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右肩上がりのスクラップ・アンド・ビルド<書籍「郊外を片づけるー住宅はこのまま亡びるのか」からの問題提起>

1-2 右肩上がりのスクラップ・アンド・ビルド

戦後、日本の住宅地は激しく消長を繰り返す。
住宅は、築後数十年を経ずに解体される。
そして再びそこに新しい住宅が建設される。
それを繰り返すことに誰も疑問をもつことがない。

しかし、これは決してこの国の長き伝統であるはずはない。
戦後に作られたたかだか数十年の「習慣」であろうと思う。
過去、私たちの祖先が各世代ごとに住宅をつくるほどの富を持っていたとは到底考えられないからだ。

そしてそれによる結果は世界的に見ても非常に珍しい光景であると一度冷静に考えるべきであろう。
この国の住宅地その景観の特異さはファベーラと肩を並べる異常なものといえるのではないかと。

日本の戦後70 年間の累計住宅建設戸数は7500万戸、今日住宅寿命は30年ほど(減失住宅の平均築後年数の国際比較よると32.1年)という。
スクラップ・アンド・ビルドは、終戦直後の住宅がバラックといっていいほどの粗末であり建て替えが必然であったことをその出発点とするのであろう。
そしてその後の経済成長がそれを加速、極端な人口増加もそれを後押しする。
一時年間住宅着工戸数は200万戸(1972年前後)に迫ることさえあった。

住宅着工戸数

出所:国土交通省「建築着工統計調査」より作成

右肩上がりの社会の中で都市はスプロールし、田園を市街地とさせてきたが、ご存じの通り今日に至り都市は急速にシュリンクし、人口は急速に減り始めている。

今後人口は2060年までに4分の3に減少し、約9300万人まで激減するという予測がある。
ピーク時( 2008年) の人口1億2808万人の7割だ(ピークの1/2になるのは2090年ごろ)。
結果、今日から15年後の2035年頃には空家率が30%前後になると予測(野村総合研究所の予測)もされる。

これはすでに始まっていることであり遠い将来のことではない。既に現状の空家の総数は849万戸超、全戸数の13.6%にも及ぶ。

空き家シミュレーション

出所:野村総合研究所「2040年の住宅市場と課題」


その状況でなおつくり続ける、なおスクラップ・アンド・ビルドを繰り返すことの愚かさ、そしてそのことの「もったいなさ」に私たちは気付かなければなるまい。
後世、とはいっても直近の将来の人びとに、大量の空家や廃墟を残したままというのは、「何をしてくれたのか」と次世代が思うのは当然のことではないか。

こんな廃墟のような風景をつくったまま我々世代がいなくなる、いかにも無責任だといえないだろうか。
今日の制度、習慣、つまり、ひとりひとりの「私」による住宅生産の結果に現れるであろう無数の空家廃墟、そしてそれらがつくり出すであろう荒廃した風景、これを片づけるのはひとりひとりの「私」わたしたちによるよりほかに方策はないはずなのである。

戦後の住宅不足の末にいつの間にか、私達は"私"による私の家の建設と破
壊、そのために住宅は世代ごとにつくられてきた。
習慣となった持ち家制度、誰もが抱えることを不思議と考えることのない35年の住宅ローン、それにより、果たして私たちの暮らしは豊かになってきたのであろうか、考え直す時であろう。
むしろその逆ではなかったのかと。

短いサイクルでの住宅消費、スクラップ・アンド・ビルドは経済に大きな貢
献を果たす。
しかし、それは私たちに過大な経済的負担をもたらすものであることはいうまでもない。
しかもこの巨大な建設投資が大きな環境的な負荷となることも容易に想像がつく。

木造住宅1棟分の廃棄物の重量は約48tになる。
これを30年で償却除却すると考えれば、木造であっても30年の間1日当たり4.4㎏の廃棄物を出し続けた計算になる。

解体現場

生産から解体までの経済的負荷をライフサイクルコスト(LCC)、その間の
トータルのCO2発生量をライフサイクルCO2(LCCO2)という。
住宅にももちろんこれは当てはまる。

つまり住宅の経済的負荷、発生するCO2の総和は建設時、使用時、解体時のそれの和である。「建設時」と「解体時」のCO2なりコストはほぼ一定である。
と考えれば、LCCなりLCCO2を削減するには「使用時」を極力長くする、これ以外に住宅が環境的な貢献をする術はない。


※今後もβ版の原稿をこのnoteで公開していきます。
住宅専門紙「新建ハウジング」を発行している、私たち新建新聞社では、建築家・野沢正光さん(野沢正光建築工房)に執筆いただき、書籍「郊外を片づけるー住宅はこのまま亡びるのか」の発刊準備を進めています。その一部(第1章〜)をこのnoteでβ(ベータ)版として公開、「郊外の問題をどう考えどう片づけるのか」、さらには「住宅はこのまま亡びるのか」といった大きなテーマの問題提起としたいと思っています。そのなかで頂いたご意見も反映しながら書籍を完成させていきます。

公開済みの原稿
1章 住宅は個人のものだろうか
1-1 風景への疑問

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