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広告とネットミームⅢ~2024年8月マクドナルドのTwitter広告は本当にオタクに擦り寄っていたのか?~

 マクドナルドの広告、『マクドは大変なものを作っていきました』がオタク間において話題である。良い意味で。
 2024年夏のマクドナルドの広告を振り返ると、あまりにもオタクに擦り寄り過ぎ、また話題になる機会が多過ぎたと言える。しかし、本当に最近のマクドナルドの広告はオタクに擦り寄っていたのか? そして、一見無秩序にやりたいことをやり散らかしているように見えるマックの広告に何かしらのルールはあるのか?
 ネットミームを採用した広告を考える「ネットミームと広告」。第三回ではマックのオタク向け広告はどんなものをやっているのかを見ていきたい。

・おことわり

 本稿では色々な個人調べのデータが出てきますが、あくまで全てのデータは個人調べです。X公式のアナリティクスだの、マクドナルド社内の事情などは当然把握しておりません。
 また数値面も厳密な物ではなく、分かりやすく丸めた物を使っています。厳密なデータでは無いので、そういうのが欲しい方は各自調べてください。
 あくまで広告をひたすら見ているだけの素人が、夏休みの自由研究くらいのノリでエンタメ的にまとめました、くらいのユルイ雰囲気でお願いします。


・マクドナルド広告の前提情報と、オタク広告を確認する

マックの広告投稿数 縦軸:広告数 横軸:日付

 まず上記のグラフをご覧頂きたい。
 このグラフは1日にマクドナルド公式Xより投稿されている広告の数をグラフ化した物であり、チーズ狂愛が投稿された2024年7月31日から魔理沙パロ広告が投稿された2024年8月21日にかけての22日間、合計197本(リプライでの作者紹介除く)ものプロモーション投稿を何日に、どれだけ行ったかが分かる物になっている。
 そもそもマクドナルドの広告を考える上で重要なのは、マクドナルド公式Xが投稿している広告は非常に多いという事である。1日に最低でも4つの投稿は行っているし、多い日では14本ものポストを行っているのが分かる。
 その中でオタク文化やネットミームを使った広告、というのは何本あるのか? 結論から言えば12本、割合に直せば16%程度なので、それほどオタクに媚びてばかりでは無い事が分かる。
 
それでは、具体的にどのような形でXのオタクたちに広告していたか、そしてその商品をどんな形で広告していたかをチェックしてみよう。

・マクドは大変なものを作っていきました/トリプル肉厚ビーフバーガー

 8月後半に登場した広告界の魔物。
 実はグラフを集計した際のデータは8月23日深夜の物なので15万RP、25万いいねでカウントしていたのだが、8月24日現在では16万RP、27万いいねまで伸びてしまった。
 
マクドナルドの広告の中でも頭一つ抜けたメガヒットなので、平均値でもこの広告は外しておかないとよく分からない結果になってしまう。

 トリプル肉厚ビーフバーガーの広告は8月21日時点では10本。少ないように見えるが、集計の最終日である8月21日に発売開始という事に留意しておきたい。上記の堺雅人、赤西仁両名とコラボしたテレビCMも行う事を考えると、かなりの人気商品となる事を見越して広告している事が分かる。
 サムライマックシリーズが発売されるぞ! という予告だけで8回も行っており、発売日にも先述の魔理沙パロ広告とマックカードのプレゼント企画が行われていた。おそらく集計日以降も、公式Xでのメイン訴求はトリプル肉厚ビーフバーガーになるだろう。

 マクドナルドの広告全般に言える事として、新商品をリリースする際に行う予告が大きく盛り上がっている点に注目して頂きたい。トリプル肉厚ビーフバーガーの場合、2日に分けて匂わせと予告を行っている。
 有名人とのコラボや新商品のリリースを行う際にマクドナルドは必ず次のコラボは何だろう? というような匂わせを行っており、この匂わせの広告がかなりインプレッションを稼いでいる。意外にも発売後の広告はそれほど伸びない場合があるのに対して、予告や匂わせは大体ハズれない。
 これは閲覧者の予想したがる習性、提供された話題に対して様々な大喜利を行いだす自主性に基づいた広告になっているからだと言えるだろう。この予想広告、匂わせ広告は他の商品でも頻出するので、覚えておきたい。

 またマクドナルドの広告と言えば、2024年1月にちょっと流行ったマックカフェコラがあった事を忘れてはならない。
 この広告は自前で作ったコラブームに自ら乗っていくようなパワープレイであり、少し前の流行りでも一度人気になった物はしっかり擦っていく広告界隈のセオリーを踏襲した出来になっている。

・有名絵師コラボ/チキンマックナゲット

 チキンマックナゲットを食べている美少女を題材にした広告。
 それぞれ「しらび」「はねこと」「ぶーた」の3名に依頼しており、オタクが好きそうな美少女とナゲットのセットになっている。ハッシュタグは「#あの夏ナゲットの君に恋をした」。

 ちなみにマックチキンナゲットの広告は集計期間中11本、ネット上のオタクを釣る広告以外の施策としてはアイドルグループ、Number_iとのコラボ企画がメインだった。
 TOBE(旧、ジャニーズ事務所より引退した滝沢秀明(芸名、タッキー&翼のタッキーの方)が設立したアイドル事務所)からデビューした彼らはジャニーズ時代の根強いファンを未だに持っており、有名絵師コラボの2倍程度の拡散力を持っていた。
 とはいえ表示数で言うと絵師コラボの方が多かったりするので、どっちが効果的か、という所を語るのは難しい。これに関してはどちらが効果的かというよりも、オタク向きのイラスト広告と男性アイドルの広告を両方やって無駄なく集客をしようとしている所を評価すべきであろう。

・ニコ動風画像広告/スパイシーカレーソース

 もう勘弁してくれよって思うくらい浅い絵文字+ニコ動風コメント画像広告。オタクが嫌いなタイプのやつです。
 期間限定ソースの広告もたまにやっていたが、マクドナルドとしてはこれはチキンマックナゲットの広告に含まれているのか5作と少なめだった。

 ちなみに他の普通の広告はこんな感じ。
 こういうのだけで良かったんじゃねえかな……

・でも幸せならOKです/ハワイやんバーガーシリーズ

 「でも幸せならOKです」という有名なネットミームを採用した広告。
 ここまで一般的に流布したネタであれば、もはやネットミームだのフリー素材だのという枠を超えているような気もする。オタクが大騒ぎするというよりは、割と一般の方が「あ~wそんな人いたねw」くらいで楽しめそうなネタ選び。
 大きく話題になる事は無さそうだけど小さくはまとまらない、手堅く話題になるタイプのミーム選定ではないでしょうか。

 ハワイやんバーガーズシリーズでもNumber_iのコラボ広告は6本程度リリースされていた。
 というか、この夏のマクドナルドの広告はNumber_iとのコラボが多い。X上だけでも集計期間でざっと数えて14本もあるし、TVCMやYoutube、多分Tiktok等でも広告をやっていた事を考えると、マクドナルドはNumber_iのファンに擦り寄り過ぎだ! と指摘した方が適切だったかもしれない。

・声優白井悠介起用/生成AI使用/フライドポテト

 声優、白井悠介を起用したポテトの調理風景を紹介する広告。
 出演歴としてはアイドリッシュセブンやヒプノシスマイク、アイマスSideMなど、女性向け作品の出演歴が多め。女性のオタクの方がピンとくるような広告だったかもしれません。
 自分の観測範囲に女性オタクがあまりいなかったのでこれが話題になっている雰囲気は感じづらかったけども、多分そういう層にアプローチしたかったんだろうなと思います。

 マックのポテトの広告として見逃せないのは、生成AIを使ったポテト広告。架空飴というアーティストと共同で作ったらしいが、結果としてはこれだけ異様にリプライ数も多いし、引用リポスト数も多い、異例の炎上作品になってしまった。
 これを擁護するも批難するも無いけども、少なくとも5700RP、1259万回の表示というスコア自体は8月のマックの広告の中でも平均以上に位置する話題性でした。ハズレ値である「マクドは大変な物を作っていきました」を含めても良い方です。
 とはいえ生成AIに手を付けるだけで生成AIを良く思わない層が出てくるリスクと、将来的に技術が成熟した際に安上がりに広告出来るメリット、どちらを取るかは今後の動向次第なんじゃないですか。生成AIを嫌う層を差っ引いても普通に儲かるとなったら使うだろうし、全世界的に生成AIを排斥する動きが強くなったら普通に使わないと思います。広告としての選択肢の一つくらいにしか考えてないんじゃないか。

 もちろんNumber_iとのコラボ広告もあります!

・グッバイ宣言/上級者向け音MAD/チーズベーコンポテトパイ

 チーズベーコンポテトパイの広告で良い方向に話題になったのが、グッバイ宣言の替え歌「グッパイ宣言」。
 元の曲が良いのもあるし、替え歌もしっかり商品に沿った物になっている事もあってきちんといい方向に話題になっていました。こういうので良いんだよね。
 ちなみに広告だけの一発ネタながら予告編も用意されており、中々良い扱いをされています。

 そんなグッパイ宣言に対して上級者向け音MADのチーズ狂愛のザマよ。
 ただ驚くべきはこの広告の表示回数で、1345万回表示されてるんすよね。表示数だけで言えばグッパイ宣言や生成AIを使ったポテトの広告よりも多いんですよ。生成AI使うのやめて変な音MADを作って公開した方が広告効果がある可能性がある。
 
こうして振り返ってみると、チーズ狂愛についた【上級者向け】というのはこの広告の真の価値を見抜く事、またこれを広告として出そうという度胸が上級者向けだったんじゃないか、という説が出てきますよ。音MADマーケティングなんていう代物、生成AI以上にオススメ出来ないけど。
 チーズ狂愛に関しては以下の記事もあります。

 チーズベーコンポテトパイは白石麻衣という元乃木坂のYoutuberだかファッションモデルだかを起用していたのが一般向け広告。ちなみに確認した範囲では、Number_iはチーズベーコンポテトパイの広告に登場していません。
 その分白石麻衣の画像広告が多めにとられており、上記以外にも8種のチーズベーコンポテトパイを訴求する画像広告に白石麻衣が登場している。7月31日から8月6日までの1週間、1日に1回以上のペースでこの商品を紹介している辺りに気合が窺えます。
 ちなみにチーズ狂愛に入っている「チーズが~出た出~た~」という音声は、この白石麻衣を起用した広告に含まれています。こうして見ると、ちゃんと広告の音声を元ネタにした音MADだったんだな……

・RP数から見るネットミーム広告の効用

マック広告のRP数グラフ 縦軸:RP 横軸:日付

 ここまで見た上で、改めて日ごとのリポスト合計数を確認してみよう。
 明らかに「マクドは大変なものを作っていきました」が投稿された8月21日だけぶっ飛んだRP数になっており、これだけ見る分には「ネットミーム広告最高! オタクにガンガン擦り寄っていくのが正解やんけ!」という結論になりかねない。
 実際にXというSNSにおいては声のデカいオタクが多く、一度「マクドは大変なものを作っていきました」というネタを投下すればそれを題材に比較動画を出されたり、二次的に音MADが出てきたりと効果の波及が大きいので、Xにだけオタク向け広告をやっておくのは悪くない可能性がある。
 
特にマクドは大変なものを作っていきましたに関してはネットミームに乗っかったというよりも18年前の流行歌を替え歌にしたというアプローチであり、その編曲、歌唱も元ネタの作家を全て再現したような内容に仕上がっていて、ZUN氏にも許諾済みなので、原作厨的なファンも怒りようが無い出来だった。
 これ以上無いほどにテンプレでこれ以上に無いクオリティを出したからこそ、今回のメガヒットが生まれたと言える。

マック広告のRP数グラフ(8/21除く) 縦軸:RP 横軸:日付

 とはいえ、問題はそういう素晴らしい出来以外のタイミングである。
 「マクドは大変なものを作っていきました」を除いてみると、大体平均して2万RPは超えてほしい、4万RP超えたら良い感じで、6万RP超えで大成功、と見る事が出来そうだ。
 この区間の大成功、8月9日、8月6日に投稿された告知投稿をチェックしてみよう。

チキンマックナゲット   10000RP 37000like  Number_i 平野紫耀起用
バイト募集        63RP     500like  
フラッペ         160RP     1000like paypayポイントCP
ポテト          190RP      1400like ポテト農家シリーズ
ハワイやんバーガー    6300RP    8800like 1000円マックカード懸賞
クーポンCP       140RP  810like
ハッピーセット      330RP    1200like ポケモン起用

8月9日  データ集計は8月23日時点

バイト募集?      130RP  960like   おさつちゃん起用
ベーコンポテトパイ   1100RP   7400like   白石麻衣起用
スマイルストーリー   48RP   400like 地域貢献活動紹介
ハワイやんバーガー   1700RP  8300like  
ベーコンポテトパイ   200RP   1300like
フラッペ        370RP   1900like
ナゲット        11000RP  36000like Number_I CMメイキング

8月6日  データ集計は8月23日時点

 こうして見ると、RPが激しい広告には大体Number_iが絡んでおり、拡散力だけで言うと男性アイドルだけ起用してりゃいいじゃねえかという話になってくる。
 そして8月9日や8月6日にはネットミーム系、オタク系広告は無い。ネットミームやオタクは広告に不要なのか? やはりオタクはマクドナルドの席を延々と占領してカードゲームをやったり、おしゃべりばかりして回転率が悪くなるから飲食店的には勘弁してほしいのか?
 とはいえ、まだRP数を見ただけである。ここでいいね数を見てみよう。

・いいね数から見るネットミーム広告の効用

マック広告のいいね数グラフ 縦軸:いいね 横軸:日付
マック広告のいいね数グラフ(8/21除く) 縦軸:いいね 横軸:日付

 という訳で、いいね数を図示したグラフを集計期間全て、そして集計期間のうち8月21日だけ除いた物を見てみましょう。
 RP版グラフでは圧倒的に伸びていた8月6日、8月9日は一転して全然いいねを稼げておらず、その代わりに15万ものいいねを稼いだ大成功と見られる8月19日、8月1日、7月31日はノーマークの期間だったと言えます。実はRP数もそれぞれ4万以上は稼いでいるのでどちらかと言えば良い方だったんですけども。
 じゃあこの日は一体何をやっていたのか、というのを先ほどと同様の形でチェックしてみたい。

すいかフラッペ     230RP  1270like
クルー体験会      240RP  1560like  バイト訴求/imase
ハッピーセット予告   470RP  1500like  ミニ図鑑
ハッピーセット予告   250RP  680like    トミカヒーローズ
ハッピーセット予告   28000RP 74000like ちいかわシールセット
ハワイやんばーがー   6600RP   25000like Number_i
ポテト250円        3700RP  14000like
昼マック        150RP  1200like
トリプル肉厚ビーフ予告 760RP  3500like
ポテト250円予告      19000RP 32000like プレゼント Number_i

8月19日  データ集計は8月23日時点

 8月19日はちいかわのハッピーセットが異様な強さを持っていたのが印象的。マクドは大変なものを作っていきましたを除けばトップであり、現代の大人気コンテンツはちいかわだという事を知らしめた形になる。
 ちいかわはネット民に人気の作品だが、一般層にも人気だという事がよく分かる結果だと思います。

 当然Number_iを起用した広告も2種登場。そのうち一つはマックカードのプレゼント企画を行っており、これもかなり目玉だったと言える。
 ポテト250円キャンペーンも当然注目度が高く、これの開始日であったこともあいまってマックの目立つ日だったのは間違いない。

ベーコンポテトパイ 1000RP 7200like  白石麻衣
ハッピーセット日記 70RP  600like
フラッペ      3300RP 11000like   いいねRP企画
フラッペ      1400RP 12000like aespa起用
マックデリバリー  690RP   2900like
ベーコンポテトパイ 1700RP 14000like
ハッピーセット   2300RP 14000like  ポケモン予告
ハワイやんバーガー 10000RP  38000like  Number_i起用
ベーコンポテトパイ 22000RP 92000like   グッパイ宣言
ビッグマック    500RP  3000like

8月1日  データ集計は8月23日時点

 8月1日はグッパイ宣言の投稿によっていいね数、RP数共に底上げされているのが特徴。若者向けネットミーム広告の効用が出ているが、それ以外にもNumber_iコラボ、白石麻衣やK-POPアイドルグループであるaespaの起用広告など、月初のせいか強めの広告戦線だった事が窺える。
 中でもポケモンのハッピーセット予告は、7月31日に投稿された物も含めて特に盛り上がりがあった。しかし逆に言うと、予告以降のポケモンのハッピーセットの話題はそれほど伸びなかったという印象もある。わざわざ取り上げてはいないが、ポケモンコラボの動画広告なのに140RPくらいしかされてないのもあったしそんな伸びないんだなという印象。これは意外だった。
 そもそも今の小さい子はポケモンを見てないのかもとか、Xを見ているのは若くても中学生以降だろうからポケモンのハッピーセットのオモチャはそんなに欲しくないのかもとか、下品な可能性を考えるなら転売で儲けられなさそうだから話題にならないとか。何にせよちいかわのシールセットの方が話題になっているのは時代の変遷を感じる結果だった。

 あとはマクドナルドともなると、特にプレゼントも絡んでいないにも関わらずありがちなリポスト/いいね投票企画がすごく伸びているのも印象的である。
 見た目美味しそうなのは間違いないんですけども、プレゼント無しでアンケート企画とかやって全然RPいいねされてない告知投稿を見たことがある身としてはこういう広告で大企業のパワーってすげえなあと思うんですよね。

ハッピーセット日記 70RP   500like
バイト募集?    110RP 990like    おさつちゃん起用
ベーコンポテトパイ 6600RP 46000like グッパイ宣言予告
ベーコンポテトパイ 8000RP 20000like チーズ狂愛
ハッピーセット日記 83RP  770like
フラッペ      1700RP 14000like aespa起用
ハワイやんバーガー 1200RP 7000like
ベーコンポテトパイ 940RP   3700like
ハッピーセット   4700RP 21000like ポケモン予告
店内音楽紹介    1600RP 6600like   BOY NEXT DOOR起用
ハッピーセット   160RP   1000like   ミニオンズ告知
ナゲット      1800RP 8300like
フラッペ      14000RP  17000like マックカードプレゼント
ベーコンポテトパイ 13000RP 21000like マックカードプレゼント

7月31日  データ集計は8月23日時点

 月末月初であるせいかマックカードプレゼント企画を2回もやっているのが7月31日。これによって大幅に数値を盛っているのだが、そういうプレゼント関係無く伸びてるのはチーズ狂愛、グッパイ宣言、ポケモンの予告だから割とオタク需要で支えた月末になっていたと言えるのではないか。
 ただそれ以外にもアーティストとのコラボもやっていたので、別にオタクがいないとどうしようも無かった、というほどでは無い印象。

・まとめ

 こうして振り返ってみると、ネットミーム広告と一般ウケする広告をきっちり両方やってるのがマクドナルドのエライ所だと分かります。そして何がウケるか分からないので、ネットミームを使うにしても質の良いちゃんとした広告を作ればダイレクトに効果が出る、というのが結論なのではないでしょうか。
 さらに言えばアイドルで取れる客とオタクネタで取れる客どちらかでは無く両方を取るのが最強という訳です。単に味変気分でネットミームやオタク受けする広告をやらず、全ての方向に向けて広告を大量にやる。生成AIを使って多少炎上しようが、たくさん広告を出して他の広告がウケれば結果オーライなんですね。
 とはいえその「中長期でバランスを考えて方針をずらし、しかも媒体ごとに年がら年中色んな広告を出す」というのはマクドナルドくらいデカい企業じゃないと出来なくね……? という気がしてしまいます。調べといてなんだけど、こんなん広告代理店の人も参考にしづらいでしょ。本当に厳密に調べるならXだけじゃなく各プラットフォームで1年くらい見続けないといけないだろうけど、そんな事してる暇はさすがに無い。一生遊んで暮らせる金があるならやっても良いけど、それもあり得ないし。
 という訳で結論を申しますと「マクドナルドはオタクに擦り寄っているのではなく全人類に擦り寄っている」という事になると思います。すごいぜ大企業!

・おまけ~マクドナルドのその他広告をチェック~

・施策ごとに担当するインフルエンサーを変える

 夏のマクドナルド広告で多かったのは、aespa(えすぱ)のマックカフェの広告。aespaとはK-POPアイドルで、韓国で大ヒットの後日本でも売り出しているアイドルらしいです。自分は知りませんでした。
 そもそもオタクはmccafeという存在自体を知らない可能性がありますが、要はマックでカフェタイムを楽しもうぜ、というノリなんですよね。だからお昼にマックに行く女性層を狙った広告なんじゃないかなあ? と思います。ここで、一旦各施策ごとに担当しているインフルエンサー、コラボ先と商品を並べてみましょう。

・Number_i 旧ジャニーズ系の男性アイドルグループ
 ⇒ハワイやんバーガー/ポテト250円セール/チキンマックナゲット
  目玉かつ一般層向け
・堺雅人、赤西仁
 ⇒サムライマック復刻 かつてのイメージキャラだから
・東方project(マクドは大変なものを作っていきました)
 ⇒20代~40代男性+オタク層向け
・有名絵師
 ⇒チキンマックナゲット オタク層向け
・白井悠介
 ⇒マックフライドポテト オタク層向け
・白石麻衣
 ⇒チーズベーコンポテトパイ 男性向け
・aespa
 ⇒mccafe 女性~若者向け

 非常に雑にまとめるとこんな感じだと思うのだが、注目すべきはその人材起用。Number_iは軸だから色々な広告に出演しているが、それ以外はそれぞれの商品のターゲットに合わせてイメージキャラクターを擁立しようとしているのが分かる。
 そんなのは当たり前だろ! という声もあるかもしれないが、問題は8月だけでそれぞれの商品に別々の人物を起用している事。もう広告だけで相当金が動いているだろうし、これが分かったとして真似が出来るか? と言えば大概の企業は無理じゃないかと思う。スケジュールを抑え、企画して、製作して……という時間と手間は正直想像したくない。
 だから「こんな優れた広告があった!」という驚き屋やマーケターの皆様の投稿は中長期的な広告の話よりも、単発でインパクトある広告の話しかしないのかなあと思う。
 広告戦略とかそういうのを考える意味では全部見るべきなんだけども、そんなに広告費を出せる顧客というのもそんなにいないだろうし、壮大な中長期戦略をすごいと褒めたたえてもほとんどの人は凄さを認識出来ず、かえってバズらないんじゃないかと思います。マクドナルドは大変な広告戦略を作っていきました……

・マックカードのプレゼント企画

 マクドナルドにおけるプレゼント企画は週一くらいでやっているのだが厳密に見ると二種類あり、色々と条件があるタイプのプレゼント企画と無条件にハッシュタグ付け+リプライするだけでもらえるプレゼント企画がある。
 例えばaespaのプレゼント企画はメンションをつけた上で、特定のハッシュタグをつけて、フラッペの画像を投稿するという3アクションが必要になる割に500円分のマックカードしかもらえない。その分もらえるマックカードは限定デザインとなっており、これで多少はファン層だけが応募するようにしているのだと思われる。
 注目すべき点は他の企業でありがちないわゆるフォロー&リポスト企画じゃない事と、アマギフではなくマックカードのプレゼントである点。これはマクドナルド公式自体がもう733万人以上のフォロワーがいるからもはやフォロワーよりもリプライによるレコメンド掲載狙いである事が窺えるし、プレゼントもマックに誘導出来る商品にすることで来店するきっかけを作るのが目的だろうと思われる。その辺の三下とは狙いも格も違うってワケ。

 色々な条件がついているプレゼント企画は伸びづらいのに対して、日程限定でリプライするだけの企画はとにかく伸びやすい印象がある。
 参加しやすい施策は月末月初など絶対に伸ばしたい所に入れて、最悪伸びなくても良いタイミングだったり、多少応募者を絞りたい場合は条件付きのマックカードプレゼント企画にしている……のかもしれない。
 ちなみに抽選で当選する人数の多寡よりも、応募のしやすさによって参加率や拡散の数が変わってくるようです。

・動画投稿時間で遊ぶ

マックの広告投稿時間 縦軸:広告数 横軸:時間

 この調査の副産物として動画投稿時間も集計してみたのだが、大体マックの広告は10時~11時がピークで、次にピークになるのが7時、12時だという事が分かる。まあ理由としては分かりやすくて、お昼時のちょっと前くらいに広告して食事の選択肢に入れてもらおう、という意図だと思われる。
 あと広告のセオリーとして10時~11時は見られやすいみたいな話もあるだろうけど、それも含めてここに固めて投稿するのはある程度納得がいく感じ。ちなみに「チーズ狂愛」や「マクドは大変なものを作っていきました」みたいなネットミーム強めの広告は午後3時が多い。普通の人が見るようなピークの時間帯は意図的にずらしているという工夫も感じられます。
 とはいえ基本的に広告を投稿するのはマックの開店している朝7時から夕食の選択肢になる18時までというルールがあるようである。

 そんな中22時という夜深い時間に投稿していたのが、ポテト農家のトロイさんシリーズ。他にもこのシリーズは存在しているのだが、基本的にはアメリカワシントン州在住のポテト農家のおじさんを紹介しつつ、ポテトの素材になるジャガイモ農業を紹介しているようなシリーズだ。
 これをわざわざルールを無視して投稿しているのは、アメリカと日本の時差を感じさせよう、という遊び心ではないかと思われる。別にそうじゃないかもしれないけど、この広告はちゃんと時差を考慮しないと成立しないでしょ……という内容であればルールを曲げても良いという柔軟性もあるらしい。さすが。

・「話題にならない広告」をやる余裕

 話題になる広告ばかりやっているように見えるマクドナルドだが、正直そこまで話題にならない広告もやっている。その代表格が「スマイルストーリー」で、慈善事業や公共活動の告知を月に数度やっているのだ。
 これに関してはもう強者の余裕としか言いようが無い。普通そんな地域貢献活動の報告投稿なんてやってる場合ではないし、そもそも本業以外の活動とか告示する余裕なんてほとんどあるはずも無い。
 それが出来ちゃうのがマックのすごさというか、恐ろしさである。こういうので色々うるさい人たちに牽制しているのだろうかと思うが、普通そんな牽制球を投げている暇は無いでしょ。でもやっておくことで、多少後顧の憂いを断っている……のかもしれない。
 冷静に考えるとマクドナルド大学とか、病気の子供への支援活動であるドナルド・マクドナルドハウスとかをインターネットで広告出来ない時代からやってるんだからすげえよ。普段変な詐欺広告とかを見てるから余計にすげえなと感心してしまいます。
 話題にならないとは言ってもRP数が1桁なんてことは無いし、最低限のパワーを持ち合わせているのも怖い。

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