メモする少年(すべて後でつながる)

何でも紙にメモする少年がいた。
彼の名前はウィル。
家でも、公園でも、道端でも、
気になることは何でもメモした。
「そんなもの書いて、何に使うの?」
まわりの人は不思議そうに聞いた。
「わからない。でも、なんかおもしろいから」
楽しければそれでよかった。
メモする。紙を破り取る。
また新しい紙にメモする。
破りとった紙が積み重なっていくのが嬉しかった。

図書館で、気になった本があった。メモ。
公園に、誰かが忘れたサッカーボールが転がっていた。メモ。
帰り道、リールにつながれたダックスフントがいた。メモ。
リビングで、友だちとゲームをした。メモ。
気になるものは何でもメモした。メモ。

「そんなくだらないもの書いてないで、漢字を書きなさい」
大人は大事なことを勧めたが、ウィルは聞かなかった。メモ。
「一人で変なことしてないで、みんなでサッカーしようよ」
友達は楽しいことを勧めたが、ウィルは聞かなかった。メモ。
「たまにはやるけど、僕にはこれが楽しいんだ」
ウィルの部屋の中はたちまち紙で埋め尽くされた。メモ。

ある朝、ウィルは部屋を片付けることにした。
空気を入れ替えた方が、気分がよくなる気がしたからだ。
花に水をあげるような気持ちで、ウィルは窓を開けた。

と、その時。突然強い風が吹いた。
「ビューン、バサバサバサバサ」
部屋の中の紙がいっぺんに舞い上がった。
風にあおられ、メモはたちまち窓の外へ散らばっていった。

「ああ、メモが!」
ウィルはあわてて部屋を飛び出した。
靴をはき、外へ出て、必死でメモを拾い集めた。

花だんの枝。
道路の溝。
公園の遊具。
工場の駐車場。
河原の階段。
ヘトヘトになるまでがんばってメモを探し回った。
家に帰る頃には、すっかり夕方になっていた。

それでも、メモは無事に全部集めることができた。
ウィルは安心して、拾い集めたメモを改めて見返してみた。
メモの意味は全然わからなかった。
……なんでこんなもの書いてたんだろう?

「タンス、キリで作ったよめ入り道具」
「ノート、脳と、knowと」
「シロツメクサ、ガラスを守る白い詰め草」
「モールス信号、・・−・、−・−、・−−−」
「ウンディーネ、サラマンダ、シルフ、ノーム」

書いたところは、いつも行く場所しかない。
家、学校、公園、本、ゲーム。
なんだかバラバラになってしまった。
でも書くことは楽しかったし、まあいっか。
今度は風で飛ばされないようにしよう。
メモを束ねて、トントンと角をそろえた。

「あれ?」
よく見返してみると、実はそこに意味ができていた。

物語は、きっとこうして紡がれていくのだろう。
(意味がわかったら「スキ」をお願いします)

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発行元 : 株式会社福幸塾(www.fukojuku.com)
創作指揮: 福田幸志郎
(勉強を教えない塾、じゅくちょう)

※ この物語はハーフフィクションです。
  登場する人物・団体・名称等は……半分創作であり、
  実在のものとは……半分関係があります。
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