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4大監査法人(Big4)比較_業種別監査報酬額を分析してみた


1.監査クライアントという観点から見る

どの法人がどの業種に強いのか、定量的に見てみたいと思い、IRバンク記載されている監査クライアント一覧と業務報酬額をもとに分析?をしてみた。

監査法人を選ぶ際(入社する or 業務を依頼する)、どの法人がどの業界に強いのか、知見をもっているのか、という観点は重要だと思っているものの、定量的にそれを記載している記事が見当たらなかったので調べてみようと思ったのが発端。

特にこれから監査法人に入る方、入社後はその監査法人が持っているクライアント先にアサインされて、業務を習得していくことになる。自分が入る監査法人が、自分の経験したい業種のクライアントをどの程度持っているのか、確認しておいた方がよい。わかりやすい例で行くと、メガバンの監査がしたい!と思っている人、あらた監査法人を選んでしまうと絶対経験できない、みたいな(メガバン3つの監査は、新日本、トーマツ、あずさ)
これは極端な例

2. 4大監査法人の業務収入推移

一応全体的な話から。
2013年度から2022年度までの監査法人の業務収入(売上高)の推移が以下

*直近2023年5月期、2023年6月期を2022年度と表記している

4大監査法人業務収入推移

・直近2022年度では、トーマツが業務収入1位、ついであずさ、新日本、あらた
・2016年あたりまでは新日本が1位、2017年以降はトーマツが1位
・基本的にどの監査法人も売上は増加傾向、成長率という観点ではトーマツとあらたが高い、といった傾向が読み取れる。
・3大+あらた、とも言われるように、やっぱりあらたは他3法人と比べて売上規模が小さい 

監査法人の中で一番規模が大きいのは新日本、というイメージだったが、年度別に並べると最近ではトーマツが一番大きい様子。
注) 2016年度トーマツが落ち込んでいるように見えるのは、決算期変更で8か月分になっているため。

2013年度から2022年度までの監査報酬と非監査報酬が以下

監査報酬、非監査報酬推移

・業務収入の内訳をみると、監査報酬についてはどの監査法人も微増レベル
監査報酬だけ見ると、新日本が依然1位
2017年度あたりからのトーマツの成長率の高さは、非監査業務が伸びたことが主な要因にみえる
・あらたに関しては直近年度はもはや監査報酬よりも非監査報酬のほうが多い(監査報酬297億円、非監査報酬312億円)
・新日本、トーマツ、あずさについては、やはり監査報酬が売上の大部分を占める(監査法人だから当たり前だけど)

3.監査クライアント別の監査報酬額

これから記載する内容は、
4大監査法人が
どんな業種
どんな監査クライアントが居て、
監査報酬額がいくら程度なのか、という話

1億円以上の監査報酬額の監査クライアントツリーマップ

元のデータは、IRバンクに記載されている、2022年の各監査法人の監査クライアント一覧と監査報酬額。
正直データの正確性・網羅性みたいな部分は見ていない。

記事執筆時点(23年11月19日時点)でIRバンクに記載されている最新情報を使用。
監査法人変更などで、最新のものとは異なる可能性がある。継続することが殆どだとは思うので影響は少ないと思うが、個社レベルで見ると違う所があるはず。あくまで2022年時点での情報という前提で見てもらえると助かります。

IRバンクに記載されていたデータの全体感は以下

クライアント別の監査報酬額を全て合計すると、その法人の監査報酬額とそこそこ近いので、データとしては使えるものだろうという判断をした。
新日本、トーマツ、あずさは、だいたい800億円程度の監査報酬額。
本分析では、売上の大部分を占める監査報酬額が1億円を超える監査クライアントに絞って分析をしてみた。

ちなみに、
1社あたり平均監査報酬額は1億円程度、中央値で見ると50千万円程度
下の分布を見てもわかる通り、社数としてのボリュームゾーンは3~4千万円程度の監査報酬の監査クライアントが多い。
額ベースでみると1億円以上のクライアントが売上の半分以上を占める、という構造。どの会社でもよく見る構造。

ちなみに、公認会計士協会が出している監査実施状況調査(2021年度)によれば、金商法監査(連結あり)の監査報酬の平均は54百万円程度
監査報酬が1億円を超えるのは、売上高の規模でいうと5千億円以上~、くらいの規模感のよう。

監査実施状況調査(2021年度)

4.業種別の監査クライアント数

業種別のクライアント数は以下

クライアント数ベースで見ると、各法人の得意領域は
・新日本:金融・保険、自動車機械、不動産建設、物流インフラ
・トーマツ:卸売小売外食、金融保険、自動車機械
・あずさ:医療化学、金融保険、自動車機械、素材エネルギー、物流インフラ
・あらた:自動車機械

業種別の監査報酬額(合計)は以下

額で見ても、結論に変わりはないが、金融の大きさが目立つ(あらたを除く)、メガバンの監査をそれぞれが担っているのが主な要因。
新日本はみずほ、トーマツは三菱UFJ、あずさは三井住友。
どの法人も大差が無い領域もあれば明確に得意とする領域もある様子。

以下、業種別のツリーマップの後に、監査法人別のツリーマップを見ていく。

5.業種別ツリーマップ

黄色が新日本、赤がトーマツ、青があずさ、オレンジがあらた、

医療・化学

医療・化学分野

医療・化学分野、あずさが圧倒的
この分野は武田薬品工業の監査報酬額が23億円と非常に大きい
医薬品大手の武田薬品工業、中外製薬、第一三共、大塚HDはあずさ、アステラス製薬は新日本、エーザイはトーマツ、といった感じか。

卸売・小売・外食

ここはトーマツが圧倒的、主な要因は5大総合商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅)のうち、3社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事)をトーマツが抱えているから。商社に強いトーマツ。

金融・保険

金融・保険

金融は、やはりメガバンからの監査報酬が大きい。あらた以外はどこもそれなりに案件があるという状況に見える。

自動車・機械・部品・エレクトロニクス

自動車・部品・機械

この分野はあずさが一番強いが、あらたも規模の小ささを考えるとこの分野にかなり注力しているように見える。
あらたは、ソニー、トヨタ、東芝の3社(全て18億円超のビッグクライアント)に偏りがある

情報・通信

情報通信

情報通信分野は、トーマツとあずさが強い。
トーマツはソフトバンクを抱えている点、あずさはNTTを抱えている点が特徴か。

食品・アグリ、生活・サービス

あらた以外は、みな同程度の水準感、大きな差異は無し

素材・エネルギー

この分野は、あずさ、新日本が強い。

不動産・建設・レジデンス

この分野は圧倒的に新日本
有名な不動産会社や建設会社がほとんど新日本というかなり特殊な業界

物流・インフラ

あらた以外は、みな同じ程度の水準感でしょうか。

6.まとめ

  • 4大監査法人、直近の業務収入1位はトーマツ、数年前までは新日本が1位だった。

  • 監査報酬で見ると1位は新日本、トーマツは非監査報酬の成長率が高い

  • 1社あたり監査報酬は金商法(連結あり)の平均は5千万円程度

  • 監査報酬が1億円を超えるのは、売上規模5千億円以上程度

  • 1億円以上の監査報酬を払っている監査クライアントを業種別に分析した。

  • 医療化学:あずさ強い、武田薬品、中外製薬、第一三協、大塚HD等、

  • 卸売・小売・外食:トーマツ強い、5大商社のうち3つがトーマツ

  • 金融・保険:あらた以外はどこも収入大きい、メガバン3つが新日本あずさトーマツそれぞれの監査クライアント

  • 自動車機械:あずさ、あらた強い、あらたはソニー、トヨタ、東芝の3社が大きい

  • 不動産・建設:新日本強い

  • 他:どこも同程度、あらたは規模が小さいので弱くなりがち。

おまけで、各監査法人のツリーマップも添付しておきます。
何か気付いたことがあれば気軽にコメントください。


新日本
トーマツ
あずさ
あらた

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