脱濫用が認められる。
そして、B県の公表している実績資料をもとに類似事案をみると、Aと同等の資産規模の法人が改善措置が取られたことにより解散までは命じられなかった一方、Aよりも資産規模の小さい法人で改善命令に対応する措置がとられなかった事案では解散が命じられている。
Aは今回の貸付により経営が破綻している状況にあるわけでないから、前者に類似しており、解散命令を出すことはできないはずである。したがって本件解散命令は平等原則に反し、裁量権の逸脱濫用にあたる。
また、公表事案であることから、名宛人からすれば予測可能性が認められる。したがって、本件解散命令をすることはその予測可能性に反することから、信頼の原則に反し、裁量権の逸脱濫用にあたる。
よって本件解散命令は、行訴法30条により、違法である。

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