深夜の攻防 [ 幻影 第7話 ]
携帯の画面に見覚えの無いアドレスが流れている。
私は少し慌ててメールを開封した。
「さっきはビックリした……。髪の長い方、真梨香っていいます。ああいう事、よくするんですか?」
ワンピースの方の子だ。
私はそんなことはない、初めてだと言い訳めいた返信を返した。
何通か遣り取りをしている間に、彼女もまたポツリポツリと自分のことを書き始めた。
「こんなかたちで、人と知り合うこともあるんだね。こういのはちょっと、と普通に思っていたけれど」
「人との出会いは凄い力を生むことがある、と先輩に教えられたんだ。それから俺も少し考えが変わったと思う……」
それから私たちは長い時間メールの遣り取りをした。
気付いたら朝の4時になっていた。
私は眠気眼で仕事へ行き、勉強を終えて真っ直ぐ帰宅してきた。
すると、また深夜24時くらいに彼女からメールが届いた。
こうして私たちはメールや電話を交わすようになった。
彼女はW大学の一年だが、現役のときに大して学力に差のないA大学に受かっていたにも関わらず、W大学に入るために一浪してまで受けなおしたという。
音楽やファッション、そして意外にも文学が好きだという明哲な一面も持っていたが、どうもなかなか大学の空気に馴染めないという。
おそらく入学をする前に一つの苦労と胸に膨らみすぎた期待を持ったせいで、現実の無為な学生生活に温度差を感じてしまうのだろう。
まだ精神的に未熟な彼女はつい独りきりで深く考えすぎてしまったり、それがまた授業に出る気を削いでしまうのだと言う。
私は学生生活のことは判らないが、今まで頑張った分、少し気楽にやってみたらどうかと助言した。
サークルでも飲み会でも、意味なんてきっとないが、そういった時間も今の彼女には必要だと思った。
私が話を聞くことで彼女が少し楽になったのかは判らないが、彼女はゼミに入ったり気分の乗った日は授業にも積極的に出席するようになった。
私も最も辛い時期だったし、深夜の遣り取りで睡眠時間はさらに少なくなっていた。
しかし、彼女はまだ本当に子供だったので、私の苦悩や葛藤をぶつける余裕などなかった。
だが、真梨香の悩みを聞き、それに応えるという事こそが、生き甲斐を見出せない生活を送る私にとって最も大きな支えとなっていた。
知り合ってから一週間後、私たちは再会し、付き合うことを決めた。
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