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短編【今日はクリスマス・イブ】小説

「カナちゃん。いつまでベランダにいるの?風邪ひいちゃうから、早くお家に入りなさい」
「だって、サンタさんが心配なんだもん」
「大丈夫よ。心配しなくても、サンタさんはちゃんと来ますよ。だって、カナちゃんはとっても良い子なんだから」

今日はクリスマス・イブ。あと、ふた月で七歳になる娘、カナコがベランダから夜空を見ている。サンタクロースを待っているのだ。こういう時のカナコは本当に可愛い。こういう時というのは、つまり、子供っぽいことをしている時だ。

「お母さん!サンタさんはお空からやってくるんでしょ?」
「そうよ。サンタさんは9頭のトナカイさんが引っ張るソリに乗ってお空からやってくるのよ」
「ルドルフにダッシャー、ダンサー、ブランサー、ヴィクセン、それにコメットにキューピッド、それから、えーと。ドナー!最後にブリッツェンの9頭のトナカイさんでしょ?」
「そうよカナちゃん。トナカイさんのお名前、全部言えるんだ?凄いね」
「ちゃんと許可を取ったのなかなぁ」
「許可?」
「日本政府の許可を、サンタさんはちゃんと取ったのかなぁ」
「政府の許可?」
「だって、許可なくお空から日本に近づいたら領空侵犯と判断されるんだよ」
「りょ…領空…し…しんぱ……ん?ん?何?」
「りょうくうしんぱん!国際法で決められた日本が所有しているお空の領域に勝手に入って来る事!もう!お母さんはそんな事も知らないの?海岸線から12海里のエリアと大気圏までの空間を、日本政府の許可無く進入した場合、自衛隊法第84条に基づき海上自衛隊のイージス艦や陸上自衛隊の対空ミサイル部隊が出動して警告射撃を実施するの!」
「カナちゃん、なにを言っているの?」
「もちろん、スグには射撃はしないよ。先ずは無線で警告するの。『貴機は日本領空に接近しつつある。速やかに進路を変更せよ』って警告するの。あ!ちょっと持って!サンタさんって無線使えるのかな?無線の免許持ってるのかな?もし無免許なのに無線つかっちゃったら今度は電波法に引っ掛ちゃう!ねぇ!お母さん!サンタさんは無線の免許もってるの!日本政府に許可は取ってるの!ねぇ!ねぇ!ねぇ!」
「知りません!」
「どうして知らないの!お母さんは何にも知らない!領空侵犯の事も電波法の事も、お母さんは何にも知らない!お父さんだったら教えてくれるよ!お父さんは何でも知ってるもん!」
「お、お母さんだって何でも知ってます!」
「じゃあ、太陽の温度は何度なの?」
「カナちゃん。太陽の温度は約6000度よ」
「それじゃあ、どうして太陽は、そんなに熱いのに近づくと寒くなるの?高いお山に登れば登るほど、太陽に近づけば近づくほど寒くなるのはどうして?」
「それは…それはっ!地面から離れるからよ。地球は太陽の熱を吸収して暖かくなるの。だから地面から離れれば離れるほど、太陽に近づけば近づくほど寒くなるの」
「お山も地面だよ」
「え?」
「お山も地面だよ、お母さん!どうしてお山は暖かく成らないの?高くなればなる程、寒くなっちゃうの!?お空の上に行けば行くほど寒く成るのはどうして?大気圏を超えると絶対零度に近づくのはどうして?宇宙の温度がマイナス270.42度なのはどうして?太陽が6000度も有るんだったら宇宙は暖かい筈でしょ?」
「そ、それは宇宙には空気がないからよ!熱は空気を伝わるから!宇宙は真空状態だから熱くならないの!」
「じゃあ、どうやって太陽の熱は地球に伝わったの!宇宙は真空状態で!真空状態は熱を伝えないのに!太陽の熱はどうやって地球まで届くの?」
「知りません!」
「ほら!やっぱり知らない!お母さんは何にも知らない!太陽の熱エネルギーが地球に届いてるんじゃないんだよ!電磁波が地球に届いて、その電磁波が地球の分子を振動させて、それが熱エネルギーになって」
「カナちゃん!!!…じゃあ、お母さんが知っている事をお話します」
「なに?」
「サンタさんはいません!!」
「それを言っちゃダーーーーメーーーー!!!」

⇩⇩別の視点の物語⇩⇩

タイムマシンがあったなら

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