公務員試験の大手予備校が社会人経験者試験向けの講座に消極的にみえる理由とは

公務員試験の大手予備校は、
社会人経験者試験向けの講座に消極的なように見えます。

消極的にみえる主な理由は、以下の2つです。
①社会人経験者試験向けの講座が、ある予備校もあるが、ない予備校もある
②社会人経験者試験向けの講座の内容が、大卒程度試験の引き写しになっているものも散見される

大々的に社会人向けを売りにしている予備校もないわけではないですが、上記②に該当してくるケースが多いように感じています。

さて、それでは、なぜ公務員試験の大手予備校は、社会人経験者試験向けの講座に消極的にみえる状況を放置しているのでしょうか?

そこには、経営判断として合理的な理由があるはずです。

以下、説明していきます。

理由1:まだ受験生が少ない

これは納得です。
受験生の数が少なければ、その分、売上げを確保することが難しいからです。

大卒程度と比べると、社会人経験者試験を受験する層は多くありません。最も規模が大きい特別区経験者ですら、事務は1級職・2級職を合わせて3000人程度です。そのうち、どの程度が予備校を利用しているかは不明です。

また、社会人経験者試験の受験生は、一度社会に出て働いている経験がありますし、予備校に使える時間やお金が、大卒程度の主な利用者層である学生と比べて、自由ではありません。そうすると、予備校を利用しないで独学で済ませようとする割合がそれなりに高くなることは自明と思われます。

理由2:個別指導系サービス(模擬面接、論文や面接カードの添削、相談対応等)に必要な能力が大卒程度と異なり、その分の労力がかかる。

これも納得です。

我々が受験生からいただいた相談の中には、とある予備校を利用したが、社会人向けの指導をしてくれなかった、とか、指導内容について質問しても一般論しか返してくれず参考にならなかった、というものがあります。

公務員試験予備校に従事している講師やクラス担当が、大卒程度の試験対策しか経験していない(ことがほとんど)、ということです。
社会人経験者採用試験の情報は少なく、的確に論文や面接を指導してくれる講師やクラス担当に当たったら、かなりのラッキーです。
(とはいえ、自信満々に間違った指導をする方も混在しており、利用者が事件時に判別することが難しい、というのが実態でしょう。)

公務員試験においては、大卒程度の試験であっても、大学生の受験生が聞かれる質問と、社会人の受験生が聞かれる質問は異なります。

社会人受験生は、社会人として働いた経験や現在所属している会社を選んだ理由や退職したい理由などが、ほぼ確実に問われます。そこを確認しないと、採用して良いかどうかの判断がつかないからです。

社会人経験者試験の場合は、社会人経験を深堀りしてくることに加えて、一緒に働ける人材かどうかをテストするような質問を重ねてきます。
わかりやすく言うと、受験生の年齢と同じ職員と比べて、公務員として、きちんと働いてくれるかどうかをチェックしているような状況です。

ですので、社会人経験者試験の指導は、公務員として働いた経験がないと、なかなか説得力を持った回答や答案を指導しにくい、というのが実感です。ポイントは、「説得力の有無」です。ここを押さえているかどうかで、最終結果は間違いなく変わってくるからです。

理由3:社会人経験者を指導できるレベルの講師・職員が不足している

これも納得です。
根拠は、理由2と同じになります。
そのレベルの講師は多くありません。

なぜなら、
「合格者のほとんどは、公務員として現在も働いているから」
です。

弁護士や公認会計士等の他の資格試験と異なる点です。
これらの資格試験では、合格者が講師として残ることは珍しくありません。
また、答案添削も、合格経験者が行うのが通常です。

しかしながら、公務員は採用試験ですから、予備校に残ることはめったにありません。そもそも講師が足りない状況なのに、社会人経験者というニッチな分野を教えられる講師が少ないのは言うまでもありません。

このような構造上の理由で、公務員としての社会人経験を踏まえた指導ができる講師・職員の供給は自ずと限定的になってしまうわけです。

理由4:社会人経験者の個別志望先ごとの対策に手間がかかる

こちらも納得です。
社会人経験者試験は、採用数が少ないところが多い一方、実施している機関は数多く存在します。全国の自治体数を考慮すると、数百といったところでしょう。

予備校の最大の強みの1つは、受験情報を持っていることです。受験情報の多寡に応じて、試験対策を(競合に比べて)有利に進めることができるからです。そして、過去の受験生の受験結果等の大量のアーカイブこそが、その源泉といえます。

しかし、採用数が多い首都圏や都市圏に絞ったとしても、それなりの数があることから、利益が出にくい状況で着手するのは難しいところでしょう。

以上、4つの理由を挙げて、
公務員試験の大手予備校が、社会人経験者試験向けの講座に消極的にみえる理由を解説してきました。
これらのボトルネックが解消すれば、状況は変わるのかも知れませんが、いずれも構造上の問題で、そう簡単に解決することはないでしょう。

そうすると、社会人経験者試験向けの予備校を利用するのが得策かというと、そうともいえないのが受験の難しいところです。

彼らは強みがある一方、そこが弱みにもなっているのです。
(販売価格はその例といえます。)
そのあたりは別稿にて解説していきたいと思います。

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