ロイヤルティフリーサンプルが原因の著作権侵害申し立ての話とLofiシーンのワンパターン化について
先日、Twitterにて下記のようなツイートをしたところ、思いの外多くの反響を頂きました。
上記は「自分の作った曲なのにサブスクへリリース申請したら他の人の曲と勘違いされて拒否された!ロイヤルティフリーのサンプルしか使ってないのに…」といった様なツイートを見かけ、「あぁ、そんな事もあり得るな」と思いツイートしたものでした。
本記事では上記について、僕の知る事例や憶測から回避策を紹介できればと思っています。
免責事項
本記事に記載される内容はあくまでRefeeld個人の意見であり、事実誤認が含まれる場合もあります。
お気付きの点あれば是非Twitter等でご指摘頂けると幸いです。
筆者について
僕は「Refeeld」という名前で主にLofi, Chill, Electronicを制作・リリースしている者です。
「Lofi Girl」や「College Music」など、Lofiシーンでは主要となる海外のインターネットレーベルはもちろん、国内であれば「ソニー・ミュージックレーベルズ」が展開しているプロジェクト「SACRA BEATS」から楽曲をリリースした事があります。
ロイヤルティフリーサンプルと著作権保護の話
SpliceやLoopcloudといった「ロイヤルティフリーサンプル」の販売サービスをご存知でしょうか?
SpliceやLoopcloudというのはサブスクリプション型サンプル販売サービスで、月額固定額を払って毎月サービス内クレジットを入手し、そのクレジットでサンプルを購入できるサービスです。
もちろん、SpliceやLoopcloudなどのロイヤルティフリーサンプルを使って曲を作っていれば、権利上基本的には大丈夫です。しかし、SpliceやLoopcloudなどのロイヤルティフリーサンプルを使っているからこそ注意しなければいけません。メロディーやコード進行などの音程のある楽器で作られたループサンプルは特にです。
前述の通り、SpliceやLoopcloudなどのロイヤルティフリーサンプルであればそれを使って曲を作り、サブスクへリリースすることは問題ありません。
裏を返すと、上記を同じようにやる人がいるわけです。そして、それらの楽曲は著作権保護目的で音源やメロディが管理されます。
YouTube Liveでの著作権侵害申し立て事件
話は少し変わります。
2022年7月10日、前述のとおり僕自身もリリース経験があるLofi Girlの配信が突如終了しました。現在は既に復活しています。
Lofi Girlはこの件について「誤った著作権侵害申し立てにより、lofi radiosが停止されました。」と説明しています。
Lofi Girlが現在ライブ配信内で使用している楽曲は全てLofi Girlからリリースされた楽曲であり、それらの楽曲の権利はLofi Girlが保有しています。
なのでLofi Girlは著作権侵害をしていないというわけです。
さて、詳細は伏せさせて頂きますが、今年に入ってから、そしてこの事件が起きた後に、複数のレーベルからアーティスト向けにこのようなメッセージが。
「Spliceのようなサンプルフリー素材を使った楽曲のリリースはお断りしています。」
上記のような内容は、レーベルから直接連絡されるだけでなく、レーベルのサブミッションフォームにも記載されるようになりました。
あくまで憶測ですが、Lofi Girlの事件は「何者かが悪意を持ってLofi Girlへ著作権侵害申し立てを行った際に、YouTubeの著作権侵害申し立てをチェックするボット(あるいは人)が、ロイヤルティフリーのループ素材を使った楽曲を別のレーベルが保有する同じループ素材を使った楽曲と同一の著作物であると誤検知し、YouTubeが配信を終了させた」のではないかと考えます。
サンプルにより楽曲が誤検知される理由
このLofi Girlの事件では、Lofi Girlの著作権侵害を疑われた楽曲と、著作権侵害をされた楽曲も、どちらも音楽レーベルにより著作権管理がされており、楽曲権利を各レーベルが保有していたことになります。
実際にはボットが判別しているのか、人が判別しているのかはわかりませんが、同じループ素材を使っている以上、楽曲が同一の著作物と誤って認識される可能性は高まります。
ここまでを踏まえて、記事冒頭の「サブスクへのリリースを拒否されてしまった人」の事を考えると、
リリース申請をする
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ディストリビューターが楽曲の審査をする
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使用しているサンプルから、似た楽曲と同一の著作物と誤検知
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リリース拒否
になったのかなと思います。
回避策
よくある回避策は、そのループ素材のピッチを変えたりテンポを変えたり、チョップしてバラバラにしたりエフェクトを入れまくったり、原型から大幅に変えることです。
これによって著作権侵害と誤検知される可能性は低くなります。0とは言えませんが。
原型のまま使いたいといったこともあると思いますが、誤検知されてしまってはどうしようもないのでそこはある程度仕方ないことなのかなと思います、ちゃんと異議申し立てをするのであれば話は別です。
使ってるのはロイヤルティフリー素材ですし、誰も著作権侵害をしていないですし、誰も悪くないのです。が、それを使った楽曲は著作権保護目的で管理されるので、これを審査するYouTubeやディストリビューターが原因になっているのでしょう。
そして、なぜ最初に
> 「SpliceやLoopcloudなどのロイヤルティフリーサンプルを使っているからこそ注意しなければいけません。」
と書いたか。それはSpliceやLoopcloudは利用者が多い = 同じサンプルを使う人が多い = 審査に引っかかる可能性が高くなるということです。
もう一つ
> 「特にメロディーやコード進行などの音程のある楽器で作られたループサンプル。」
これに関してですが、これは審査に引っかかりやすい原因がメロディーやコード進行だからです。
ドラムだけ聴いてもなんの曲かわからない人がほとんどだと思いますが、メロディーやコード進行だけ聴いたら「この曲だ!」ってなりますよね?そういうことです。
この問題について思うこと
この問題に関してはインターネットや著作権保護技術が発達した現代だからこそ、そしてどの音楽ジャンルも注意を払わないといけない問題ですが、Lofiは特にこの問題へ向き合う必要があると思います。
1つ目はLofiのルーツ。
元々Lofiは既存の曲をサンプリングして、そこにビートを乗せるのが原点でした。たとえば「Nujabes」はLofiのルーツと言える作品を沢山残したアーティストですが、僕の好きな曲「Luv (Sic) Pt.2」は「Ivan Lins」の「Qualquer Dia」という曲をサンプリングしています。
歴史的に多くの曲が他者の著作物を無断でサンプリングしており、著作権者からの申し立てがあれば弁解の余地がありませんでした。
このビートメイクのワークフローは権利的にクリーンになった現在のLofiシーンでも存在していて、それがロイヤルティフリーのループサンプル使用です。しかし同じループサンプルを使って曲を作り、リリースをしている人が居れば必然的に著作権侵害と誤検知される可能性も高くなります。
2つ目はLofiの過度な商業化。
これは難しい話題なので賛否があるかと思いますが、最近のLofiシーンはあまりにも商業化が進みすぎていて、アーティストもレーベルも「とりあえずLofiっぽい音楽をリリースすれば稼げる」というマインドになっている節があります。
これが故に、製作コスト増を避けたいがためにロイヤルティフリーのループサンプルを加工無しで使い、あとはビートだけ入れてリリースみたいな事が普通にあります。
価値観は人それぞれなので僕はその曲を悪く言うことはできないですし、ちゃんとアーティストがライセンスに基づいて作った著作物なので問題ではありません。が、こういった事が原因でLofi楽曲の急激な増加とワンパターン化、そしてこの2つが著作権侵害の誤検知を加速させているのではないかと思っています。
そんな感じで、僕は最近のLofiシーンに疑問を抱く事が多々ありますが、一方で自分はメロディーやコード進行のループ素材をほぼ使ってはいないとはいえ、このシーンで作品を発表している以上はこの流れに加担しているし、それで生活ができていることもあるので、強く否定するのは難しくもあります。
それでも、僕はLofiという音楽が大好きで、日々聴いてますし、日々新たなオリジナリティある作品を作っています。これだけはしっかり言えることです。
お読み頂きありがとうございました。