いつまでも幸せで/鈴木おさむ「ハルカと月の王子さま」

あの時さ、
嬉しかったよ。
泣きそうだったよ。
でもせっかくのリンゴジュースが
薄まらないように
涙をこらえたんだよ。

「ハルカと月の王子さま」は、YOASOBIの楽曲「ハルカ」の原作小説である「月王子」を大幅に加筆した物語です。著者は放送作家の鈴木おさむさん。挿し絵は、ミュージックビデオも担当した伊豆見香苗さんです。

「星の王子さま」に似せた「月の王子さま」のイラストが描かれたマグカップは、雑貨屋でいつまでも売れ残っていました。けれどある日、中学2年生の遥という少女が、ついに彼を買って帰ってくれます。
受験、恋、就職、結婚、出産。遥の人生をいつも傍で見守り、応援してくれた月の王子さま。
マグカップの目線で綴られる、あたたかい感動を呼ぶ物語です。絵本ですが、大人にもおすすめの作品です。

この本は、こんな人におすすめ

①少し人生に疲れてきた
②誰かに寄り添ってほしい
③あたたかい涙が出る物語を読みたい

それでは、この本の魅力の紹介と、考察をしていきたいと思います、ぴょん!
なお、考察は、読了後に読むことをおすすめします。

*マグカップ目線の物語

この物語は、月の王子さまのイラストが描かれたマグカップの目線で展開していきます。月の王子さまは、嬉しい時も悲しい時も遥に寄り添い、励まし、応援します。その様子はコミカルですが、それが余計に、この物語の切なさを際立たせているような気がします。
私にも長年使っているマグカップがあるのですが、それももしかしたら、月の王子さまみたいに色んなことを考えているのかな、と思ってしまいました。

*MVと合わせて楽しめる

「ハルカ」のMVも、本書の挿し絵も、同じ伊豆見香苗さんが担当しているので、MVの世界観をそのまま絵本で楽しむことができます。可愛らしい挿し絵がいくつもあるので、物語に入り込みやすく、小学生にもおすすめです。
また、「YOASOBI」といえば「小説を音楽にするユニット」です。コンポーザーのAyaseさんが作る楽曲、ボーカルのikuraさんの歌声が、この物語の世界観を忠実に表現しています。ぜひ「ハルカ」も聴いてみて下さい。ikuraさんの強くも優しい歌声に励まされるはずです。



*考察(読了後に読むことをおすすめします)


月の王子さまのマグカップは、「『星の王子さま』の真似じゃないか」と言われ、雑貨屋に来るお客さんになかなか買ってもらえませんでした。本書では、「地球の周りを回る衛星の月のように、持ち主を一番近くで見守っている」という意味で、月の王子さまになったと書かれています。
私は、この物語を読み終えた時、『星の王子さま』のこの言葉を思い出しました。

“大切なことは、目に見えない”

私は、月は確かに星のひとつだけれど、そのふたつは対照的なものであると思います。星は細く鋭い光を放ちますが、月はおおらかな柔らかい光で地球を照らすからです。

『星の王子さま』ではなく、『月の王子さま』が「大切なこと」について語ったとしたら、こう言うのではないでしょうか。

“大切なことは、いつも見えるところにある”

「ハルカ」の「ねえ 君のそばにはたくさんの愛があふれてる」という歌詞にも、そんな意味が込められていると思います。

私は、この言葉から、「もしかしたら、身の回りのどんな物にも自我があって、それぞれが自分の役割りを果たしながら、応援してくれているのかもしれない」と思いました。

読了後は、切ない気持ちと温かい気持ちが押し寄せてくる作品でした。もし幼い頃に出会っていたら、ずっとずっと心の中の大切なものを仕舞う場所に置いてあるんだろうな、なんて考えています。

物と人、というコミュニケーションをとることができない同士の間に芽生える友情を描いたこの物語。YOASOBIの「ハルカ」と合わせて、ぜひ楽しんでください、ぴょん!


(2021年4月2日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)

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