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やまももとひょうたん:一歩深く考えながら進もう

 ミキエが観光案内所に戻ってくる頃には、15時を過ぎていた。
さっき咲來鳥さんに納品したやまももシロップを思い出して、キンキンに冷やした炭酸水でソーダを作った。3時のおやつってことでちょうどいいでしょ。
 同じタイミングで、福すしの大将と材木屋の浜田さんが案内所に来ていた。最近の案内所は、何となく人が集う空気ができている。

「試作品のひょうたんと缶バッジ、作ってきたよ!」
「わー、ありがとうございます! ほんと、頼りになります」
「ミキエちゃん、最近ほんまに楽しそうやなあ」
「私は勢いで突き進むだけなんで、みなさんのおかげです」
「その行動力が羨ましいですよ。僕なんか悩んでばっかで……」
「ひょうたんセンパイに悩みを吸い取ってもらわないとですね」

 周りの人の協力で、今まで取り組んできたことが少しずつ一本の線みたいにつながってきた。この空気感が、今はとても心地よい。
(自信はないし、完璧じゃないけど、これでいいんだろうな)
 そう思えるようになってきたのはまだほんの最近のこと。得意なこともやりたいこともなかったし、自信なんて未だにない。興味が先行して聞きかじるのは好きだけど、あれこれ手を出して全部中途半端に感じることも多かった。

 転機は、息子の受験で勉強を教えない塾に相談した時だった。
「私がまず自分の未来を切り拓かないと」
 子どもの心配ばかりする前に、自分が先に挑戦しようと思った。
 思考と対話のセッションを受けてみると、いろんな人と話ができて刺激的だった。同時に、自分が今まで考えてこなかった事実にも気付かされた

「何のためにこれをしてるの? 本当は、自分はどうしたいの?」

 何度も何度も自分に問いかけていくうちに、少しずつ自分の本当の気持ちが見えてきた。仕事も生活も大きな変化はないけど、意識が変わると行動も変わる。最近まわりから楽しそうに見えるのは、うまくいえないけど多分そういうことだろう。

「私は、人と協力しながら、助け合える町を次世代に遺したい」

 一人では無理でも、みんなと一緒ならきっとできるはず。今日はこの後、鶏和で薬局の小谷さんと林業組合の山中さんと食事会がある。きっとまた次のまちづくりの話で盛り上がるだろう。
 ミキエは仕事の残りタスクを確認すると、ソーダを飲み干してパソコン作業に戻った。

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(和歌山県上富田町の小さな物語は続く)

サポートがあると、自信と意欲にますます火がつきます。物語も人生も、一緒に楽しんでくださって、ありがとうございます。