青い春 [ jokerの男 第11話 ]

 歳をとり、幸せや安らぎを求めるようになっても今より濃く想い、強く在るだろうか。
 その覚悟が出来ないのであれば、私も麻雀を生業とするのをもう止めよう。

 強くて良い打ち手とたくさん出会った。常に自分が勝てるだろうかという強迫観念に駆られながら戦ってきた。
 それでも私の神通力が失せることは無く、ずっと勝ち続けた。

 だから麻雀に対して敬虔である必要があったし、これから先、中途半端な思いで気が向いたときに牌を握るのはそういう相手に失礼だと思った。
 そして、何よりも現役でいたこの5年間を汚したくない。


 これを麻雀を生業とする最後の一年としよう。
 そして、一生、もう二度と麻雀牌を握るまい……。


 22歳の、青すぎる春だった。

 17歳の時から右腕一本でメシを喰ってきた。そろそろ頃合いだろう……。


 それからの一年はあっという間だった。
 相変わらず目まぐるしく毎日戦い続けた。勝ったり、負けたり、麻雀の奥深さを知らされたりと日常に変化はない。

 しかし、三ヶ月が過ぎ、半年が過ぎ、その日は確実に近づいて行く。

 人は死期を悟ると全てのものが美しく見えるというが、まさにそんな気分だった。
 あれほど苦しんだ麻雀も、嫌いだった客も、一局の手順、一つの牌さえもが愛おしく感じられた。


 この頃になると、麻雀を止めた後の進路も決まっていた。
 独学で勉強を続けていた私は論文を延べ何千通も書き、中央大学法学部の卒業資格を取る事が出来た。

 私は決して勉強が得意な方ではないが、これは途中で教えてもらった法学のコツのお陰であった。


 今で言う、トリプルスクール。
 名門と呼ばれた中央大学の法学部、大宮のLEC、群馬法律専門学校、全ての単位を取った。

 300単位か? そんな事は、もうどうでも良い。


 週に7日、昼も夜も働き、3つの学校の学費を稼いだ。
 正気ではない。

 雀荘で12時間の夜番が終わった後はレストランで皿洗いのバイトだ。
 その後はカラオケボックスのアルバイトへ。

 そのまま寝ずに夜番へ行く。
 睡眠は移動後の車中で20分あれば充分だ。


 不眠不休で働いた。そして、勉学に充てる時間…。


 “要は気合”である。
 
 その全ては、麻雀のためだ……!


 

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*当物語はフィクションです

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