傘連判状 教科書の記述
本日もよろしくお願いいたします。
本日は、先日東京出張の時にお会いしました野島博之先生より宿題をいただいたので、それについてまとめていきたいと思います。
今回は久々に教科書の記述シリーズで第三弾の傘連判状(教科書などによっては車連判状ともいう)の教科書記述をまとめていきたいと思います。
入試問題を使用する際は各都道府県教育委員会様より使用許諾をいただいているうえで使用させていただいています。
最後までお付き合いよろしくお願いいたします。
■傘連判状 本来の内容とは?
一般的に言われている傘連判状では、「首謀者が誰であるかがわからないようにするため」という記述がありますが、これについては誤りではないのか、と言われています。え?そんなわけないのでは?と言われる方がいますが、2008年の東京大学の問題でそのような問題が出題されたそうです。
野島先生からいただいた解説によると、以下のことを記述されています。
この解説、当時の東大の問題からも「首謀者が誰かわからないようにする」ということを説明していません。
しかし、山川の用語集にはこのように書いています。
山川の用語集でもこのように記述されています。となると、上記の東京大学の問題の解説とは異なることになるのでは、と思います。ここでは百姓一揆に関してはこの可能性があることを述べています。
野島先生から、今回このような宿題をいただき、中学校の教科書解析を行いたいと思います。
■中学校検定教科書解析
それでは、中学校教科書ではどのように記述されているのか、さっそく解析していきたいと思います。
①東京書籍の記述
まずは東京書籍の記述から見ていきましょう。
こちらではからかさ連判状については写真で説明がありましたが、従来言われていた記述で説明していました。
②教育出版の記述
続いて、教育出版の記述を見ていきたいと思います。
こちらについては理由を書いているわけではないですが、問いかけはしています。こちらはガイドなどには解答があると思います。ですが、僕はガイドまでは手元にありませんので、こちらについては、持ち合わせている方にお聞きしたいと思います。もしくは出張などでまとめられたら記述したいと思います。
③帝国書院の記述
続いて、帝国書院の記述を見ていきたいと思います。
帝国ではこのように記述されています。ここでは首謀者が誰かわからないようにする、という記述がされていません。ただ、曲解して教えている可能性はあると思います。
④山川出版社の記述
山川出版社の記述ですが、実は掲載がありません。百姓一揆については記述はありますが、傘連判状については写真もありませんでした。
気になる記述としては、百姓一揆は中世からあったというものは斬新だと思いました。
⑤日本文教出版の記述
それでは、日本文教出版の記述を見ていきましょう。
こちらも百姓一揆から説明をしていますが、資料活用の問題で使っているだけで、本文には解答はありませんでした。こちらもガイドなどでチェックできたら、と思っています。
⑥育鵬社の記述
続いて、育鵬社の記述を見ていきましょう。
こちらですが、資料の説明部分のみを示しています。参加者が対等であること、については帝国の記述と同様ですが、指導者を分かりにくくするため、という記述はしていました。
⑦自由社の記述
こちらについては、百姓一揆の説明はあるものの、傘連判状についての写真はありませんでした。
代わりに、百姓一揆は暴動の形をとることはめったにない、という記述が目に移りました。その理由としては、幕府の不誠実に対する抗議だった、ということを田中圭一氏の文献を参考にされていました。
⑧学び舎の記述
こちらも百姓一揆の内容を掘り下げて説明していました。また、傘連判状についての写真はあったものの、解説はありませんでした。
番外編 令和書籍の記述
こちらについても百姓一揆の説明はあるものの、傘連判状についてはありませんでした。
これらに共通して言えることは、本文には記述はないものの、写真で掲載しているところ、掲載していないところの差がありますが、従来から言われている「首謀者が誰かわからないようにするため」という記述をしているのも半々だった、ということがわかりました。
探究として問いを出している教科書もありました。
■日本史教科書解析
中学社会の検定教科書についてだけでは結論が出ません。そのため、日本史教科書の記述を確認する必要があります。現在手持ちの新課程教科書を中心に解析したいと思います。
➀詳説日本史(山川出版社)の記述
百姓一揆の説明はあるものの、傘連判状の写真はありませんでした。
②日本史探究(実教出版)の記述
旧課程の教科書では写真があり、「首謀者を不明確にし、また団結の意味をこめてつくられた」とあります。しかし、新課程の教科書には記載はありませんでした。
③清水書院の記述
清水書院では傘連判状の記述はなかったものの、中世の一揆について興味深い記述がありました。
④第一学習社の記述
こちらも傘連判状の写真はありませんでしたが、起請文に関する記述がまとまっていました。
ほかにも東京書籍の記述などもありますが、大体こんなところでしょう。
■結局、入試ではどうなの?
ここからもわかるように、ほとんどの教科書でも傘連判状では「首謀者が誰かわからないようにする」という記述をしているものが多かったです。
しかし、角川の日本史辞典では「首謀者を隠す効果がある」とあるだけで、目的とは記述していません(ただし、この辞典の発行が1996年ごろなので説が変わっている可能性はある)。用語集でも「百姓一揆の時には首謀者を隠すこともある」とあるので、必ずしも首謀者を隠すことを目的としているわけではないと思います。
東大の問題ではそのことを記述していない問題を出しています。これについては指導の際には気を付けないといけないのですが……
あまり使いたくはなかったのですが、Wikipediaでも「署名者が互いに平等な立場で契約を守ることを明確に表す」とあるので、首謀者を隠す意図はないとわかります。
ということは、このことからも考えると、近世の傘連判状の記述については、教科書記述は大きく変わることはないと思いますが、平等な立場であることを記述してくる可能性はあると思います。
ただ、完全に否定できている論拠があるわけではないので、良い結論が見出せませんでした。もし、中世の傘連判状が中学社会でも記述があれば話は変わるかもしれませんが、現状では公立高校入試で傘連判状の短文記述問題で出題されても解答例はあまり変わらない気がします。大学入試についてはその記述を使うことは東大の入試を鑑みると難しいと思います。
もし、上記の内容などで不備がございましたらご指摘いただけると幸いです。少なくとも教科書記述に基づくとこのような回答となってる、ということです。
今回、教科書解析だけでは十分な回答が出たとは思っていません。
これについては、今後の教科書解析を踏まえて強化していきたいと思います。
何か良い記述などございましたら、よろしくお願いいたします。
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