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2022年4月の記事一覧
短編【愛無き愛児】小説
暗過ぎず明る過ぎず、ちょうどよい上品な照明が灯るそのバーラウンジには、大き過ぎず小さ過ぎず会話の邪魔をしない耳触りの良いジャズが流れている。ジャスのナンバーはバート・バカラックのアルフィー。甘く切ないメロディが大人の夜を演出する。
「ごめんなさい。少し遅れちゃた」
「いや、そんなに待ってないよ。珍しいな君が遅れるなんて。いつも僕より先にいるのに」
いつもなら約束の時間の三十分前には広瀬由花はバ
短編【パリの痴話喧嘩】小説
その部屋からはパリの市内が一望できる。ホテルの最上階から絵画のような夜景を堪能できるのは、ごく限られた人間だけだ。地上に煌めく銀河のようなパリの夜景は、時間と共に変化する芸術作品のように人々を魅了する。
しかし、その芸術的な夜景に目もくれず狭山陽子はスイートルームに入ってくるやいなや本革で作られたソファに不機嫌に座った。その後から申し訳なさそうに狭山淳が入ってくる。
「あの…」
陽子は赤いハ