歴史総合サンプル問題を見て

本日もよろしくお願いいたします。昨日、令和7年度以降からの新学習指導要領に即した共通テスト問題のサンプルが大学入試センターより公開されました。

今回公開された問題は、歴史総合・地理総合・公共・情報の4科目です(情報については一部修正が入っています)。そんな中、僕の専門領域である歴史総合について話していきたいと思います。今後は地理総合・公共についても話ができたら、と思っています。
皆さまが知りたい内容のため、無料公開で行いたいと思います。よろしくお願いいたします。

■社会の入試はどうなる?

まずはここから話しましょう。今までの共通テストの社会はどのようになっていたか、を話します。

令和6年までの共通テスト社会
➀地理歴史から1科目:地理A、地理B、日本史A、日本史B、世界史A、世界史B
②公民から1科目:現代社会、倫理、政治経済、倫理・政治経済

文系については➀と②からそれぞれ一つを選択し、理系は➀もしくは②から1科目を選択するという形でした。
それが令和7年度以降からは以下のようになります(大学入試センターの「平成30年度告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入試共通テストからの出題教科・科目について」を参照)。

令和7年からの共通テスト社会
➀地理歴史
地理総合・地理探求、歴史総合・日本史探求、歴史総合・世界史探求
②公民
公共・倫理、公共・政治経済
③社会総合
地理総合・歴史総合・公共

選択方法としては、必修科目となっている総合系から2科目を選択して、上記6科目から最大2科目を選択することになります。ただし、②についてはどちらか一方しか使えません。他にも使えないケースとしては、③を選択した場合、そこで選んだ2科目を選択することになります。その後、その選んだ2科目の入っている総合問題を含む選択科目は選択できません。
例として、③を選んだ場合で地理総合と歴史総合を選んだとしましょう。そうすると、もう1科目解く場合、公共・倫理、公共・政治経済のいずれかしか選択ができない、ということです。
ただし、③を選ばなかった場合は➀、②から最大2科目を選択することになります。そして、歴史総合・日本史探求、歴史総合・世界史探求といったトリッキーな選択も選択可能となります(もし、この内容が間違っていたらご指摘お願いいたします)。

組合せの必須などについては各大学によって異なりますので、その時の情報をしっかりとつかんでおきましょう。
そして、令和7年度から倫理と政治・経済は同時に出題することはなくなります

■歴史総合サンプル問題 大問1

早速サンプル問題をもとに考察を行っていきたいと思います。なお、問題と解答などは上記サイトを参照ください(なお、問題などの使用許諾は大学入試センター様よりいただいてます)。

大問1は、東西冷戦をテーマとした資料を用いた問題です。
問1は資料1を参照にして写真の解説に適するものを入れる問題で、その時のヨーロッパの情勢の正しい組み合わせを選ぶ問題です。
冷戦の周辺知識が入っているなら、地図については容易に判定できます。亡命を受け入れた側に政治や思想・表現の自由がある、というところからこの話は西側陣営のことと判定できます。
問2は自由に関する4つの史料と選択肢を判別する問題です。それぞれが何のことを言っているのかが分かれば判定はできます。資料4は奴隷の子孫がポイントです。よって、人種差別ではないか、と類推できます。資料5は書き出しの「元始、女性は太陽であった」より「青鞜」の一節であることがわかります。つまり、女性差別の解放を訴えたのでは、と類推できます。資料6は1789年とフランス人民より、フランス人権宣言とわかります。これは絶対王政からの独立を意味するので、支配者からの独立では、と類推できます。資料7は4億人のインド人より、ガンディーの演説になり、イギリスからの植民地支配の独立では、と類推できます。これらより、選択肢を吟味すれば、明らかな誤りが見つかると思います。ここでの注意点が選択肢の順番と該当する史料の順番は合致していないことに気を付けてください
問3は資料2の公職排除の話にある空欄に入る語句と背景として合致しないできごとを組合わせる問題です。資料2の内容は共産主義者の公職追放の話です。よって、空欄に入る語句は判定できます。そして、背景として不適なものですが、世界史をしていない人にとってはAはわからないと思いますが、残りの選択肢はキチンと判定できます。コミンフォルムは共産党情報局のことです。結成年は1947年です。Bは1949年のできごとです。Cは1965年のできごとで資料2の時期と明らかななズレがあり誤りです。Dは冷戦期のソ連の話です。このように時期ズレの選択肢は歴史総合でも出てくるとなれば、正しい歴史の流れ・認識は歴史総合でも必要になると思います
問4は資料3をもとに追及してメモの空欄を埋める問題です。ウのポイントはアメリカ合衆国が北爆によって本格的な軍事介入、です。ここから1965年に始まったベトナム戦争と判定できます。エの空欄はベトナム戦争のときに関係のある内容が入ると思うので、X(沖縄返還の話)が入ります。YのPKO協力法は1992年なので、時期が明らかに合いません。もし、内容が湾岸戦争の内容だったらYが当てはまります。
問5はGDPのグラフを表しますが、ソ連と日本のグラフはすぐに判別ができます。アメリカに接近しているグラフは日本なので、Ⅳは日本です。この時点で選択肢は②か③に絞れます。②の天安門事件は中国の説明のため誤文です。よって、正解は③となります。➀・④は文章については正文ですが、Ⅲ・Ⅳに当てはまる国名が違うため誤文になります。

この問題を見た感想としては、そこまでの難度ではないと思いましたが、中学内容の知識をベースに考えても解答は出せる、と思いました(この詳しい話は後述で)。

■歴史総合サンプル問題 大問2

大問2のAは憲法についての話し合いです(このことを知っておくことで、後の問6につながります)。


問1は資料およびカード1の空欄に入る語句を選ぶ問題です。正直オスマン帝国の国王の名称が分からなくても問題ありません。正直空欄のイ・ウが分かれば解答は出せます。ロンドン国際会議の話は統帥権干犯問題がおこることが分かれば、統帥権に関する条文が11条とあるため、これだけで④か⑤に絞れます。イを見ると、➀・②は日本国憲法、③・④は日米修好通商条約の説明とわかれば、必然と解答は⑤となります。つまり、アに入るのはスルタンと判定できます。スルタンを知らなくても解答は出せます。なお、もう一つのツァーリはロシア皇帝のことを指します。
問2は背景知識が入ればそこまでの問題ではありません。エは後半の「欧米型の政治体制」、オはオスマン帝国、カは公議政体の考え方、でそれぞれ判定しましょう。恐らくカが一番入りやすいのでは、と思います。この話が五箇条の御誓文とわかるなら、万機公論の意味が入ると分かればいいでしょう。よって、➀か③に絞れます。また、オのオスマン帝国はイスラーム系の王朝とわかるなら、イスラームの話のある➀と④が入ります。この時点で共通する選択肢が➀しかないため、これが正解となります。
問3は清の欽定憲法大綱と大日本帝国憲法の共通点、オスマン憲法との相違点を調べまとめたものです。
正直に言います。清のこの時期の欧米列強との関係性がわかるなら、選択肢である程度絞れます。➀は保留です。もし、世界史をやっている人は文化大革命で誤文と分かると思います。なぜなら、文化大革命は1966年から起こったできごとだからです。②も太平天国の乱が1851年なので、これも時期的に当てはまりません。③は伊藤博文が清に訪れて調査した憲法とは関係がありません。ヨーロッパに渡り、ドイツの憲法を参考にしたことが分かれば十分です。④は1904年なので、時期的に近いと判断できます。

B 今度は近代教育制度に関する問題です。
問4の資料は1807年に発表されたことがまず分かればいいです。資料5も1887年に提案されたものとわかれば、事例に関する話はどちらも判定ができます。その上で資料を読むと、国民に教育を行き渡らせることという内容が読み取れるはずです。
問5は学制が公布されてからの就学率の変化に関する問題です。この問題については僕は少し突っ込みをしたいです。なぜなら選択肢のつくり方がよくないからです。もし、このタイプの問題を行うなら、④は全員のパネルは誤り、と選択肢をした方がいいと思います。リンさんの内容は、欧米の多くの国で女性に選挙権が、は第一次世界大戦後の話です。総力戦で戦った第一次世界大戦で女性の活躍もあったため、女性の参政権運動も起こったとされています。一条さんのパネルは政府が女性への教育は不要、が誤文です。これは学制の史料を確認すれば一目瞭然です。早瀬さんのパネルは正文です。
問6はまとめの問題です。主題については、国家の話と判定するのは容易だと思います。しかし、さらに追及するための資料についてはⅰとⅱで迷うと思います。国家の関係がより強いのはⅱなので、それで判定すればいいでしょう。

■中学内容の学習

今回のサンプル問題として見た限りでいうなら、歴史総合は中学内容の学習をベースにしても対応できる、と思いました。ただし、18世紀以降の世界史もしっかりと学習する必要はあります。日本史と世界史の関係性を重視して学習していけばいいと思います。そして、今までの「社会は暗記すれば何とかなる」、という考えはあまり通用しないのでは、と思います。

そもそも、暗記って何を暗記するのか、が明確でなければ間違った学習をしてしまうことになります。語句の暗記が暗記ではありません。語句と内容、時期の関係知識や周辺知識、そして、背景知識などの3つの知識を活用しなければなりません。

間違った学習法・指導法が横行しているため、高校入試での社会の正答率が上がらないのです。合格させればそれでいい、という間違った思考を持つ指導者もいます。これからは合格させたその先の指導も大事になってきます。が、そのことを知らない人が多いのは残念です。見た感じでは中高接続を意識したテストにもなっている気がしています。

僕は何の論拠もなくこのことを言っているわけではありません。紙面講義を行って正答率を公開されているものを確認し、そのときの正答率、平均点などのデータに基づいて見ると、正答率の極端に低いものがここ数年では歴史(しかも近現代)とわかるのです。
ですが、これからは地理総合・歴史総合・公共の科目を学習するには、中学内容の学習も必要となると思います。従来の暗記で済ませるような指導ではなく、内容の理解を行うような指導を行わないといけないと思います。これは指導者だけでなく、学習者自身も安易に考えないようにしましょう(僕は新学習指導要領が出る前から、このような3つの知識を重視する学習の大事さを伝えてきましたが、ほとんどの人はそのことを理解しなかったようです)。
そのために、教科書や参考書などをしっかりと読みこんでほしいと思います。ですが、これらのトレーニングは小学生のうちに身に付けておかないといけないと思います

それ以上に国語の学習は必要となります。内容を読み取れなければ問題は解けないです。

■問題の課題

今回はサンプル問題を中心に解説をしましたが、気になるのは今後の難易度、問題の内容などです。
僕はもう少し日本史と世界史の関係性を強化するような問題が出るのでは、と思っています。なぜなら、この問題は教科書検定の合格などの話がまだまとまっていない状態だからです。次年度の教科書の展示は早くて6月です。今は検定教科書の最終段階であるからです(検定教科書を閲覧できるようになったら近くの教科書センターで見ようと思っています)。
気になっているのは、歴史総合の教科書はいくつ出てくるのか?探求の内容はどうなるのか、が気になります
難易度については、現状はそこまでの難問は作らないのでは、と思います。世界史の資料もチェックが必要になるので、指導者は様々な資料は確認が必要になると思います。歴史総合の史料は現代語で書かれているため内容の理解が必要になります。これは共通テストでも変わらないと思います。

今後の問題については、教科書が出てから新たな出題形式が出るのでは、と思うので、それが出たらまた報告したいと思います。

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