R5司法試験再現 民法(評価:D)

第1 設問1 
1(1)について
Dはアの反論に基づいて、請求1及び請求2を拒むことはできるか。
アの反論の根拠は、1037条1項にあると思われる。
1037条1項は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた配偶者に対し、各号所定の期間居住建物について無償で使用する権利について定めた規定である。
Aは令和5年4月1日に死亡したため、「被相続人」である。そして、DはAの「配偶者」であった。甲建物は、Aが所有していたものだから、「被相続人の財産に属した建物」にあたり、DはAとともに同居し無償で居住していたことから、「被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた」といえる。
そして遺産分割協議は未だされていないことから、同条同項1号により、Dは配偶者居住権を主張できる。
もっとも、1038条1項は、配偶者は従前の用法に従い、善管注意義務をもって居住建物の使用をしなければならないとしている。
本件建物の従来の用法は居住用途であったところ、DはAの死後1階部分を改装して総菜屋を始めた。したがって、従来の用法を変更しており、1038条1項に反する。
1038条1項に反した場合、居住建物取得者は当該配偶者に対する意思表示により配偶者短期居住権を消滅させることができる。
Bは、Aの子であるからAの相続人であり、相続財産は相続人間の共有となるから(887条1項・898条以降)、Bは本件建物につき「居住建物取得者」にあたるといえる。
そしてBは甲建物の改装及び1階部分での開店を知った後令和5年8月10日に、「配偶者」Dに対し、「直ちに出ていくように。」と述べていることから、1038条1項違反を理由とする同条3項に基づく配偶者短期居住権消滅の意思表示をしているといえる。
そうなると、Dの配偶者短期居住権は消滅したとして、居住建物の返還をしなければならいことになる(1040条1項本文)。
ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない(同条同項但し書き)。
本件で、DはAの配偶者として甲建物の共有持分を有しているから、BはDに対して、配偶者短期居住権が消滅したことを理由として、居住建物たる本件建物の返還を求めることはできない。したがってDはBに対して明け渡し義務を負わない。
よって、Dはアに基づいて、請求1及び請求2を拒むことができる。
2(2)について
Dはイの反論に基づいて、請求1及び請求2を拒むことはできるか。
前述のとおり、相続財産は、相続人間の共有となる。
各共有者は、共有物の全部についてその持ち分に応じた使用ができる(249条1項)。
そうなると、Dは共有物である甲建物の全部を利用することができる。
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持ち分価格に従い、その過半数で決する。
共有者に対し、共有建物の明け渡しを請求することは、共有物の管理に関する事項にあたる。したがって持ち分価格の過半数で決定しなければならない。
本件で明け渡し請求をしているのはBのみである。甲建物は、DとBとCが等しい割合で共有していると考えられる。
そうなると、Bの請求は、持ち分価格の過半数により決定されたとはいえない。
イの反論は正当であり、Dは請求1及び請求2を拒むことができる。
第2設問2
1(1)について
下線部アの主張の根拠は、催告による解除であると考えられる(541条本文)。
契約①は、売買契約であるから、EはFに対し目的物である本件コイを引き渡す義務を負い、FはEに対し代金支払い義務を負う。そして、契約①の特則として、本件コイの引き渡しは10月1日にEの事務所で行うこととされ、代金100万円は、引き渡しから2か月以内に支払うこととされている。
すなわち、EのFに対する本件コイの引き渡し債務は、「債権者」Fが受け取りにくる行為を要求するものである。そうなると、Eとしては、弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告すれば、Eの引き渡し債務は履行されたこととなる(493条ただし書き)。
本件においてEは、令和4年10月1日の早朝に、本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込んだが、Fはその日事務所に現れなかった。その翌日、EはFに対し、受領を催告している。このことから、Eは弁済の提供をしたといえる。
そうなると、本件は「当事者の一方がその債務を履行しない場合」にあたる。
そうなると、Eは、相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がないときは契約を解除することができる。
本件においてEは10月16日に、Fに対し10月30日までに本件コイに受け取りにこなければ同月31日付で契約を解除する旨を伝えている。したがって、相当の期間を定めて履行の催告をしている。
そして同月31日を過ぎてもFは受け取りにこなかったことから、その期間内に履行がないことにあたる。
以上から、Eは541条により契約①を解除することができる。
よってEの主張は正当である。
2(2)について
本問の場合、EはFに対して下線部イの損害の全部について損害賠償請求をすることができるか。
契約を解除したとしても、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる(545条4項)。
もっとも、請求者は信義則上(1条2項)、損害賠償を回避する義務を負っている。
本件において、Fは本件コイについて受領遅滞が生じている。
受領遅滞が生じていると、債務者は目的物を供託することができる(494条1項2号)。
それにもかからず、Eは本件コイを供託することなく、釣り堀として使う予定だった池において本件コイの飼育を続けていた。
そうなると、釣り堀の営業利益について、Eは損害賠償回避義務を尽くしていなかったといえる。
よって、Eは下線部イの損害の全部について賠償を請求することはできない。
第3 設問3
Hの物上代位権の行使は認められるか。
賃料に対する物上代位は、372条・304条により認められている。もっとも、転貸賃料については、原則として認められない。なぜなら、賃料は抵当不動産の交換価値のなし崩し的実現といえるところ、転貸賃料については、転借人は抵当権者とは関係性を有さない以上、交換的価値のなし崩し的実現とはいえないからである。
もっとも、交換的価値のなし崩し的実現といえる特段の事情が認められる場合には、転貸賃料についても物上代位は可能であるというべきである。
本件において、契約③においてGK間に月3万円分の賃料を払うべきとなっているところ、契約④において契約③の賃料支払いが免除されることとなっている。そうなると、HとしてはGK間の賃料債権に物上代位をすることができないにもかかわらず、その交換的価値のなし崩し的実現は、契約④においてLK間に生じているといえる。
よって、上記特段の事情が認められるから、Hは契約④によって生じる賃料債権に物上代位を行使することができる。契約④では、5月分の賃料は6月分にまとめて支払うこととされているため、6月に支払う額全体が転貸賃料の発生が交換価値のなし崩し実現である、したがって、5月分の賃料債権と6月以降の賃料債権とで結論は異ならない。

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