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短編【節約と倹約の果てに】小説


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節約とは無駄を省いて切り詰める事をいい、倹約とはお金や物を遣わない様に努める事を言う。ならば、無駄を省いて切り詰めつつお金を遣わない様にする事を何て言うかご存知だろうか。…それは、ドケチと言う!

私の妻がまさにドケチなのだ!妻は昔からドケチだった訳ではない。結婚当初は、それはそれは可愛い女だった。私の財布の中身をチェックして小遣いが足りなければソッと入れ足していたりもしていたのだ。

そんな可愛い妻が変わってしまったのは二人の間に子供が出来てからだ。子供はとにかく金がかかる。ミルク代にオムツ代、どんどん成長するから洋服だって買い換えて行かねば成らない。その為に妻は節約をし始めた。

節約…つまり、生活の無駄を省いて少しずつ切り詰めて行ったのだ。私自身の給料が少ないと言うのが原因なのだから、それはいい。可愛い子供の為だ。1日10本は吸っていたタバコを5本までに減らし、高校時代のバンド仲間との飲み会も控えるようにした。2人目が出来た頃には節約家だった妻は倹約家になった。

そして倹約…つまり出来るだけお金を遣わない様もになったのだ。そのせいで私はタバコも止め、高校時代から趣味で集めていた洋楽のCDを買うことも止めた。そして三人目の子供を宿した妻は、無駄を省いて生活を切り詰めつつお金を遣わないというドケチになったのだ!

「あなた!昼間なんだから一々電気をつけてトイレに入らないで下さい!窓明かりでも十分でしょ!あなた!車の中でパン食べたでしょ!食べカスが落ちてたわよ!どうせ家でも御飯食べるんだから買い食いはしないで下さい!あなた!」

毎回こんな調子でイヤになる。そんなある日、仕事帰りに気晴らしで寄った楽器店でトンでもない物を観てしまった!

「お、久し振りですね。最近お店に来ないから心配してたんですよ。病気でもしてたんですか?」
「そんな事よりも店長!これ!このギター!」
「あ、見ちゃいました?流石に目ざといですね、このギターは」
「ギブソン・マローダーだよね!」
「そのとおり。しかも1975年製造」
「おうう!初期のマローダー?売りもん?」
「勿論」
「値段は?」
「十万」
「だよなー」
「でも、常連さんだから四万でいいよ」
「買った!」

思わず私はそう言ってしまった。そう言ってしまったのだ。しかし、今の私に取っては四万は大金だ。ドケチの妻が金を出すはずはない。楽器店を出て家に着くまでの間、あれこれ考えながら歩く私の心の中によこしまな魂胆が芽生えてしまった。

確か、寝室のタンスの一番上の引き出しの中に、生活費として幾らか通帳から引き出してた現金があったはずだ。取り敢えずそこから四万円を借りよう。つべこべ言ってきたら、言いたくはないがこう言おう。誰が稼いできた金だ!と。

そう考えをまとめて家の玄関まで着いた時、不意に妻が家から出てきた。

「あら、お帰りなさい」
「お!おおおおぅ」
「どうしたのよ、そんなに驚いて」
「い、い、いま帰って来んだよ。おかえりなさい」
「私これからスーパーに言って買い物してきます。ちょうどタイムサービスが始まるから。あ、夕飯は作って有るから。じゃ、行ってきます!」

そう言うと妻は自転車に跨り、隣町のスーパーまで買い物に出かけた。お金を取るなら今しかない!子供たちはリビングでテレビを見ている。私は寝室のタンスを開けて、生活費が入っている封筒を取り出した。中には二万円しか入っていなかった。給料日から十日も経っていないのに二万しか残っていない。

たった二万円しか残っていない。

その時、私は我に返った。何をしているんだ!妻はタイムサービスを狙って、少しでも安い買い物をする為に、わざわざ隣町まで自転車を走らせていると言うのに!

私は、自分の財布から五千円札を抜き出すと、生活費が入っている封筒の中に足し加えた。




2


急げ急げー!私が前から欲しかった『日野ひの日出志ひでし ひばり書房版初版本全集』が駅前の古本屋で四万円で売ってる。そんな情報が友人からのメールで届いた。急げ急げーーー!!

それにしても、ウチの旦那、出会い頭にそうとう狼狽えていたな。あれは、何かを隠している。後で聞き出してやろう。私はそういう瞬間は見逃さない。

そんな事より急げ急げー!

⇩⇩別の視点の物語⇩⇩

ゲソ・デ・アゲテール

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