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帯広とサウナ:免疫アップはギャップが大事

(四月の北海道、帯広にて……)
帯広空港に降り立った瞬間、康介は冬物のダウンジャケットを取り出した。「うぅ、こっちはまだ寒いなあ。雫と博希は暖かいとこでいいよな」

今年の春休みは、三人で別々のところへ旅をする計画を立てた。
雫はサエさんのアドバイスで四国の徳島へ。
博希はお母さんの勧めで九州の宮崎へ。
そして康介が叔母を頼って決めた旅行先は、北海道の帯広だった。
今日の気温は六度、康介たちの住む加美原町なら真冬の気温だ。

空港の出口まで行くと、叔母の知り合いが迎えに来てくれていた。
「わあ、康介くん、帯広へようこそー! 寒いでしょ」
「あ、こんにちは。ほんと、寒いっすね」
「叔母さんの知り合いのリサです、よろしくね」
「康介です、よろしくお願いします」
「気温は寒いけど、人はあったかいから、思いっきり楽しんでってね」
康介が帯広行きを決めた時、プランは立てなかった。
リサさんから「ミステリーツアー」を提案してもらったからだ。

「リサさん、滞在中はどんなところに行くんですか?」
康介は好奇心全開で訪ねた。どんな観光地を巡るんだろう。

「まずはお腹が空いたでしょうから、インデアンカレーに行きましょ」
「……北海道なのに?」
初対面ながら、早くも康介のツッコミが入った。
(冷静に考えれば、インドカレーですらない)

「あら、帯広では有名よ。家庭的な味でおいしいんだから」
「まあ、カレーは好きっすから」
「あと晩ごはんは、たこ焼きパーティをしましょ」
「……北海道なのに?」
またもや予想外のプランが出てきた。

「ほら、普通の観光で楽しめるものなら、友達と来た方がいいじゃない」
どうやら叔母から、今回の旅行の経緯を聞いていたらしい。
「ミステリーツアー、大丈夫っすか?」
「私、ちょっと抜けてるところもあるけど、おもてなしは任せて!」
「いいっすけど……信号、青っすよ」
「あら、ごめんなさい。どんどん突き進みなさいってことね」
出会って15分、助手席に座って話しながら、康介は確信した。
この人、天然だ。

この日はリサさんのプランに従って過ごした。
観光で巡る先々には、康介にとって珍しいものがたくさんあった。

日高山脈に残る雪景色。
休暇村の森林を走るリス。
雄大に広がる道広農園の畑。
そんな異世界だから余計に、カレーとたこ焼きは別次元に思えた。

一日を終えるとすっかり夜、康介はリサさんに旅館まで送ってもらった。
「旅館に着いたら、ぜひサウナを体験してね」
「サウナ? 何か違うんですか?」
「まずサウナに5分入ったら、十勝川の冷たーい水風呂に入るの」
「絶対冷たいやつじゃないっすか」
「それがいいのよ。そしたら外のイスで休んで、それを3回繰り返すの」
「水風呂の後に外って、もっと凍えるじゃないっすか」
「あら、康介くん、まずはやってみないと」
「それは友達のお母さんにも言われますけど」
康介は去年のテスト勉強を思い出したけど、当然リサさんがそのことを知っているはずはなかった。

「サウナも、今日の観光やグルメも、『逆』の刺激が大事なのよ」
「逆……っすか?」
「普通のことをしてたって、頭や体は鍛えられないじゃない?
予想外の展開とか、急な気温の変化とか、刺激があるから強くなるでしょ」
康介を送りながら、リサさんは今日の締めくくりを兼ねて語り始めた。

「私ものんびりしててうっかりしちゃう時もあるんだけど、」
(今日だけでも結構うっかりしてましたけど。とは言わないでおこう)

「仕事の時はピシッとするから、そのオンとオフで毎日が刺激的なの。
人って同じ刺激ばっかりだと、慣れちゃって退屈するでしょ。
今日だって、康介くんには寒くても、私たちにはあったかかったのよ。
人って何かと比べて初めて気付くことがたくさんあるの。
だからイメージばっかりあてにしないで、実際に体験してみてね。
逆を試して行動の幅を広げれば、発想も広がるはずだから」

リサさんが話し終える頃に、ちょうど宿泊先の旅館に着いた。
「……リサさん、なんか最後が今日イチかっこいいっすね」
車を降りて今日のお礼ながら、康介は一言添えた。
「ほら、たまにはピシッとしてるでしょ」
「とりあえず、サウナ試してみます。幅を広げるかー、いいっすね」
「だって、ここをどこだと思ってるの?」
「?」

「……帯広よ」

「微妙に『幅』じゃないっす」
「え、ダメかしら?」
こうして康介のミステリーは深まっていったのだった。

(おしまい)

↓康介たちの物語は、ここからが始まりです↓

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発行元 : 株式会社福幸塾(www.fukojuku.com)
創作指揮: 福田幸志郎(勉強を教えない塾じゅくちょう)

※ この物語はハーフフィクションです。
  登場する人物・団体・名称等は……半分創作であり、
  実在のものとは……半分関係があります。
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