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辞書になった男 ケンボー先生と山田先生

 少し考えれば、すぐにわかりそうなものなのだが、いままでずっと気付かなかった。
 現在、日本で一番売れている国語辞典である、新明解国語辞典の名前のことだ。
 新明解国語辞典が世に出る前に、明解国語辞典というものがあって、その新装版だから、「新」がついているのだ。
 本書「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」を読んで、初めてそのことを知り、自分の鈍感さに対して、なんともやるせない気がした。
 その辞書、戦後の辞書市場を独占するほど売れた明解国語辞典を作ったのが、見坊豪紀と山田忠雄という辞書編纂者だった。
 その後、二人はあることを境にして袂を分かち、見坊豪紀は三省堂国語辞典、山田忠雄は新明解国語辞典と、それぞれ別の道を歩むことになるのだが、いったい、両者の間にはどのような行き違いがあって、結果、仲違いしてしまったのか。
 その謎を探る鍵は、思いもよらない場所にあった。それは、新明解国語辞典第四版で記述されている、【時点】の用例だ。

 【時点】「一月九日の時点では、その事実は判明していなかった」 (『新明解』四版)

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