【大学入試紙面講義】2020年東洋大 2/8実施 大問1・3

本来なら、今週から2021年で実施された私立大学入試の解説を行う予定でしたが、問題がまだ公開されていなかったことより、今週も通常の紙面講義を行いたいと思います。来週くらいから始められたら、と思っています。
今回の問題は東洋大学を取り扱います。え?慶応とか関関同立なのでは?と思った方もいますが、問題の選定を行っていた時に、東洋大学の3文章正誤問題がかなり厄介だったということがあったので、急遽こちらを取り扱うこととしました。この三文章正誤は保留の選択肢がほとんど使えないという厄介な問題です。中央大学もこのような形式で出されますが、東洋大学のこの形式の正誤問題も面倒です。では、どのように攻略したらいいか、話していきたいと思います。

■問題の概略

今回は大問1と3を解説します。大問1は京都を中心とした古都史、大問3は明治の社会経済史を中心とした政治史が出されています。京都古都史は立命館でも出題されるため、都の変遷史と合わせて学習しておくといいでしょう。
明治の社会経済史は、出題頻度が非常に高いので、対策をしっかりと立てられていないと大問一題丸々出ることもあるので、思わぬ点差がついてしまいます。

■大問1 解説

では、解説に行きましょう。今回は大問2つで三文章正誤に絞って解説を行います。

問3 下線部c(恭仁京の造都、甲賀宮の造営、難波宮への遷都)について述べた文X~Zについて、その正誤の組合せとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
X 恭仁京は現在の京都府内にあった。
Y 甲賀宮(紫香楽宮)は現在の滋賀県内にあった。
Z 難波宮は現在の大阪府内にあった。
➀ X:正、Y:正、Z:正 ② X:正、Y:正 Z:誤
③ X:正、Y:誤、Z:正 ④ X:正、Y:誤、Z:誤
⑤ X:誤、Y:正、Z:正 ⑥ X:誤、Y:正、Z:誤
⑦ X:誤、Y:誤、Z:正 ⑧ X:誤、Y:誤、Z:誤

先ほど、古都史の問題は都の変遷の話をしたと思いますが、位置関係も出題されます。よって、地図などで都の大体の位置は把握しておきましょう。このタイプで要注意の大学が関西大学です。関西大学は地図を用いた出題が多いところです(他にも文化財などの位置関係も要注意)。
こういう問題の攻略法は、明らかな判定ができるものから処理していくのが鉄則です。中央大学も同じ形式ですが、選択肢がないだけでやっていることは全く同じなのです。そして、何よりも、保留にすることができない点では厄介ですが、東洋大学と中央大学の大きな相違点は、判断材料に困る選択肢が少ない点です(多少はありますが)。そこから考えると、少しでも正答率を上げるために、確実に判断できるところから攻めるのがいいでしょう。
YとZはどちらも判断が容易です。紫香楽宮は滋賀県にあります(信楽焼きで有名なあの付近です)。難波宮も大阪府です。大阪に難波という地域がありますが、その付近となります。Xの恭仁京ですが、これも京都府にあります。京都府の相楽郡にあります。平城京の少し北に行ったところにあります(平等院よりは南になります)。よって、全て正文となり、答えは➀となります。

問9 下線部g(京都の長い歴史)に関連して、鎌倉時代の京都について述べた文X~Zについて、その正誤の組合せとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
X 後鳥羽上皇は、院政を強化し、幕府と対決して朝廷の勢力を挽回する動きを強めた。
Y 承久の乱に勝利した幕府は、京都に新たに六波羅探題を置いて朝廷を監視するようになった。
Z 幕府の監視が強まり院政は行われなくなった。
➀ X:正、Y:正、Z:正 ② X:正、Y:正 Z:誤
③ X:正、Y:誤、Z:正 ④ X:正、Y:誤、Z:誤
⑤ X:誤、Y:正、Z:正 ⑥ X:誤、Y:正、Z:誤
⑦ X:誤、Y:誤、Z:正 ⑧ X:誤、Y:誤、Z:誤

さて、これはいかがでしょうか。Xは正文、Yは正文というのは分かると思います。Zについては誤文となります。えっ!と思う人もいますが、六波羅探題が設置されたのち、朝廷は大覚寺統と持明院統に分裂しましたが、そのときに幕府は天皇の就任に対して口出しをしました。その後、その系統から出た天皇が院政を行いました。後醍醐天皇が就任したときに、父の後宇田天皇の院政を廃止した、ということから、院政は行われていたことが分かります。よって、正解は②となります。

問10 鎌倉時代の奈良について述べた文X~Zについて、その正誤の組合せとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
X 重源が東大寺勧進上人となり東大寺再建に尽力した。
Y 興福寺の無著・世親の両像はこの時期の彫刻である。
Z 現在の東大寺南大門は、この時代の建築遺構である。
➀ X:正、Y:正、Z:正 ② X:正、Y:正 Z:誤
③ X:正、Y:誤、Z:正 ④ X:正、Y:誤、Z:誤
⑤ X:誤、Y:正、Z:正 ⑥ X:誤、Y:正、Z:誤
⑦ X:誤、Y:誤、Z:正 ⑧ X:誤、Y:誤、Z:誤

今度は鎌倉時代の奈良についての問題ですが、奈良の古都史で出るのは古代が中心(政治・文化)ですが、中世以降だと文化史で出されます。よって、文化史の学習も関連付けて行っておきましょう。
Xの東大寺の再建を行ったのは重源ですので正文です。この時に東大寺勧進上人になったことを知らない人は、周辺知識で加えておきましょう。Zも正文です。よって、➀か③に絞れます。Yは無著・世親像は運慶らが造った鎌倉時代の肖像彫刻です。彫刻については、仏教彫刻なのか肖像彫刻なのかの区別まで必要な場合があるので、気を付けてください。よって、正解は➀となります。

問15 室町文化について述べた文X~Zについて、その正誤の組合せとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
X 南北朝文化の時代、足利尊氏の『神皇正統記』は皇位継承の道理を説いたものであった。
Y 北山文化の象徴である足利義政の金閣は、寝殿造と禅宗様を折衷したものである。
Z 東山文化の遺構である足利義満の東求堂同仁斎は、書院造の成立を示す建築遺構である。
➀ X:正、Y:正、Z:正 ② X:正、Y:正 Z:誤
③ X:正、Y:誤、Z:正 ④ X:正、Y:誤、Z:誤
⑤ X:誤、Y:正、Z:正 ⑥ X:誤、Y:正、Z:誤
⑦ X:誤、Y:誤、Z:正 ⑧ X:誤、Y:誤、Z:誤

この問題は、確実に正解を出したいところです。正誤問題の作り方の基本に忠実になれば、確実に正解を出せます。
Xは誤文で、『神皇正統記』は足利尊氏ではなく北畠親房の作品です。この作品を通じて、南朝を正当な王朝としたことを示しています。YとZはどちらも誤文です。なぜなら、金閣と東求堂同仁斎を建立した人物が逆だからです。これはよく人物と作品(建築物等)を逆にするという定番の正誤判定です。このタイプの問題は落としてはいけません。ですが、難関私立などになると、その正誤の作られ方が巧みになってきます。文言で正誤判定になる問題も出てくるからです。そういうタイプは気を付けておきましょう。
よって、正解は⑧です。

■大問3 解説

今度は大問3の解説に行きましょう。

問5 下線部e(新貨条例)について述べた文X~Zについて、その正誤の組合せとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
X 当日流通していた多種の紙幣を整理するために発行された明治通宝札は、国立銀行条例により日本銀行券に置き換えられた。
Y 伊藤博文の建議によって公布された新貨条例は、金本位制を原則とし、円・銭。厘の十進法を採用した。
Z 新貨条例の公布により兌換制度が確立した。
➀ X:正、Y:正、Z:正 ② X:正、Y:正 Z:誤
③ X:正、Y:誤、Z:正 ④ X:正、Y:誤、Z:誤
⑤ X:誤、Y:正、Z:正 ⑥ X:誤、Y:正、Z:誤
⑦ X:誤、Y:誤、Z:正 ⑧ X:誤、Y:誤、Z:誤

新貨条例の内容が分かっていなければこの正誤判定は難しいです。Xは明らかに誤文と判定できます。国立銀行条例より、国立銀行で作られた紙幣は国立銀行券となります。日本銀行券は日本銀行が発行した紙幣です。日本銀行が設立されるのが1882年なので、これは日本銀行の知識より判定はできます。Yは正文です。気になるのは伊藤博文が建議した、の部分ですが、これは正しいです。知らない人は、周辺知識に加えておきましょう。Zは誤文です。翌年の1872年に明治通宝札が発行されますが、1876年に一度兌換制度は停止しています。よって、新貨条例が制定されてから確立したとは言い難いです。兌換制度の確立は、1885年の銀兌換制になったところからです。よって、正解は⑥となります。

問8 下線部g(紡績業・製糸業)の製糸業に関連して述べた文X~Zについて、その正誤の組合せとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
X 生糸は海外との貿易開始以来、輸出品目第1位を占め、重要な外貨獲得産業であったが、1900年代に入ると1位の座を綿糸に取ってかわられた。
Y 生糸の輸出高では、世界最大の輸出国である清を追い越すことはできなかった。
Z 日清戦争のころになると器械製糸による生産高が座繰製糸による生産高を超えた。
➀ X:正、Y:正、Z:正 ② X:正、Y:正 Z:誤
③ X:正、Y:誤、Z:正 ④ X:正、Y:誤、Z:誤
⑤ X:誤、Y:正、Z:正 ⑥ X:誤、Y:正、Z:誤
⑦ X:誤、Y:誤、Z:正 ⑧ X:誤、Y:誤、Z:誤

これも、製糸業の話が分かっていなかったら解けません。軽工業のデータをしっかりと入れておきましょう。
Xは誤文です。生糸は輸出品目1位となるのは幕末期の貿易から変わりません。しかし、生糸は1930年の昭和恐慌が起きるまで1位の座を明け渡していません。Yも誤文です。1909年に清に代わって生糸の輸出高で世界1位となっています。Zは正文です。1894年頃に座繰製糸よりも器械製糸の生産高が高くなっています。よって、正解は⑦になります。

問10 下線部i(労働運動)に関連して、労働問題について述べた文X~Zについて、その正誤の組合せとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
X 横山源之助著の『日本之下層社会』は、貧困社会の実態を現地調査し発表した重要な史料である。
Y 1886年に起きた大阪天満紡績工場のストライキは日本最初のストライキとなった。
Z 日本最初の労働者保護法である工場法は1911年に施行された。
➀ X:正、Y:正、Z:正 ② X:正、Y:正 Z:誤
③ X:正、Y:誤、Z:正 ④ X:正、Y:誤、Z:誤
⑤ X:誤、Y:正、Z:正 ⑥ X:誤、Y:正、Z:誤
⑦ X:誤、Y:誤、Z:正 ⑧ X:誤、Y:誤、Z:誤

今回は労働運動の関係が分からないといけません。受験生が明治社会経済史を苦手にしている理由の一つとして、こういう内容を他のテーマと関連付けて覚えていないことにも要因があります。そのため、来年受験をされる方は、社会経済史は様々な単元との関連性を重視していただきたいと思っています。
Xは正文です。人物と作品名は正しくセットで覚えておきましょう。Yは誤文です。日本最初のストライキは、1886年の甲府雨宮製糸のストライキで、天満紡績工場のストライキは1889年です。高島炭鉱の暴動については、ストライキではありませんが、1888年の『日本人』の中に「高島炭鉱の惨状」が発表され反響を呼びました。これは史料でも出る可能性はあるので、確認をしておきましょう。Zは誤文です。これ、よく読まないと正文にする人が多く、正解を③にしてしまう人が多いです。よく読んでください。工場法は1911年に施行された、とあるのです。制定については確かに1911年ですが、施行は1916年です。これは「詳説日本史」などの強化書にははっきりと書いています。ここまで読み取っておきましょう。よって、正解は④になります。

■難問も少なくないが……

東洋大学の三文章正誤問題は保留にするという手段が取れないため、少し苦戦すると思います。ですが、こういう問題でも、まずは明らかな判定ができるところから攻めるのが鉄則です。知識の判定材料の細かさは多少あっても、基本的には教科書の範囲で解決できるものです。ということは、日ごろからの学習の姿勢が問われているのでは、と思います。確かにプリントや塾・予備校などのテキストを活用するのもいいです。それでも最後は教科書の本文をしっかりと読むようにしましょう

中央大学でも落としてはいけない問題については、教科書の範囲内で解答が出るようにつくられているはずです。今回の大問3の問10は周辺知識を入れておかないと引っかかるところもあったので、そういう原因で点数を落としている方は、周辺知識の入れる箇所を意識してください。

正誤問題の作られ方・ひっかけ方は各大学様々あります。しかし、基本的な正誤の作られ方は同じはずです。実戦問題をたくさん解いて、様々な知識のアプローチ法を身に付けておきましょう。

皆様のサポート、よろしくお願いいたします。サポートいただいたものは一般社団法人CAMELの活動費として活用させていただきます。