オタ恋の広告を中心に振り返るAI黎明期と広告
2022年8月に絵を生成するAI『Stable Diffusion』が登場して1年と4ヶ月、そして2022年11月にChatGPTが登場して1年と1ヶ月になる。
AIはあっという間に我々の生活に入り込み、作業を効率化し、効率化して余った時間には新しい仕事を突っ込まれてため息をつくような事を繰り返している昨今であるが、ここらでAI黎明期である2022年~2023年のAIを活用した広告を見返してみようではないか。
ここにまとめるのは画期的な新技術や優れた映像ばかりではないが、実際そんなに優れたもんばっかある訳無いんだからダラダラと見て行きとうございます。
このまとめはあくまで個人のまとめをソースにした物で、かつ最近の情報は検索しても全然まともなソースが出てこないので抜けがあるかもしれません。もし他に広告があればコメントで教えてくださいね!
・2022年11月~2023年1月-AI採用広告黎明期-
初めてAIイラストを広告に使用した例としてどの広告を挙げるかは諸説あるが、広告を見るYAKISOBAとしては原初のAIイラスト採用事例はJmin Games説を強く推している。Jmin Gamesは2022年初頭にあった「存在しないゲーム広告」の旗手であり、リンク先を見ると変なアンケートページに飛ばされるのが特徴。
詳細は以下のまとめを見て欲しいが、要するに低コストでゲーム画面らしき物を作れることを活かした市場調査が最初のAIイラストを採用した広告の使い道だった。
Stable Diffusion登場当初から生成AIを活用する事で低コストにハイクオリティな画像を作れる、というのが注目されていた。今となっては「手抜き」「パクリ」「盗作」など悪い風評が目立つようになってしまったが、それも使う人間の問題であって技術が悪いわけでは無い。
結局この市場調査も遊べないゲームを広告しているように見えるのだから「遊べないゲームを広告している」という誹りを受けるかもしれないが、あくまでアイデアの叩き台、アイデアのイメージ図としての使用は今後も積極的に行われていくだろう。
後に日本のゲーム会社、レベルファイブでもキャラの案出しや背景の自動生成、クオリティアップなどに使用している事が紹介された。生成AIをベタに使って広告していくようなスタイルはよほど意図が無いと難しくなりつつあるけども、AIでアイデアを出そう! みたいな使い方自体は初期から試されていた事が分かる。
ちなみにマイナビITエージェントが最初に使ったという説もあるんだけども、バナー広告だったり、Jmin Gamesより早く投稿された広告を見つけられなかったりで明確な証拠が見つけられなかった。もしより早い段階で投稿された事を確認出来る資料があれば共有をお願いします。
こちらはシンプルにハイクオリティな画像を安価に出したかった、という所が強いように見える。確かマイナビAIエージェントが画像広告にAIを使わなくなった理由はクリエイターを募集しているのに指が6本ある生成AI作品を使用して炎上したせいだったと記憶しているんだけども、これもソースが検索で出てこないので資料の共有をお願いします。
2022年時点でチャットが出来るアプリとしてはReplikaAIが存在しており、こちらも生成AIを活用した事がよく分かる広告になっている。
ChatGPTが登場してからというものチャット系のAIは全部あちらに話題を持っていかれてしまった印象があるが、一応それよりも前にAIを前面に押し出した広告自体は登場していた。
あとはAIが投資を判断してくれる商材とかの広告もこのAIブーム黎明期に増加していた印象があります。
2023年2月21日に起きた問題として、HIKAKINのAI音声を無断で広告に商用利用された事件が挙げられる。Tiktokとの公式コラボでリリースされた自動音声読み上げ機能を悪用し、広告を作って放映した事が話題になった。
ビジネスアカウントでは使えないように対策しても、個人用アカウントを使用して無断利用しているんだから巧妙な話。ちなみに10月頃にもTiktokでそれらしい広告を見かける場合があったので、この自動音声を無断使用した広告は今後も出てくると思われる。
・2023年3月~4月 -オタ恋の広告開始、AI採用の活発化-
2023年に最も生成AIを活用して広告していたと思われるオタ恋の広告が始まったのは3月の事。
リリース当初は女性1人だけの広告がメインであり、画像にも破綻が見られる場合が多かった。むしろこの分かりやすい破綻があったからこそ、オタ恋が生成AIを使っている! 生成AIでモデルの仕事が奪われる! という大きな話題をもたらしたのは間違いない。
この広告をスクリーンショットした投稿が大きな話題を呼んだが、それを見抜いた理由は左手の指が溶けている点。2023年2月頃にControlNetが登場し、その少し後に普及する前の最初期の生成AIでは手の生成は鬼門である、という風潮があった事も記録しておくべきでしょう。
もっと分かりやすい破綻の例はこれ。エプロンから腕が生えている。
とはいえこちらが話題にならず、スクリーンショットの二次拡散の方が話題になったのはやはりこれが広告であるか、個人の投稿であるかの違いだと思われる。
オタ恋の広告が強かったのは、何かしらでキャッチーな要素をAI画像に含んでいるからだと言える。スクショで二次拡散された広告を人は意図的に広告だと認識しづらいので、人間はスクショで意図せず広告塔になっている場合が多い。
生成AIの破綻によって話題を取るスタイルだった3月頃のオタ恋広告第Ⅰ期の特徴は美人な女性1名だけを広告に採用している点、また可能な範囲で破綻を画像に取り入れている点だと言えるだろう。
破綻が目立たない広告もリリースされているが、こちらに関してはあまり拡散されていない。
この時期は明確なネタが仕込まれている事も無かったので、単に生成AIにかこつけた破綻探しの意図で広告を見られていた。
オタ恋は初期から生成AIを活用したイラスト広告もちょいちょい出しているが、こちらは大体鳴かず飛ばずで終わっている印象がある。
この画像広告に関してはいかにもなマスピ顔(masterpieceというプロンプトを使用したであろうイラスト)だからやむを得ない気がするが、この後に出した生成AIのイラスト広告も伸びた経歴は無い。
結局オタ恋に求められているのは実写っぽい男性や女性なのだ。
全くAIに関係の無い広告もリリースしていた事はマニアならご存知だろう。
この辺りのネットスラングを活用した広告は後のネットミーム再現広告の源流とも考えられる。
RiveraやPicSoのような、AIでイラストが作れるサイトの広告もこの時期はよく見受けられた。
生成AIでイラストを作る手段自体はStable Diffusionをローカルで用意するだけでなくBingAIでの生成やNovelAIもあったわけだが、最初期のどこで画像が作れるか分からない人も多かった時期にはこういうどこの馬の骨とも分からないサービスも多数登場していたのは記録しておくべきだ。何なら今でも新しいサービス自体は登場していると思う。
この頃は世間的にもChatGPTが広まってきて、ChatGPTの変ちくりんな回答にツッコミを入れる広告だったり、また分かりやすくChatGPTをパロディしたような画像広告だったりが登場していた。
一過性のブームとしてのChatGPTにいっちょ噛みするような広告もリリースから半年くらいなら話題が取れると読んでいたのだろう。
直接生成AIを使えなかったとしても、このような形でAIブームに乗っかる心意気は是非見習いたい。
この頃はランブル騎士団や下町ドリームのようなゲームアプリのイラストでもAIイラストの使用疑惑が上がったりしていたが、大抵は生成AI憎しでの批判か、そもそも海外製アプリを叩くためのネタにしか使われていなかったように思う。
カルーセル広告の画像ごとにキャラのデザインが変わってしまう、衣装が変わってしまう点は分かりやすい破綻。この破綻によって話題になる事を意図してやっていたのか、また単にコストカットのために出来が良ければ何でもOKとしたのかは不明である。
そもそも日本語の入れ方が粗雑なのでAIイラストの出来以前の問題である、と言われたら言い返しようも無い。
AI黎明期にぐっと増えたAIを紹介する人々、いわゆる「驚き屋」の間でStable Diffusionを活用した傑作みたいな扱いで紹介されていたのはコカ・コーラの広告。
生成AIの可能性みたいな所を見せつけてくるし、2023年も終わりに近づいてきた今見ても優れた映像である。しかしコカ・コーラという大企業が本気で制作を依頼したのだから、ここまでに取り上げたアプリゲームの広告と一緒じゃ逆に困るとも言えるだろう。
彼らは他にも優れたAIの広告例みたいな所を紹介していた記憶があるが、正直な話をすると現代の広告で見かけた例はあんまり無い。ただ、彼らが驚いた少し後に実戦投入された技術は多数あるはずです。
・2023年5月 -オタ恋冬の時代-
モデルの女性が喋って動くスタイルの広告をリリース。2023年12月のアップデートでX広告の引用ではリンク先が上手く見られなくなってしまったので、動画はこのリンクからご覧ください。
オタ恋の広告で自動音声と口元、顔を動かす技術を採用した数少ない例であるが、これがあまり出てこなかったのはやはり手間の割に話題にならなかったのが原因だと思われる。
他にも身体だけ動いている広告も出ているが、それらもイマイチ話題になったという話を聞かない。
5月に入り、2ヶ月も広告をやり続けると生成される画像のクオリティも高まっているのが分かる。3月の広告に比べると光の加減や顔の表現がよりクリアになっており、背景もちょっと凝った内容になっているのが分かるだろう。
車が走る道路の真ん中を歩いているという奇妙さは残るが、逆にツッコミどころを残しつつ本体のモデルの美しさを際立たせたいのであればちょうど良い落としどころではないか。
地雷系ファッションなど、見た目にこだわりだしたのもこの頃。猫耳を付けた女性、ゴスロリ系の女性など、様々なタイプの画像をリリースし始める。
とはいえこの頃のオタ恋の広告は総じて話題にならず、年末の今になって見てみると冬の時代であったと言える。単なる美人図ではそろそろ見飽きてしまった時期に差し掛かっていたのだろうし、明確なモデルの破綻も見当たらなくなった結果ただただ生成AIの技術の高さを見せるような内容になってしまった感は否めない。
この辺りの試行錯誤は、生成AIかどうかも分からないネコの画像広告を出している辺りにもうかがえる。
広告においてネコを出せばどんな広告でも一定話題になるのは有名な話だが、それは商品やサービスではなく猫の可愛さで釣っているだけである。
かなり攻めた内容の生成画像も見かけていた。一見すると18歳未満の人物に見えるが、AIで作っているのだからセーフだという理屈でゴーサインが出たのだろう。
生成AIで作られた児童ポルノ問題はリアルな女性を出力できるようになった時期から問題視されていた事であり、そこに絡めた話題になる事も狙っていた可能性もある。
しかしあまり話題にならなかったのは、やはり気軽にネタにしづらい内容だった事、そして目立った破綻も無いから茶化しも出来ないというラインだったせいかもしれない。今のオタ恋はこのような危険球を投げなくても話題になる事を知っているので、こういうモデルはもう出さないだろう。
生成したイラストにひと手間加えて、オタク向けの自己紹介文の例を紹介している。
このシリーズは目立った拡散こそされなかったが、比較的ちゃんとしたマッチングアプリらしい広告に生成AI要素を取り入れている実践的な作品だと言える。
この類の広告は5月だけ確認されているが、アイデア自体はかなり秀逸ではないだろうか。
・2023年6月 -太った男オタク参戦 動くAI採用広告が始まる-
オタ恋に転機が訪れたのはこの広告。太った男性と痩せた女性のカップル風画像はオタ恋の代名詞的な扱いとなり、2023年末までオタ恋の女性以上に親しまれるイメージキャラクター的な扱いになる。
基本的にオタ恋の太った男性はメガネをかけている場合が多く、また平均的な成人男性よりも太っているのがポイント。手を見ると若干おかしく見えるところもあるが、そこは破綻として残しておいた可能性もある。
マッチングアプリの告知画像としても、美人な女性モデルだけでなく太った男性側を表現しているのは画期的な要素の一つだと言えるだろう。そもそも美しい女性、カッコいい男性のモデルは数多いが、このように太った男性のモデルは中々見当たらないだろう。そこで太った男性を出力して、他の広告ではあまり見られない画像を作ったのは優れた着眼点だったと言える。
太った男性×太った女性パターンも早い段階で出てきてはいたが、これが花開くのはもう少し先の話。
カップルシリーズは若干太った中年男性を試されていた時期もあった。過剰に太っておらず、現実的にいそうなラインの中年男性の広告も多数確認されている。
こちらがウケなかったのは、結局広告としては妙にリアルでネタにしづらかった事、また後に出てくるコスプレ広告にする際はただの中年男性よりも太った男性の方が見映えするのが原因だろう。
3月に始まったオタ恋の基本的な芸風が固まったのは6月であるのはほぼ間違いないと言える。
最初こそ中年男性の太り具合がやや緩かったが、6月を境に女性のみの広告は姿を消し、太った男性がオタ恋を引っ張っていく流れが出来上がったように思う。
Glamme:AIはAIで生成したイラストを簡単に動画に変換できる事をアピールした広告をリリース。
思いっきり人気漫画のキャラをモチーフにしているイラストを動かして広告にしている問題性はあるが、動くイラストを作れるというセールスポイントが出てきたのもこの頃。
似た広告では後にphotoleapなども登場した。
おねがい社長も6月からAIを採用した広告を本格化。AIイラストのアニメーションや加工を活用し、無料10連ガチャで全サーバー1位の流れに自然に組み込んでいた。
社長に関してはXでの広告を避けてYoutubeやTiktokでの広告に切り替え。また地上波進出も試していたタイミングだったので、社長側のAI活用に関しては知らない人も多いかも。
ControlnetとStable Diffusionで実写映像を動かすみたいな話題が出てきたのはこの広告が出る2ヶ月前の4月の話で、それがmov2movという技術に発展して紹介記事が出てきたのが5月頃。最終的にクオリティが上がった結果広告に出てき始めたのが6月なのだから、技術の実践投入が早いと言わざるを得ない。
short動画と生成AIを組み合わせた動画広告が、この辺りから海外産のアプリでしばしば見受けられるようになっていく。
おねがい社長の生成AI広告と言えば、このような雑誌風の画像を写している映像も見る機会が多かった。Tiktokを見ている人であれば、こういう広告を見る機会はかなり多かったはず。
2023年おねがい社長の生成AIはこの辺りをメインに使い続けていた。単純にローコストで作品のテイストに沿った絵を量産できるのだから、そこまで大きく進化する必要性が無かったのだろう。
・2023年7月 -ウェディングシリーズの開始 海外ゲーム広告でのAI活用が活発化-
オタ恋は特定のテーマに沿った画像広告を開始。7月のテーマは「ウェディング」であり、オタ恋を使ってマッチングした人がゴールインした姿をイメージした広告になっている。
他にも色々とパターンはあったがその多くは男女ともに結婚式での姿を意識した衣装になっており、オタ恋の広告の中では最もマッチングアプリらしい内容になっていたと思う。
オタ恋にとってはカップルである事が重要であると考えられたのか、痩せた男女のカップルも7月は多く見受けられた。
こちらはそれほど話題にはならなかった。割と男側はリアルな線であるようにも思うが、本当にリアルを追求する場合この顔立ちで腹だけは餓鬼のように太っているような場合も多い気がする。
でもそこがリアルでもあまり見ていて良いようには思えないだろうし、そういうイヤなリアリティを追求しなかったのはむしろ正しい選択だったのではないか。
この辺りから生成AIで作った画像をプリントしたTシャツを受注生産で販売し始め、広告に留まらない販路を見出し始めた。
後にオタ恋のLINEスタンプも発売され、2023年12月現在で25種類もリリースされている。広告だけでなくシンプルな収益として活用している隙の無さは流石と言ったところ。
この頃から、全く生成AIに関係の無い海外ゲームが実写風の生成AI美人を広告に活用し始める。少女ウォーズに関しては元々ゲームに関係の無いような広告をしばしばやっており、節操の無い海外広告界隈が話題取りに使えると気付き始めたのはこの頃だろう。
一応おねがい社長はゲーム内に登場するキャラクターも実写っぽいイラストで、結構生成AIの絵柄に近しかった分親和性もあったのだ。だが少女ウォーズや三魚国志、EVONYはあまり噛み合いも無いのに生成AIを広告に取り入れており、話題になるなら何でも使おうというという貪欲さを感じさせる。
またAIを活用しまくっている事をアピールしている広告を出していたのはモリノファンタジーである。
噓広告の中でもAI技術を活用した事を早くから謳いだし、何十億ものデータから一瞬で美しいシーンのマップや、3Dモデルを自動で制作してくれるという未来の制作現場を紹介している。
2023年時点では誇張も良いところな広告だと思うが、2030年くらいにはこの広告に時代が追い付いてくるかもしれない。広告で行われる誇張にも、AIは良いネタとして使われていた。
・2023年8月 -オタ恋、ノージャンルコスプレ時代へ -
オタ恋広告のベスト5を挙げろと言われたらおそらくこれが選ばれるだろう。突然太った男性が鎧を着始めたり、男女共にエルフになったり、将軍みたいな鎧を着たり。
この辺りから「太った男をイジればウケるんだな」という事を本格的に認識し始めたのは間違いない。もちろんそうではない広告もあるが、明確に太った男側がコスプレしたような広告が増えるのは8月~9月が契機である。
8月のオタ恋は久々にイラストの方にもチャレンジしていた。3月頃に初めて登場した絵に比べると大分レベルが上がっている事が分かるだろう。
そして女性2名のカップルや瘦せ型の男女カップルなど、よりイラストとして完成度の高い方向にもっていきたかったであろう事は見て取れる。しかしこの挑戦もまた、太った男性には敵わなかった。
2023年8月時点の限界に挑んでいそうな広告がおうちデートスタイル。手前の人物はともかく背景の絵がのっぺりした印象を受けるし、電気も全部白飛びしていてイマイチな印象を受けたが、見返してみると中々にチャレンジャーな事をしている。
手前の2人だけならともかく、背景のポスター類がのっぺりしたアニメ顔になっているのは現状の限界を感じる内容。とはいえ今後はごちゃついた背景までクリアに、かつ一発で出せるようになるんじゃなかろうか。
元々変な画像の広告で鳴らしたGravityもAIっぽい画像広告に参戦。風呂場の構成がヘンだし、風呂場も浴室に2つある辺りにツッコミどころの確保を感じた。
結局Gravityがこの路線を強く進めるような事は無かったが、元のGravityっぽさを残しつつ良い感じのイラストを生成した例だと言える。
AIによる口パクと音声読み上げまでAIを全て活用したであろう広告としてはゴールドラッシュバトラーがある。
この辺りの新しいチャレンジはとりあえずやってみようという感が強かったのかもしれないが、後に見かける事は無かった。AIの合成音声に関しては広告でもしばしば見かけるようになるが、口パクする人物まで出すのは手間と効果が見合っていないと判断されたのだろうか。
最初から生成AIを使う前提でゲーム、広告を出し始めた例は8月に登場したネバーアフター~逆転メルヘン~や、トリリオン・セクレタリーが走りだと言えるだろう。
特にトリリオン・セクレタリーはゲーム本編にも生成AIを活用したイラストを使用しており、広告にしか登場しない生成AIのイラストがある、というここまでの生成AIの活用状況から一歩抜け出したタイトルだ。
ネバ―アフターは新作として登場したタイミングからゲーム内に登場するキャラをAIで出力し、それで広告するという活用法を見せてきた。元ネタがあるゲームでちゃんと元ネタに沿ったキャラクターの画像を生成している例は案外珍しい。
ゲーム内にはこんなイラストは無い訳だが、ゲームのパッケージや広告画像には本編で見られないイラストがあってもおかしくないという解釈をするなら全然理解できる範疇ではある。
ビビッドアーミーのバナー広告が石恵氏の絵柄を学習させたイラストを広告に使用するというアウトな行為を行った疑いが生まれ、話題になった。
実際これは当事者同士で和解し、使用が取り下げられたらしい。ビビッドアーミーは引き続きどこかで見たような絵柄のイラストを広告で出し続けている。結局このような問題のある利用方法であっても、それを追求する手間の方が圧倒的にかかってしまうのは今後改善すべき問題だと言えるだろう。
・2023年9月 -オタ恋が「完成」した日-
オタ恋は既存のイラストから人物を切り抜き、アウトレイジパロディの広告を作り始めた。そしてこの広告からとうとう、オタ恋から女性の姿が消える例が散見されるようになる。
ここまで来ると完全にオタ恋のアピールポイントは太った男性であり、美女は話題にならないのだという所をはっきり認識しただろう。
そしてオタ恋の画像広告は、9月から完全にアンチ生成AIの文脈ではなくネットミームとしてのネタ画像として扱われるようになっていく。
女性がコスプレしているパターン、男性がコスプレしているパターン問わず、新作が出るたびに大手Xユーザーが取り上げて話題になるというボーナスタイムに突入していた。この時期のオタ恋は間違いなく広告として最盛期だったと言えるだろう。
このような二次的な話題展開のメリットは、広告を消せる有料会員にも広告を届けられる有料会員特権貫通効果に尽きる。Xの広告を金銭を払って消しているはずが、オタ恋の広告だけは他のXユーザーが話題にして有料会員にも回ってきてしまう。これほど口コミの展開力を有効活用して話題を爆発的に広めるパターンはかつて無かったと言っても良いだろう。
太っている男性以外にも、異様に左腕の筋肉を肥大化させるなどして話題を獲得しに行くノウハウが形成しきったのが9月だと言えよう。
カップル広告のバリエーションも広がり、広告を出せばウケる。オタ恋の方針が完全に定まった瞬間である。
一応シリーズとしてはスポーツをしている広告が多数登場していたが、スポーツシリーズはそれほど話題にならなかった印象がある。
その前のキャラクターコスプレシリーズに対して薄味なのは否めないが、こちらはこちらで完成度が高いように見える。キャラクターコスプレシリーズは権利者からの通報があるかもしれないが、スポーツコスプレであれば今後も残し続けられそうなのもメリット。
珍しい例では、古事記プロジェクトという企画がAIイラストコンテストを開催しヤマタノオロチのイラストを募集していた。
結局どんな結果になったのかは公式サイトを見ても確認出来なかったが、AIイラストの賞を広告で告知した例はかなり貴重だと思われる。一応AIアートグランプリという賞は開催されているので、今後こういう賞が増える可能性もありそう。
・2023年10月 -大AI導入時代 黎明期の終焉?-
AIを採用した広告が登場して大体11ヶ月が経った頃、伊藤園からAIタレントを採用した広告が登場。役者をナチュラルに若返らせるというAIタレントならではの演出で、界隈を驚かせる。
この広告は実在しないタレントを登場させたという話題性から一定の知名度を得るに至り、またタレントやモデルの仕事が奪われるなどという話題に帰ってきた。
こうして通しで歴史を見ているとオタ恋でそういう話になったのをもう忘れちまったか? と思う人も多いかもしれないが、この頃のオタ恋は完全にネタ画像路線に突っ込んでいたので初期オタ恋のノリを知らない人も多くなっていたのだろう。
また生成AIでニュース番組に似せたような投資情報サイトへの登録を促す広告も見かけられるようになり、NHKニュースでも取り上げられるような騒ぎに。
自動音声のアクセントに違和感があるなどの瑕疵はあるにせよ、孫正義や岸田文雄のインタビューの切り抜きを交えつつ完成度の高い偽広告をリリースしてきた事にこちらも方々から驚きの声が上がった。
伊藤園と偽広告、この2タイトルが同時に10月に話題になったのは偶然かそれとも必然であったのか。AIを活用した広告における光の未来と闇の未来が同時にやってきたような構成にも見える。
オタ恋はITmediaでのインタビュー記事が公開。AIを活用する事で実績が出ており、ギャラが高くつきモデルも少ないマッチングアプリにおいてAIを活用した方が広告に向く点、大量に素材を作成できるのでABテストもやりやすい点など、様々なメリットを語っていた。
特にマッチングアプリで女性が利用する際は安全性や信頼性、知名度を重視する声が上位に来ているらしく、その知名度を生成AIの広告で獲得出来たのはオタ恋にとって僥倖だったと言えるだろう。
ところでこの記事では23年5月からAI広告を展開している事になっているが実際は3月から展開しているし、太ったカップルが出てきたのは7月とあるが実際は6月である。実績が出てきたのはその辺りだ、と言われたらそうなのかもしれないが……
そんなオタ恋が10月にリリースしたのは、男性と女性の太り具合を逆転させたバージョン。3ヶ月ぶりの痩せている男性の登場も驚かれたが、何より太っている女性の登場もオタ恋ウォッチャーからすると驚きの対象であった。
これはどちらかと言えば女性側をターゲットにした広告に見える。普段のマッチングアプリではモデルとして登場するのが美女ばかりであるが、美男子をメインに登場させるマッチングアプリの路線もオタ恋は今後開拓できるかもしれない。
10月の傑作としてはこれを挙げたい。隣に女性がいながら春麗のコスプレを太っている男性側がやっているし、その衣装のクオリティも上手く指定したんだろうなという内容になっているのが面白い。
見ただけでツッコミどころをきちんと用意していて、インパクトも強い。しっかりネタ広告に振っている良い画像。
・2023年11月~12月 -パロディ広告の隆盛とオタ恋の未来-
オタ恋の11月の広告はネタ画像に依った広告をメインに投稿し始めた。
この広告に関しては投稿後約5時間でスクショされ拡散されたポストのデータも残っていたので、こちらも一緒に記録しておきたい。オタ恋の特徴として、一次情報源である広告は4800RP、その約5時間後にネタ投稿として二次的に拡散されたポストは8600RPと、一般ユーザーが投稿しただけで倍もの拡散力、閲覧数ブーストを得る事が分かる。
それだけプレミアム会員ボーナスによる広告ブロックの貫通効果、あるいは広告ではなく皆でネタとして楽しんでいるという意識付けによってこれだけの広告効果を得るのは脅威的だ。
みすず学園パロディ。
キャラ自体も過去に生成したイラストから持って来ているのでコスパも良い。過去にあったアウトレイジの広告がバカ受けしたのを見て、よく見る広告をパロディしたり、ミームをパクっていくような広告が11月後半から増えていく。
12月のベストヒットはこれ。オタクに人気のあるボーボボ人気投票を分かりやすくパロディし、大きな話題を獲得した。
注目すべきはこれがオタ恋の公式Xからの投稿だという事。インストール用リンクがついていないが単純に話題になりやすい所を公式Xから投稿して、アカウント本体のフォロワーを増やそうと画策したのだろう。
あとは広告にすると集英社からツッコミが入った際に色々と困るから、という可能性もあります。
生成AIを用いた画像作成の技術、そして実戦投入の速度という意味ではオタ恋がトップクラスだと思うのだが、それでも難しい領域がこたつに入った男女の画像である。
背景のストーブ2つ態勢はネタの領域かもしれないが、それでもこたつの大きさに対して男性のデカさ、そして女性の体勢等に若干の違和感を覚えてしまう。
これも将来的には実際の写真のように見えるように生成出来るはずだが、こたつに入った人間が難しい理由に関しては検討すると面白いかもしれない。
11月頃に見受けられたスカイダイビング風広告は生成AIの新境地を感じさせる内容だった。グラビア写真をもとにしたような画像は多くても、こういうスカイダイビングをしているような動的な画像を作る例はあまり無かったように思う。
正方形の画像として切り取る前は何か齟齬があったのかもしれないが、こうして広告にしている内容では特に破綻が内容に見えるのもすごい。強いて言えばパラシュートと衣服の境界線があいまいなくらいか?
吹き出しをつけただけのエコな新作。過去に作成したであろうモデルにネタを喋らせるだけの内容。
ここまで来るとさすがにマンネリであると評されているのも見かけたが、結局は注目度が稼げてしまう辺りにオタ恋ブランドの強さを感じた。
このような簡単な内容の場合、広告にせず公式アカウントでの展開に留めているのもしたたかさを感じる。
実績を紹介するような広告も出していた。確かにオタ恋には実績を疑われるリプライがついている場合が多いので、こういう形で実績を紹介するのもまた大切な事だと言えるだろう。
Gmailのスクショだけだとサクラなのでは? と疑う人は疑うだろうけども、これ以上の情報を開示するのも難しいだろうしこんなもんでしょう。
動く画像広告も11月になるとかなり進化して、静止画をダイナミックに動くように調整出来るようになった。あまりにもダイナミック過ぎる気がしないでも無いが、現実の人間とほぼ同様の動きが出来るようになる日もいずれはやってくるかもしれない。
ちなみに生成画像の動き方の進化は、2023年5月の冒頭の動く広告と比較してみて頂きたい。
・2023年のAIまとめ
生成AIを広告に導入した例は数多くあることがお分かりいただけたと思うが、ここまでの広告を見ると分かるように「ローコストで告知が作れる」という所に加えて「AIブームの影響でどんな出来でも話題になる可能性が高かった」という所が大きい。
AI元年となった2023年だからこそ出来が多少悪くてもAIを使いやがったで話題になるし、出来が良ければ驚かれて話題になる。しかし、もう今となっては物珍しさだけで大きく話題にするのは難しいだろう。
ただ幸いな事にまだまだ生成AIに関しては発展途上な面があり、新しい技術を広告に落とし込めれば第二のオタ恋になれる可能性は残されている。
出来上がりが何でも良いなら、生成AIの作業速度は圧倒的。そこから既存の創作のパクリで無いようにするとか、オリジナリティを出そうとするとか、そういう手間をかけると時間がかかってしまう。その点ウソでも何でも良いから美男美女を出したり、衝撃的な絵面を出せたりすれば良い偽広告は特に生成AIと相性が良いと言える。
もちろん生成AIで作ったイラストを特にこだわらずにゲーム内に採用しても良いと考えているなら、もっとハードルは下がる。予算感にも依るが、とにかく安上がりに作るなら現状のAIは有力な選択肢になるだろう。
総括すると、1年目は新しい技術を3月からずっと磨き続けたオタ恋がAI活用と言う面では一歩抜きんでたと言えるだろう。
ただ繰り返すように技術はまだこれから発展する物であるし、Jmin GamesやマイナビITエージェントで生成AIを使用した広告が始まってからまだ1年と少し経っただけ。
おそらく来年以降もオタ恋は広告を続けるはずだから、オタ恋の開拓精神を今後も暖かく見守っていければと思います。
※2024年1月追記 wacom広告問題とAI活用の未来
2024年の年始早々に、wacomの海外アカウントが生成AIを活用していた事によってアメリカ圏で批判が殺到し、日本国内でも絵師界隈を中心に生成AI排斥運動の動きが強まりつつある。
自分自身この記事をまとめた際は不勉強だったのもあり、生成AIの平和的活用が進むのではないか? という楽観論的なまとめをしていたが、創作物の無断利用に対する認識が甘かったのは確かである。公開当初にご覧いただいた方には申し訳ありませんが、本noteでも生成AIに関して積極的に研究してみては、というAIの活用を助長するような記載は削除させて頂きました。
生成AIに関する問題に関して詳しくは以下を確認して頂きたいが、ざっとまとめるとフェアユースの概念が著作権の発生する創作物に適用されないのではないか、また現状の学習モデルには明確に児童ポルノが含まれており倫理的問題がある、という問題が指摘されている。
とはいえ、じゃあこれで生成AIを活用した生成画像は使われなくなるか? と言われれば自分はNOだと思っている。というのも、日本の一部や海外のユーザー層で生成AIに対する嫌悪感が高まっているとして、一度生まれてしまった技術は費用を安くあげたい事業者が使い続けるだろう。
プロはAIかどうかを見抜けると言われていても、一般人が見て指が6本あるからAIだ、などと素人判断でAI認定出来るようなレベルはとうに超越している。もちろんプロから見ても評価できるレベルの作品が出てくる事もあり得るし、AI製か、そうでないかを評価するのはさらに困難になっていく可能性が高い。
今回のwacomの件が発覚したのも龍の絵のウロコに違和感がある、しっぽが胴体に繋がっていないという極めて拙い出来の絵を広告に使用したからであり、もしも真っ当に手を加えられた生成AI活用イラストだったら果たして気付けたのだろうか?
個人の著作物の学習を禁止、違法化出来たとして、それはAIとの向き合い方を考える第一歩である。その先を考えなければいけない。
真っ当でない技術であっても、時間をかければ進化するのは間違いない。フェアにやりたい人々はフェアにやれば良いが、その間に生成AI側もまた表現や出力の仕方を変えてくるだろう。
一時の流行で反AIを名乗るだけなら簡単だが、本当に反AI運動を行うのであればこれから生きている間ずっと技術に目を光らせながらグレーな創作を監視していく必要がある。倫理的問題があるから、という理由で使用を止めない人も残念ながらいるのだ。
幸いにも自分は絵心が無いので、AIイラストを見続けたからと言って絵の創作のモチベーションが落ちるという事が無い。そういう疑いがある広告に関してはなるべく共有し、意見を問い続けていきたい。
ここからは個人の意見だが、AI問題に関してはアーティスト的な観点、あるいはテクノロジー的な観点だけでなく経済学的な観点からもアプローチをかけた方が良いのではないかと最近思っている。
というのもAIで仕事を代替しよう、減らそうとした結果コストカットで職が奪われるばかり、というのは絵描きだけの問題ではなく他のクリエイターにも及んでいるし、将来的には今AIの恩恵にあずかっている投資家や経営者にも及ぶ可能性がある。今は広告をする側が安上がりに高品質な絵を使える、というくらいの話で済んでいるかもしれないが、20年後、30年後を見越すとキレイな絵や高品質な文章が安価で出て来てラッキー、という話では済まされないのではないか。
結局今のAI問題がイマイチ問題視されないのは、作家以外の人間にとって絵や文章がAIに代替されても現状の実生活では困っていないからである。これがもっとAIが社会に進出してきて、私はAIを使う側の人間である、AIに俺の仕事は奪われないだろうと思っていた人の仕事が無くなり始めたらようやく社会全体で問題になるかもしれないが、おそらくその時にはより良いAIとの向き合い方を考えるには難しい状態になっている。
完全にAIを社会から追放するのか、それとも何かしらで共生を目指すのか、あるいはAIで構築された社会に人類が寄生するような形を目指すのか。AI黎明期である今こそ、そのような話を真剣に考えるべき日が来ていると思う。だが肝心の広告を見るYAKISOBA自身がそこまでの学が無いので、今は問題提起だけに留まる事をお許し願いたい。