晴れた日のきなこ

「お昼、お餅焼くだけでいい?」
「いいよ。海苔、あったっけ」
「あるある。あとごまと、欲しかったら大根おろしも」
「いいね」
「それときなこ」
「あー」
「あれ? 嫌い?」
「うん、食べられない」
「そうだっけ。前は食べてなかった?」
「そうなんだよね。去年から、急に、受け付けなくなって」
「アレルギー?」
「って感じじゃないな。他の大豆製品平気だし。ただ、ちょっとだけ、鼻がむず痒いような気はするかも」
「鼻。やっぱアレルギーじゃないの?」
「ううん。でも食べる前なんだよね」
「え?」
「前は普通に好きだったからさ、食べるつもりで準備してたら、その時に」
「風で舞い散った?」
「多分違う。そんなばふばふしないでしょ、きなこって」
「うーん」
「まあだから、食べず嫌いに近いというか。味は思い出しても全然いけそうな気がするんだけどね目にすると、ダメ」
「それで「受け付けない」ってことか」
「そう、嫌いっていうよりそう言うのがしっくりくる」
「じゃあもう信玄餅も無理?」
「無理だね、多分。好きだったんだけどなー」
「何か思い当たることないの」
「ないね。少なくとも、きなことトラウマ持つような関わり方したことはないと思う」
「去年からって言ったよね」
「うん、そう」
「最後に平気で食べれたのは一昨年のお正月?」
「たぶん」
「すると、一昨年一年で、何か……あっ」
「何?」
「一昨年の春からじゃなかった? 花粉症がひどくなったの」
「そういやそうだったかな。今年もぼちぼち薬用意しとかないとな」
「それじゃない?」
「それ?」
「晴れた日に花粉が舞う映像見ただけで、くしゃみが出るって人いるじゃん」
「あー。でもきなこってあの映像と似たとこなくない? むしろ白っぽい煙みたいな」
「でも同じ季節にさ、車が黄色っぽく汚れたり、雨で流れて黄色いのが溜まってたりするじゃん?」
「あれは黄砂でしょ」
「そうかもしれないけど、無意識レベルではくっついちゃったのかも。それで、「黄色くて粉っぽいもの」に拒絶反応が出てる、とか」
「そんな理由?」
「ないかな」
「いや、なくはない、っていうか、他に思い当たる原因もないな」
「ね?」
「だとしたら、花粉のやろう、体にダメージ食らわすのみならず、信玄餅まで奪っていきやがるとは。許せんな」
「ま、お餅自体は食べれるんだし、切り替えてこ。おもち、何枚?」
「5枚」
「そんなに!?」

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