夢の跡 [ 幻影 第3話 ]
毎朝決まった時間に起き、電車に乗って仕事へ行く。
仕事を終えた後は池袋にある司法試験の予備校に寄り、講義を受けるか自習をする。
ただそれだけの日々を三週間繰り返した。
それでも地元の駅に着くのは22時かそこらなので、まだ若い私には体力的に全く問題ない。
駅を降り、踏切を過ぎた角地にある「リーチ君」という雀荘の看板が毎日目に留まる。
お1人様でも遊べます、か……。
私は毎日決まってその場所で苦笑いをしていた。
麻雀は二度とやらない。仕事は必ず続ける。
これは自分で決めたことだ。
だから何があっても禁を破ることはない。
仕事や勉強が大変なのは当たり前のことだ。
世間にはもっと努力をしている人も多くいるだろう。私の仕事や勉強の量は掛け持ちという事もあるが、一般的に見て多いとは言い難い。
それに、麻雀を打っていたあの苦しい時間のことを思えば大した問題ではなかった。
だが、部屋につき、テレビでスポーツニュースを観る。
すると毎日決まってこの世の終わりのような思いになった。
俺は、もう観るだけの人間になってしまったんだな……。
狼のように腹を空かせて凶暴な相手に噛み付いたり、どちらかが倒れるまで殴り合うような闘いをすることはない。
一般社会で仕事をしていくには“個”を消す必要性がある。
私がそれまでやってきた麻雀とは“個”の主張であったり思想の表現のし合いだった。
ただ平和そうな世界に身をおき、本当にやりたいことなのかも判らないものばかりに手を出して生き甲斐を見つけていくだけの日々…。
私はうつ病のように毎日苦悩し、睡眠が取れなくなっていた。
しかし、仕事と勉強は何があっても手は抜かない。
麻雀が打ちたい……。
心の底から牌を握りたかった。
私はずっと、麻雀の外の世界でも絶対に上手くやれると思っていた。
だが、とうの昔に私は毀れていたようだ。
あれほど苦しんだ麻雀を、生きていく上で誰よりも必要としている事に初めて気がついた。
だが、自分で決めた事だ……。
二度とやることは許されない。
何の、ために……?
決まっている、麻雀のためじゃないか。
その麻雀は、俺にはもう無いのに……。
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*当物語はフィクションです
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