【大学入試紙面講義】2020年関西学院大・文 大問1

本日は私大の正誤問題を扱います。関西学院大学では恒例の二文章正誤問題です。以前、ただよびで田中結也先生が関西学院大学の正誤問題の解説をされていました。今回は僕なりに関西学院大学の解説を行いたいと思います。今回は10問すべてを行うわけではないですが、何問かピックアップして行おうと思います(下記の動画では今回扱う問5の解説を行っています)。
今回も無料公開です。よろしくお願いいたします。

■関西学院大学の正誤問題の特徴

いつもは問題の概略を話しますが、今回は正誤問題オンリーなのでどのような出題がされるか、を話します。
関西学院大学の二文章正誤問題は、勘では解けません。正しい知識を用いてどう正誤判定をするのか、が大事になります。実戦問題集でいくなら、駿台やZ会の実力問題集で安定した正答率を出すことができれば合格圏にいけると思います。
正誤判定は単純な語句の判定、語句と内容の整合性、語句と時期の整合性、内容と内容の関連性・因果関係、言葉の言い回しなど様々なパターンで巧みに突いてきます。ですが、どの内容も教科書に書かれていること、用語集の内容などには記載されているので、そういう知識が足りない人は、直しのときに意識してください。
2020年でいえば、この形式では甲南大学も出題がされていました(類似形式だと中央大学も出題されています)。ただし、甲南大学は指定された語句に下線が引かれていてその部分の正誤判定を行う問題なので、関西学院大学の正誤問題よりは解きやすいと思います。タイプとしたら中央大学に近い気がします。

■解説

それでは、実際の問題を用いて解説を行いましょう。どの問題も、両方正しいならア、aが正しくbが誤りならイ、aが誤りでbが正しいならウ、両方誤りならエを選びます。

問1
a.5世紀後半になると、新羅や百済が朝鮮半島南部に勢力を伸ばし、従来から大和王権と関係の深かった馬韓諸国も次々と両国に併合されていった。
b.乙巳の変後の斉明朝には、百済復興を支援するため朝鮮半島への出兵が計画されたが、斉明天皇の死去によって中止された。

これ、何気なく読んでいると、アやイにする人が多いと思います。しかし、先ほども言ったように、語句と時期、内容と内容の因果関係など正誤の作られ方の形式を知っておかないととんでもない罠に引っかかります。
aですが、一見すると正しい文にしたいと思いますが、ダメです。正誤判定箇所は馬韓諸国です。馬韓は2世紀の朝鮮南部の小国連合です(つまり、歴史名辞と判定できます)。ここの話は5世紀なので、加耶諸国(任那)に直さないといけません。よって誤文です。bは因果関係の判定です。百済復興支援のために朝鮮出兵は正しいです。問題は斉明天皇の死去で中止、の部分です。斉明天皇の死去は白村江の戦いが終わって新羅や唐が日本に侵攻するかもしれない状況で国内整備を行っている最中なので、出兵自体は行っています。よって、ここは時期ズレで誤りにしないといけません。
よって、正解はエになります。正誤問題でやってはいけないのは、主観を入れることです。bについても主観が入ると途端に正しい判定ができなくなります。

問2
a.律令制下で中央の財源とされた庸・調は、いわば人頭税であり、良民の男女は布や糸などを、年齢に応じて一定量納めることになっていた。
b.三世一身法では、新たに池や水路をつくって田を開いたものは、本人一代に限って墾田の所有が認められていた。

さて、これはいかがでしょうか。aは一見すると正しそうに見えますが、庸・調は男子のみの税です(人頭税に関しては保留にしても問題はない)。よって、男女を男子に直すといいでしょう。bは史料の内容がわかれば容易に解答が出ます。新たに田を開いたものは本人含め三代まで墾田の所有が認められていました。本人一代限りの話は、古い田を利用して開いたときです。ここはしっかりと学習されている方は容易に解答出せたと思います。よって、正解はエです。日本史の知識も必要ですが、正誤判定のときには史料の内容で正誤判定をする問題もあります。よって、入試問題で史料問題が出ていないからといって史料の学習を疎かにすることはできません

問3
a.源経基を祖とする清和源氏は、平将門の乱を平定したことによって東国に勢力を広めた。
b.平正盛は、荘園を院に寄進して白河上皇に接近し、さらに源義親を討った。また正盛の子の忠盛は、瀬戸内海の海賊を追討して西国に勢力を広めた。

これはどうでしょうか。aの源経基が平定したのは平将門の乱ではなく、藤原純友の乱です。実はこの文章はもう一つ誤りがあり、それは東国に勢力を広めた、です。これは源頼信が平定した平忠常の乱です。これを機に東国に勢力を広めたので、誤りです。ちなみに、平将門の乱を平定したのは平貞盛・藤原秀郷です。bは、前半部分は正文です。後半部分ですが、ここの学習が追い付いていない人は誤文にしたがると思いますが、これは正文です。よって、正解はウです。
実際の入試問題では明らかな誤りを見つけた時点で判定すればいいのですが、演習問題や過去問演習で行うときには、全てを正文に直すトレーニングをしておきましょう。

問6
a.徳川綱吉は8代将軍に就任すると柳沢吉保を大老に任じ、後に天和の治とよばれる諸政策を推し進めた。
b.徳川綱吉の死後、将軍家宣・家継の治世では、側用人となった新井白石が、後に正徳の治と呼ばれる政治を推し進めた。

この問題も主観を入れたら大変なことになります。aはすぐに誤文とわかります。まず、綱吉は5代将軍です。さらに柳沢吉保は側用人です。この二点をもって誤りと判定します。もう一つ正文に直すなら、大老は堀田正俊です。bですが、何も考えずに正文にした人が多いと思いますが、ダメですよ。一見すると新井白石の政治を説明した文ですが、ダメな部分は側用人です。この時期の側用人は間部詮房です。新井白石は側用人になっていません。よって、ここが誤文となります。正解はエになります。きちんと日本史の知識をもって正誤判定を行ってください。

問8
a.安政の五か国条約で制定された輸入税率は、後に改税約書によって大きく引き下げられた。
b.坂下門外の変の後、幕府は薩摩藩主の進言を受け入れて、様々な改革を行った。参勤交代制を廃止したことは、その代表的事例である。

これも主観が入ると判定ができなくなります。aは1866年に成立して、税率が決められました。よって、これは正文です。bですが、これも何気なく読むと正誤判定が困難になります。この改革は文久の改革で薩摩藩の島津久光が推し進めた政策です。問題は参勤交代制の廃止ですが、これは領土の滞在を3年にし、妻子を領土に戻す政策です。よって、廃止は言いすぎのため、誤文です。よって、正解はイとなります。

■関西学院大学の正誤問題の正答率は?

関西学院大学の入試問題は正答率を示しているそうです。そちらで確認いただけると幸いです。
関西学院大学の合格最低点で340点台から380点と学部によって上下差が大きいです。3科目で6割弱から7割の正答率が求められます。ここから日本史は最低でも8割強は欲しいところです。ということは、最初のこの問題の出来次第で合否が分かれてしまう恐れがあります。そのため、正しい正誤判定のやり方を使えるようにしなければなりません。
上記の動画では正答率が30%を下回る問題を紹介していますが、関西学院大学の正誤問題は正しく読み取ることができること、主観を入れないことなどを気を付けて解いてください。

■正誤問題の出題パターンを知る

共通テストでもそうですが、各大学の正誤問題の出題のされ方を正確につかんでください。単純正誤問題なのか、このような二文章正誤(三文章も含む)なのか、共通テスト形式のような正誤組合せ問題なのか、正誤の判定法はどの問題でも同じですが、それぞれのテストによって、どこまで正誤判定を求められているか、を知らないといけません。
正誤問題については、高校入試でも出ますが、ここまで厳しい正誤問題は難関私立を除くと出てきません。まず、正誤問題に慣れていない人は高校の公立入試レベルでいいので、正誤判定のしかたに慣れておきましょう
もう一つ使えるのが、歴史能力検定の2級・1級の正誤問題です。難関私立に関していうなら、このレベルの問題が確実に正解出せるのであれば正答率は上がるはずです。

僕は、正誤問題については高校入試から意識をしています。その形式やアプローチ法を駆使して少しでも正答率が上がるように情報を提供しています。正誤問題で正答率が上がっていない人、この冬場で一気に正答率を上げるチャンスです。この最後の一押しでライバルに差をつけてください。

皆様のサポート、よろしくお願いいたします。