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ミュリエル・スパーク『バン、バン! はい死んだ』(河出書房新社)

 基本、彼女の書く登場人物は全員「ダメな男」「いやな女」なので、合わない人は合わないだろう、イギリスの作家ミュリエル・スパークの短篇集。
読後、二つの感想をいだいた。
 表題作「バン、バン!はい死んだ」や「双子」「占い師」「黒い眼鏡」のように、語り手にはたして「悪意があったのか」「罪を犯したのか」最後まで明かされない物語が多く、読後感が実に宙ぶらりんで、なんともいえない居心地の悪さを感じた。なんというか「リドル・ストーリーにさえしてもらえない」ような感覚。
 また、ふつうの小説は「日常の中に奇妙な出来事が起きる」ことでストーリーが進むのだが、スパークって「奇妙な出来事が事前にあってその中に日常が引きずりこまれていく」パターンがある気もする。有名な短篇で収録もされている「ポートベロー・ロード」も冒頭から「非日常の側にいる語り手」によって日常を過ごしていた彼の生活が崩壊していくし、自分が最も感心した「ミス・ピンカートンの啓示」はUFOの出現が夫婦げんかの形で収束する。こんなパターンないよ!
 ただ、「傑作短篇集」と謳っているにしては、正直、収録作のクオリティにばらつきがあるのが難点。ここに書いた二つの感想を念頭に置いて『ポートベロー通り』(現代教養文庫)を再読したくなった。



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