ドラマ「マイ・デイア・ミスター~私のおじさん」
音楽家の坂本龍一が亡くなり、今朝からその死を悼むツイートが流れている。
その中で、坂本龍一がドラマ「マイディアミスター」の台本に推薦文を寄せていたというのを知った。
ドラマ「マイ・ディア・ミスター私のおじさん」は、若い女性とアラフィフのおじさんが主役のヒューマンドラマ。
ヒロインの若い女性(ジウン)はヤングケアラーの一面を持つ。
両親を子供の頃に亡くし、祖母が唯一の親族。
その祖母は聴覚障害があり、足が不自由で歩行・立位保持ができない。 ジウンは貧困家庭の苛烈な環境で育ち、満足な教育も受けられず(中卒)、非正規雇用の職をダブルワークしながら借金を返済しつつ、祖母の介護費用の捻出もしていた。
が、生活は苦しく、祖母のいる施設の費用も払えなくなってしまう。
ジウンは祖母を施設からこっそり抜け出させ、自分の住まいで介護しながら、仕事(ダブルワーク)を続ける。
介護がメインのドラマではないのだが、もう一人の主役(おじさん)ドンフンの、ヤングケアラー(ジウン)へのさりげなくて温かいサポートが印象的だった。
ドンフンは通勤電車の中でジウンからざっくりとジウンの家族状況を聞き出すと
「おばあさんと住民票を別にして、おばあさんは生活保護で施設代がタダになるから施設に入れることができる」
というようなアドバイスをする。
ジウンがびっくりしたような表情をすると、
ドンフンは 「誰も教えてくれなかったのか」 とつぶやく。
社会保障制度にたどり着くことができないで、すべてを背負い込むヤングケアラーの状況はどこの国でも同じなんだなぁと思わせるシーンだった。
ジウンはアドバイス通り役所の窓口に行くと、すんなり施設代は無料(免除)で施設に入ることが出来ることを知る。
役所の窓口の女性は 「この制度はずいぶん前からあったのですが、ご存じなかったのですか」 と言う。
生活を維持するのに精一杯の若い女性に、「申請すれば受けられる支援」にたどり着く情報を「ご存じなかったのですか」と言う役所の対応とか、介護制度のあれこれを考えさせられた。
その他にもドンフンが、足が不自由で外出が出来ず月見もできないおばあさんを月見に連れ出そうとするジウンを助けて、三人で満月を見上げるシーンとか、 施設入居が決まって施設へ行くための移動の援助をするドンフンとか、 おばあさんが亡くなって葬儀でのドンフン三兄弟のはからいとか、 涙腺決壊するシーンがあちこちにある。
坂本龍一も 「このドラマのことを思い出すだけで涙腺が緩んでしまう」 と、その推薦文に書いている。
雑誌「ちくま」4月号で、小説家の角田光代が、ドラマについて「面白かったもの」を知り合いと語る時の「何時間一緒に飲んで話してもけっして触れられない部分を、垣間見たような錯覚」があると書いている。
「マイディアミスター」はせりふがとてもよくて、見続けていくうちに、毎回泣きながら見るという感じになる。
シーンのカット割りが美しくて印象的で、そこにさりげないけど泣けるセリフが散りばめられている上質なドラマなのだ。
だけど、見る人を選ぶ感じで、「退屈だ」「途中で断念」なんて人もいると思う。
誰とでも気軽に「面白いよね~」と語ることができない類のドラマなのだ。
そのため、このドラマを面白いと感じる人の心になにがあるのか、気になってしまうかもしれない そんなドラマだった。
どのドラマが面白いかとか、そのドラマでツボだった部分を人と語ることで、その人の「けっして触れられない部分」を感じることがあると角田光代は書いている。
そして彼女自身の告白として、韓国ドラマにどハマりするきっかけとなったドラマが「マイディアミスター」なのだと書いている。
角田光代はそれを「本気度のシンクロ」と書いているが、私にはドラマにハマって正気を失う度のシンクロ でもある。
私は正気に戻りたくない時、現実逃避したい時は、こういうドラマを止まらなくなるまで見るのがいい ということに気付いた。
母が亡くなって1年経って、まだまだグリーフの闇の中で立ち止まったままの私でも、正気を失うくらいドラマを見続けると、闇の中で立ち止まり正気を失ったままでいるのも悪くない気分になる。
今日は「マイディアミスター」を再見して、坂本龍一の冥福を祈りたい。
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