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幸せのいし(脚本)

*このお話はシナリオセンター課題を編集したものです

ー登場人物ー
岩井紀子(32)専業主婦
岩井沙百合(67)ホームレス
岩井秀人(35)サラリーマン
岩井睦(11)小学5年生
お巡り

○岩井家・前(夕)
岩井家を挙動不審に見上げるホームレス姿の岩井沙百合(67)。
緊張した面持ちの沙百合、震える手でインターホンに手を伸ばす。

睦の声「お前、誰?」

沙百合、振り返ると怪訝な目の岩井睦(11)。

沙百合「あ、あ、あの・・」
睦「分かった。お前、空き巣だろ?」
沙百合「ち、違う!」

沙百合、睦に詰め寄るが避けられる。
睦、スマホを取り出し、撮影しながら、

睦「キモ!お前見たいな負け犬、警察に突き出してやるよ」
沙百合「ああああああああ!」

沙百合、睦を突き飛ばし走り去る。
玄関が開き、岩井紀子(32)が出てくる。

紀子「どうしたの?大丈夫?大声聞こえたけど」

睦、起き上がりながら、

睦「別に、汚いババアが居たからディスっただけ」

紀子、睦に駆け寄り、睦をこづく。

紀子「こら、もうお兄ちゃんの口真似しないの!」
睦「ってぇー!これあげる、公園で遊んでくるから」

睦、紀子にランドセルを渡し、走り去る。

紀子「あんまり遅くならないでね〜」

○公園内・茂み(夕)
薄暗い茂みにしゃがみ込む沙百合。

沙百合「どうしたらいいの。もう少しだったのに。あんな子供に邪魔されるなんて」
睦の声「なんだよ。誰もいねーじゃんか!」

沙百合、茂みから顔を覗かせると、ベンチで退屈そうにスマホを弄る睦。

沙百合「あいつさえ、あいつさえ・・」

恨めしい表情で足元にあった石を握る沙百合。

        ×   ×   ×

茂みの中でスマホを石で割る沙百合。
石には血痕が付いている。
横たわる睦。
沙百合、MUTUと刺繍された財布を見て、ニヤリと笑う。

沙百合「最初からこれで良かったのよ」

○岩井家・玄関(夜)
ドアが開き、スーツ姿の岩井秀人(35)が入ってくる。

紀子の声「おかえり睦!」

紀子が飛び出してくる。

紀子「あなた・・」
秀人「どうした?そんな血相変えて」
紀子「それがまだ睦が帰ってないの」
秀人「え?」

秀人、スマホを取り出し、
秀人「帰ってないって、もう21時だぞ?今日塾でもないだろ?」
紀子「遊びに行くって・・、私探してくる!」
秀人「俺も行く!」

秀人・紀子、慌てて出ていく。

○駅前大通り(夜)
必死に睦を探す秀人・紀子。

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
コンビニの中を覗く秀人。

   ×  ×  ×
   (フラッシュ)
塾から出てくる子供たちを必死に見分ける紀子。

   ×  ×  ×
改札から出てくる人の波を見つめる秀人・紀子。
次第に改札から出てくる人がまばらになっていく。

秀人「ダメだ。どこにもいないじゃないか」
紀子「睦・・」

紀子、泣きながら崩れ落ちる。

秀人「紀子!」

紀子を抱き抱える秀人。

秀人「警察に行こう。これ以上俺たちで探してても埒が明かない」

紀子、泣きながらうなづく。
秀人、紀子を起き上がらせる。

○駅前交番前(夜)
紀子を抱き抱える秀人。

お巡り「どうかなさいましたか?」

二人に気づき、交番から顔を出すお巡り。
二人の後ろをカートを押しながら、通り過ぎるフードを被る沙百合。

秀人「あのですね・・」
紀子「ちょっと待ってください!」

沙百合に駆け寄る紀子。

紀子「おばあさん、これ!これどこで拾ったんですか?」

紀子、カートに載せられた財布を拾い上げる。

沙百合「これは私の財布だよ」

紀子、財布を指差し、
紀子「でも、ここ!M・Iってイニシャル!これウチの子の財布です!ねぇ、答えて、これどこで拾ったのよ!」

掴み合いになる沙百合と紀子。

沙百合「やめて〜」
秀人「え・・?」

フードが脱げる沙百合を凝視する秀人。

紀子「ねぇ、あなた何ボーッとしてんのよ!ねぇ!」
お巡り「二人とも落ち着いてください」

交番から飛び出して、二人を止めに入るお巡り。

秀人「勘違いだ。そんなことあるわけない」

秀人、紀子の腕を掴み、連れ去る。
沙百合、秀人に気づき、ハッとする。
お巡り「え、ちょっと!」
紀子「待って、あなた、あなた!」
茫然と固まる沙百合。

○岩井家・食卓(夜)
紀子「なんで!ねぇ、なんで?あれは絶対睦のだったのよ!」
座っている秀人は無反応。
机を叩き、
紀子「睦のことが心配じゃないの!?」
秀人「・・母さんだった」
紀子「え?」
秀人「子供の頃、蒸発した母さんだった」
紀子「何?今こんな時に何を。それに死んだって!」
秀人「嘘ついてた。確かに、あれは睦の財布だ。でも、俺の母さんだぞ・・」
紀子「そんな・・」
秀人「関係ない!たまたま、たまたまだ。きっとそうなんだ!」
秀人、泣きながら目が血走っている。
紀子、秀人の異様さに息を呑む。
紀子「でも、あの人がお母さんって確証は・・」
秀人「(声を荒げて)俺は息子だぞぉぉ!」
紀子「あなた可笑しい。あの人、絶対何か知ってるんだよ!」
秀人、紀子に掴みかかる。
秀人「証拠もないだろ!」
紀子、秀人を押し除け、
紀子「私はあの子の母親なの!」
紀子、部屋を飛び出す。
玄関のドアが開閉する音。

○公園(夜)
紀子「どこよ!!」
鬼の形相で辺りを見回す紀子。
カートを押す音。
紀子、音のする方へ行くと、ベンチに座る沙百合。
紀子「見つけた」
秀人の声「証拠もないだろ!」
紀子「そうだわ。証拠がない。まだ・・」
歯軋りして、沙百合を睨む紀子。

○岩井家・リビング
T・3ヶ月
ソファに座り、スマホで家族写真を見
る疲弊しきった秀人。
スマホに紀子からの着信。
秀人、慌てて電話に出る。
秀人「もしもし紀子?今どこに!」
紀子の声「あいつだった。あいつが殺したの。仲間に言ってたの。今のガキは金を持ってるって。だから、殺すの。公園よ、逃げないように手伝いに来て」
電話が切れ、秀人部屋を飛び出す。 

○公園
沙百合を見つけた秀人が走ってくる。
秀人「母さん!」
沙百合「秀人!」
秀人「紀子は?」
沙百合「紀子?誰だい、それ」
秀人「来て!逃げなきゃ、殺される」
沙百合「どういうことなんだい。説明して頂戴」
紀子の声「説明?そんなのいらないでしょうよ」
秀人と沙百合が振り返ると、石を握るホームレス姿の紀子が立っている。
紀子「私、全部聞いたんだから・・全部」
秀人「紀子・・」
紀子「私の子供殺してんじゃないわよ。・・・死ねよ。私の幸せ、奪ってんじゃないわよ!」
紀子、石を振りかざす。
石が当たる鈍い音。

おしまい。

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